第8話

 今朝も早くに目を覚まして、あなたの寝顔をじっと眺める。


 開いていると鋭い目付きは閉じられていて、意外と長いまつ毛にきゅんとする。


 そっと顔を近付ける。


 あとほんの数センチで、唇同士が触れ合ってしまう。


 すごくどきどきして、体が熱くなる。


 顔を離して、じっとあなたを見続ける。


 どれだけ見ていたって飽きることのない、私の幸せな時間。


 そんな幸せな時間にも、終わりがくる。



「おはよう」


「おはよ」



 ゆっくりと開く目。


 寝起きでとろんとした目や掠れた声が、私をどきどきさせた。


 幸せな時間が終わったと思ったらすぐに次の幸せな時間がやってくる。


 あなたとの時間は、全部が幸せな時間だ。


 ぎゅっと抱き付いて、あなたを感じる。



「今日も甘えん坊だね」



 寝惚け眼で微笑んで、私を撫でてくれるあなたが好き。


 もう一度ぎゅっとあなたを抱き締めて、私は起き出す。



「おはようございます、お義母さん」



 私のもう1人のお母さん。


 大好きなあなたの母親。


 一緒にお弁当と朝食を作っていく。



「おはよ」



 あなたが起き出してきた。


 私たちの方をぼーっと見ている。



「ほら、朝ごはんよ」


「うん」



 可愛過ぎてつらい。


 あなたの横に座って、一緒に食べる。


 食べてるうちにしっかり起き出したのか、いつも通りのあなたになっていく。



「「ごちそうさま」」



 一緒に食べ終わり、少しの時間をのんびりと過ごす。



「今日は身体測定があるから、体操着を持って行くのよ」


「めんどくさい」



 見た目とは裏腹に運動全般が苦手なあなたは、身体測定と聞いて嫌そうな顔をする。



「頑張ったら今日の夜ご飯はあなたの好きなものを作るわ」


「それなら頑張る」



 子供のような理由で頑張ろうと思ってくれる可愛いあなた。


 怪我だけはしないでほしい。



「俺もお前みたいにスポーツ万能になりたかった」


「私はあなたみたいに社交的になりたかったわ」



 結局はないものねだりで、自分の中にあるもので頑張るしかない。


 運動も勉強もできる私だけれど、圧倒的な人付き合いの下手さのおかげてコミュニティに馴染めない。


 あなたは運動はできないけれど、勉強はできて、社交性もあって、かっこよくて、運動ができないことすらも、完璧よりは欠点があるほうが親しみやすいよなと、みんなから慕われる。



「そろそろ行こうか」


「そうね」



 うじうじと思考の渦に囚われそうになっていると、自然に声をかけて私を現実に引き戻してくれる。



「「行ってきます」」



 今日もいい天気だ。


 この空模様のように私の心も晴れ渡ってくれたら良いな、なんて思いながら、私はあなたと2人学校へ向かう。

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