わたしとあなた
ばつ
第1話
「ねえ、これの続きは?」
「そこの本棚にあるよ、好きに読みな」
「あなたに取ってもらいたいの」
「はぁ…ほら、これで良いか?」
「ありがとう。これは戻しておいてくれるかしら?」
「はいはい、了解です」
いつもの日常。大好きなあなたと過ごす、幸せな毎日。
産まれた時から一緒だった。
どんな奇跡か、同じ日に産まれ、住む場所も近く、両親同士も仲が良い。
そのおかげで物心がつく前から一緒に育ち、物心がついた後には出来る限り一緒にいようとした。
平日だろうと休日だろうとどちらかがどちらかの家で過ごし、そのまま泊まる事のほうが多く、両親よりもあなたと過ごした時間の方が長いくらい。
感情を表に出す事が苦手な私は、子供の頃から喜ぶことも怒ることも、哀しむことも楽しむこともあまりせず、両親達はよく不安気な顔をしていた。
あなただけが私の感情をすぐに察知し、一緒に喜び、怒り、哀しみ、楽しんでくれた。
私の代わりに私のことを伝えてくれたおかげで、私は両親達に心配させる事なく過ごす事ができた。
どんなにまわりの人間に揶揄われても私を大事にしてくれて、何よりも優先してくれるあなた。
そんなあなただから、私はあなたをどんどん好きになっていった。
どうやら私の容姿は優れているようで、中学生になった頃から告白というものをされるようになった。
あなたよりも素敵な人なんて見た事がなかったから、告白されるたびにあなたの名前を出して断っていた。
たまに、あなたを悪く言う人もいる。
そんな人が現れ機嫌を悪くしていると、あなたはすぐにそんな私に気が付き、好きに言わせておけば良い、お前が代わりに怒ってくれるから俺は笑っていられると言ってくれる。
「ねぇ」
「なんだ?」
「好きよ」
「ああ、俺もだよ」
あなたと2人きりの時間が好き。
あなたといると、陽だまりの中でお昼寝をするような、心地良い穏やかさを感じられる。
「ねえ、今日も一緒に寝ましょう?なんだかそんな気分なの」
「いつも一緒だろ。そのうち襲ってやるからな」
「ふふ、あなたが相手なら、いつでも良いのよ?」
「少なくとも今日ではないかな。ほら、母さんが呼んでるよ。夜ご飯の時間だ」
「なら早く行かないとね。ナニしてたんだって言われてしまうわ」
あなたの次に大切な両親達。
あなたと2人の時間も大好きだけれど、両親達と過ごす時間もとても好き。
「今日のご飯はなんだろうな」
「高校の入学祝いだって、張り切っていたわよ」
「それは期待できそうだな。ほら、早く行くぞ」
「そんなに慌てないの。いつまで経っても子供なんだから」
「子供なのはそっちもだろ?1人じゃ寝れない寂しがりめ」
「別にそんな事はないわよ?ただあなたと寝るのが好きだから、一緒に寝たいだけよ」
「まあいい、ほら、俺のベッドから起きてくれ」
「起こしてちょうだい?」
手を伸ばせばその手を取り、優しく起こしてくれるあなたが好き。
そのまま抱き付き、あなたの温かさを、匂いを、優しさを堪能する。
そんなわがままを受け止め、優しく撫でてくれるあなた。
後少し、もう少しと離れるのを惜しむ私に、また後でなと背中をとんとんと叩き、私が離れるのを促すあなた。
「ほら、母さんが早く来いって急かしてきてるぞ」
「しょうがないわね。今はこれで我慢するわ」
離れ際、一瞬だけ唇を合わせ、逃げるようにリビングへ向かって行く。
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