日本橋の切り裂きジャック・中編
Side 闇乃 影司
=夜・雑居ビル二階・メイド喫茶ストレンジ=
「二番目、三番目の事件は同じ犯人——そう言いたいんだな?」
「ええそうです——」
カウンター席で座ったまま、前嶋刑事は驚いたように言う。
「二番目と三番目の事件は同じ犯人の手による物だと?」
「はい」
「そうか——その前に俺の推理を聞いて欲しい」
そう前置きして推理を語った。
「第二の亡くなった被害者は男にダラしない女らしくてな。スマホの通話履歴を観たら出るわ出るわ——それで言い争いになって、刺されたと言う感じだろう」
「成程」
「だから警察はその複雑になっている人間関係を当たって捜索している。逮捕も時間の問題だろう」
そう言ってノンアルコールビールが入ったグラスを口に含む前嶋刑事。
「三番目のメイド喫茶のメイドを狙った犯行だが——そのメイド喫茶、いわゆるぼったくりバーでな——容疑者が多すぎるんだよ」
「ええ」
ぼったくりバーとなっているメイド喫茶はあるにはある。
それを警戒してか、日本橋に長く通っているオタクでもメイド喫茶に行ったことがないオタクもいる程だ。
だからこそ恨みがある人間は大勢いる。
「実はな、三人目の事件の方は犯人が自首してるんだが……」
「その言い方だと真犯人がいるみたいですね」
「ああ、だから報道を控えて慎重に取り調べをしている。若い刑事も言ってたよ——アレが真犯人だと思うんなら警察学校をやり直した方がいいってね」
そこまで言い切るとは余程嘘が下手な偽の犯人なのだろう。
「つまりこの事件を大事にしたくない組織がいるってことですね」
「まあな。正直今の日本橋は何処でどんな反社会組織が関与しているか分からん状態だ。俺の前の相棒が半グレ組織に関与してたみたいにな」
「……」
前嶋刑事の前の相棒は半グレ組織に関与していた。
そして前嶋刑事の手で捕まった。
嫌な事件である。
「まったく、人が頑張って捜査しているのに、無関係な連中が捜査を複雑にして大事件にしやがる——」
「ええ、まったくですね」
今の状況に前嶋刑事は怒りが湧いているようだ。
「SNSも考えもんだ。俺もまさか、言葉のやり取りで人を殺せる時代になるとは思わなかったよ」
SNSは確かに便利だ。
だが毒にも薬にもなる危険なツールでもある。
実際SNSでこれまで多くの人間が破滅し、自殺の要因にもなった。
前嶋刑事が今の時代を恐ろしく感じるのも無理もない。
「話を戻すか——今回の事件、突き詰めるところ二番目と三番目の事件を早急に終わらせて四番目の発生を阻止する事だと俺は考えている。長引くとマスコミが待ち望んでいる四番目が起きる可能性が出て来る」
「ええ」
マスコミはどれだけ死人がでようが視聴率さえ取れれば何でもする人種だ。
四番目の殺人は必ず起きると言う空気を煽っている今の現状はとても危険だし、それを自覚してやっている節すらある
SNSも似たような空気だ。
このままだと時間が長引くにつれて四番目の殺人、【三人目】の切り裂きジャックが出かねない。
「で? 話が逸れたが——君は何かを掴んでいるか?」
「実は二つの事件にはある共通点があるんです」
「共通点?」
「その様子だとまだ掴めていないようですね」
「ああ——出来れば聞かせて欲しい」
前嶋刑事は興味津々な様子だった。
「実は犯行時間と思わしき時間に同じスマホの持ち主が二つの事件の発生時刻にいたようなんですよ」
「なんだと!?」
僕はその気になれば何だって調べられる。
まあ紙媒体にされていたり、既存のネットワークから切断されていたら無理だが。
それはともかく僕にとってスマホを持ち歩くと言うのは発信機を持ち歩くのと同意義だ。
「それでそのスマホの持ち主は誰か分かったのか?」
すると何やら車が店前で止まる音をした。
急ブレーキだ。
防弾ガラスのせいで聞き取り辛くはあるが、耳に入った。
☆
=夜・メイド喫茶ストレンジ・店前=
僕は勘に従って慌てて外に出た。
前嶋刑事ま慌てて何事かと後ろについていった。
同時にストレンジの周辺の街頭や店の明かりで照らされたカラスが飛ぶのが目に入った。
それの後を追う。
刑事には悪いがこの場を任せる。
若い女性の死体。
刺された遺体が転がっていたのだ。
それよりもT字路を左へ―—オタロードの反対側へと逃げていく黒い犯人の車両が目に見える。
カラスも追いかけて自分も追いかける。
☆
=夜中・某埠頭=
辿り着いた場所は海が見える埠頭。
車が一台海に落ちたところだ。
そして代わりの車に犯人が乗り換える。
それを遠くから顔をバッチリと撮影した。
「前嶋刑事? 位置情報を送ります——それと犯人のスマホを探ったら面白い事が分かりました」
『何が分かったんだ?』
「この事件の真相ですよ。それと喫茶店では話すタイミングを逃していましたが——繋がっていたんです。二番目と三番目、そして先程起きた四番目もね」
と、僕は言った。
『なに!? それは本当か!?』
「ええ、そうです。全部一本の線で繋がっていたんですよ、この事件は——ただの連続殺人事件じゃない。とんでもない大事件です」
『勿体ぶらずに一から説明してくれ』
「分かりました」
そう言いつつ僕は追跡を続行。
事件の実行犯たちのスマホに遠隔ハッキングを行い、更なる情報を収集する。
この日本橋の切り裂きジャック事件は佳境を迎えようとしていた。
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