日本橋の切り裂きジャック・後編

 Side 闇乃 影司

 

 =夜中・高速道路=


 大阪日本橋に舞い降りた現代の切り裂きジャック事件。

 マスコミが煽ったこの事件は4人目の犠牲者が出てしまった。


 4人目の犠牲者は女性ジャーナリスト。

 四十代。

 この事件を追っていて消されたのだろう。

 死因は刃物による殺傷である。


 現在僕は空中を黒い戦闘機のような形態になって赤い車を追跡している。


 カラスはもう一方の方を追跡していた。


 Side 前嶋刑事


 =夜中・某埠頭にて=

 

 現在は大捕り物の真っ最中だった。

 四番目の事件を引き起こした関係者は妙に賢いカラスの御陰で捕まえられた。

 海に捨てた車は後回しだ。


 埠頭は殺害現場に使われたらしく、偶然後始末を任された連中と鉢合わせして殺人の重要参考人として逮捕した。

 

 だがそれよりも気が掛かりなのが全ての事件が一本の線で繋がっていた事だ。

 一番目の事件も、二番目も三番目の事件も全部別々の事件。

 そう考えていた。


 しかし違った。

 

 二番目から四番目の、事件の黒幕は同じだったのだ。


 その黒幕を逮捕するために、俺は自分と同じぐらい年季の行った車を走らせる。 


  

 Side 闇乃 影司

 

 高速道路で逃げた犯人は関西空港に辿り着いた。

 そこで警察達の待ち伏せに合い御用となった。

 僕は大阪日本橋に戻る。

 4人の犠牲者を出したこの事件を終わらせるために。

 真犯人を追い詰めるためだ。


☆ 


 Side 前嶋刑事


 =車内=


 スマホを通話中。

 音量も最大限にしておいてひたすらに車を走らせる。

 そして事件を整理する。

 

 この事件は想像以上に闇が深かった。

 闇乃 影司少年の助力がなければここまで辿り着けなかった。

 いや、別々の事件として処理していたかもしれない。

 

 まだ容疑者の段階だが——犯人は大阪府の議員とその娘だった。


 推理通り一番の事件は警察の想像通り、ただの通り魔的犯行だった。

 

 そして二番目と三番目の事件は同じ人間が起こした。

 犯人は議員の娘だった。


 そして俺と影司君の目の前で起きた四番目。

 死体遺棄に雑な手口。

 ここで犯人は致命的なミスを犯した。


「二番目と三番目の事件は議員の娘、四番目の事件は二番目と三番目の事件の真相を追っていたところを消された——偽の犯人に全ての罪を擦り付けるためにな」


 議員さんの娘さんはいわゆるシリアルキラーだったのだろう。

 だが事件は大事になってしまった。

 しかしそれを大胆にも利用しようとした。

 それが大きな失敗だった。


 =夜中・タワーマンション前=


 キィと音を立てて急ブレーキ。

 タワーマンションの玄関の前には黒服のガードマンらしき人物たちがいた。 

 玄関前に複数台の車を挟み込むようにリムジンが横付けされている。

 

「そいつらはカタギじゃない!! 殺し屋だ!!」


「ちっ!!」


 影司の叫び声が聞こえて俺は慌てて車から降りて離れた。

 鈍い銃声が響き渡る。

 俺を追跡してきたマスコミ連中も他の刑事達も慌てて急ブレーキする。


「サプレッサー付きの銃——殺し屋までいやがるのか!?」


 そして黒服の連中は全員呆気なく——超人染みた身体能力を持つ闇乃 影司が殴り、蹴り倒す。

 再び姿を消す闇乃 影司。


 俺は慌てて建物内部に突入する。

 手に持ったスマホから『最上階です!!』と言って遠くから、上の方で鈍く窓ガラスをぶち破る音がした。



 Side 闇乃 影司


 =夜中・タワーマンション・最上階=


 ギリギリセーフだった。

 議員が議員の娘を殺そうとしたのだ。

 証拠に議員の手にはナイフが握られている。

 まだ20代前後の娘は怯えたように尻持ちをついていた。


「あああ、ありがとう」


「追い詰めた」


「え?」


「観念するんだ、日本橋の切り裂きジャック!」


「わわ、私、殺されようとしていたのよ!? なのになんで私が犯人扱いされなきゃいけないのよ!? 犯行は全部このクソ親父よ!! 私は悪くないわ!!」


「言い訳は警察を相手にするんだな」


 そう言って議員の娘を魔法で相手を眠らせる。

 そしてぶち破った窓から飛び去った。

 


 =数日後=


 日本橋の切り裂きジャック事件の真相は連日報道されていた。

 不可解な点はあるらしいが、僕は大手柄として表彰され、その裏で注意をされた。

 

 マスコミにもネットにも綺麗すぎる、美しすぎる名探偵だの現代のシャーロック・ホームズ呼ばわりされた。

 本当は何でも屋なのだが。


 依頼人であるメイド喫茶ストレンジの店主から報酬も受け取る。

 谷村君は「こんな時もあるよね」と依頼金を前金含めて店主に返したらしい。


 前嶋刑事は事件後、彼方此方奔走している。

 この人も大手柄だが「可愛いいホームズさんが解決してくれた」と周囲に言いふらしている。


 =昼・メイド喫茶・ストレンジ=


 メイド喫茶ストレンジは軽いお祝いパーティーの状態だった。

 また売上金の一部を町に寄付するつもりらしい。 

 僕も同じように寄付しようと思った。


「さて今回の事件を纏めよう——」


 カウンター席に座っている僕の横には仕事が一段落したのか前嶋刑事がいた。

 今はコーヒーを飲んでいる。


「今回の事件は一件目は完全に別件だった。だが二番目と三番目は議員の娘がやった。自首した犯人は議員が用意した偽の切り裂きジャック——」


 前嶋刑事は「ここまではいいな?」と尋ねて来る。

 僕は「うん」と頷いた。


「誤算だったのがマスコミが切り裂きジャックの事件と騒ぎ始めたからだ。そして悲劇が起きる——4番目の犠牲者だ」


「本来の計画ではたぶん4番目の犠牲者も、誰かを適当に真犯人に仕立てあげるつもりだった。そして5番目の被害者は議員さんの娘になる筈だ」


 補足するように僕が説明する。


「そうだ。それで娘を何処かに野ざらしにして、娘を失った悲劇の犠牲者を演じるつもりだったんだろう、あの親は——何の罪もない人間を殺人鬼に仕立て上げて」


 そこまで語り終えて前嶋刑事は頭を抱える。

 

「事件の後も忙しかった。何しろ犠牲者は4人だけにとどまらなかったからだ」


「ええ、まさか二人以外にも殺していたなんて——」


 議員の娘さんは二人だけでなく大阪日本橋以外でも人間を殺めていた。

 人間を殺したがる病気のようになっていたらしい。

 そうなってしまったのはなまじ、裏社会と関りがあり、伝手もあった親にも責任があるだろう。

 

 過去の行方不明者リストや捜索届を片っ端から当たっているらしい。


「そして4番目の事件、俺達が遭遇したあの事件だ——好奇心猫をも殺す、ミイラ取りがミイラになる——その通りになってしまった」


 そう言って、コーヒーを口に含むj。


「犯行現場は車を捨てた埠頭でだ。ご丁寧に裏社会の人間を雇って証拠隠滅を図り、全員が逮捕された。これも君の御陰だ」


「……」


「そして第5の事件は君に阻止された。罪のない誰かが真犯人に仕立て上げられる事も阻止できた」


 前嶋刑事は「感謝する」と述べてこう言った。


「複雑な気持ちだろうが、君の御陰でこうして巨悪の存在が暴かれた。法の裁きを受けさせる事も出来た。あの時、助けてくれなければ俺は死んでいたかもしれない。本当にありがとう」


「どういたしまして——あの親子はどうなるんですか?」


 前嶋刑事は天井を見上げた。


「そこは法のみぞ知ると言う所だな。死刑か無期懲役か、はたまた精神的なアレコレで有耶無耶にされるか」


「そうですか——あっ最後に謎が一つだけ残ってます?」


「謎?」


「どうして死体をメイド喫茶の前に遺棄したんでしょうか?」


 前嶋刑事は得心がいったように「ああそれか」と返す。


「あの議員、どうやらマスコミを巻き込んで金儲けを企んでたらしくてな。この大阪日本橋をスリルあるお化け屋敷か何かにしようと考えてたらしい」


「そんな事を——」


「現代の切り裂きジャック。犯人は見つけるのは君だ!? とかキャッチフレーズとか考えていたらしい。他にも警察の上の方と吊るんで適当な犯人をでっち上げて、自分の都合のいい人材に逮捕させようとか——ここまで真っ黒だといっそ清々しさを感じるよ」


「うわ~」


 この事件、想像以上に闇が深いらしい。


「まあその目論見も、謎の正義の味方の御陰で明るみに出てしまったからな?」


「はは——」


 僕は乾いた笑い声を挙げる。


「だけど——芋づる式に調べれば調べる程に被害者や逮捕者が増えるのは勘弁してほしいな」 

 

 そこまで語り終えて「俺は仕事があるんでな」と立ち上がり、最後にこう一言。


「またな、かわいいホームズさん」


「ええ」


 不思議と悪い気はしなかった。

 父親がいたらこんな感じだったのだろうかと思う。

 そうして僕は一曲披露するためにメイド喫茶内に設けられた舞台に上がる。


 こうして日本橋の切り裂きジャック事件は幕を閉じた。

 

 だが前嶋刑事にとってこの事件が終わるのはまだ先なのだろうと思う。

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