T中学校・飛び降り自殺事件・前編
Side 闇乃 影司
=朝・T市・T小学校、T中学校・正門近く=
T市。
時たま訪れるI市と同じぐらい、日本橋からは離れた場所だ。
I市からもT市までは自転車でいけなくもないがキツイ距離だ。
T市は目立った特徴もない普通の街だ。
近くに運動場が広い小学校と中学校が向き合うようにあるぐらいか。
そのためか互いの学校の正門の距離もそんなに離れていない。
あと、田んぼなども目につく。
田舎でもないが、都会でもない。
そんな感じの町だ。
今僕はそこにいた。
勿論観光ではなく仕事でだ。
T市から日本橋に行くには電車では乗り換えの手間が掛かるにも関わらず、大阪日本橋の事務所まで出向いて依頼をしに来た中学生の少年がいたのだ。
名を新島 つとむ。
眼鏡を掛けて中学生にも関わらずこの大阪日本橋と言う町に毒された感じのオタクな少年だ。
それに大阪日本橋は切り裂きジャック事件のせいでちょっと居づらくなったのもあるし、興味本位がてら依頼を引き受ける事にした。
(しかし外国人の姿が目立つな——)
超少子高齢化の影響か、外国人の子供の登校風景も目立つ。
正門には教師や警備員の姿もあり、おはようと声を掛けて回っている。
小学校、中学校の両方の正門前のそんな感じだ。
そして警察のパトロールやボランティアの姿もある。
「ねえアレって?」
「日本橋の切り裂きジャック事件を解決したって言う!?」
「本物の名探偵!?」
「嘘でしょ!?」
「本当に女の子みたいだ! 綺麗~!」
などと言う黄色い声も聞こえてきた。
本当は探偵じゃなくて何でも屋なんですけどと返すつもりはなく作り笑いを作って手を振っておく。
変装してくればよかったなとか思う反面、こう言う時人気者は不審者扱いされずに済むので楽だと思った。
今年16歳の青少年が平日堂々と小学校、中学校をブラつくのはおかしいし。
すると警官の方がやってきた。
「念のためお尋ねしますがどのような用件でこの町に?」
「依頼がありまして——それ以上の事は——」
「もしかして最近この中学校で話題になった自殺事件の事ですか?」
自殺事件の真相を暴いて欲しい。
それがつとむ君の依頼だった。
自殺した場所は学校の教室からの飛び降りだった。
捜査も早々に打ち切られており、自殺として片づけられた事件だ。
自殺が起きたのは世間が日本橋の切り裂きジャック一色であり、今もその事件の続報が続いている、いわゆる祭り状態の真っ只中。
そのせいもあるんだろうが、学生の自殺事件は日常化してしまっているところがあるのだろう。
それ程騒ぎにならず、世間から忘れ去られようとした。
亡くなったのは草壁 れいこさん。
今年受験生の中学3年生。
死因は夜中に校舎に入ってからの落下による自殺。
発見したのは警備会社の人間だった。
すぐさま通報された。
「その事件には深く関わらない方が——」
「どう言う事です?」
僕は疑問に思って尋ね返した。
「そ、それは——とにかく自分はこれで。あまりこの場に留まらない方が。騒ぎになりますので——」
「そうみたいですね」
警察官の言う通り、周りに自分を中心とした人だかりが出来ていた。
一旦この場を後にする。
☆
=昼・T石中学校・図書室=
T中学校に潜入して色々と調べる。
流石に授業中の教室とかには忍び込んでない。
光学迷彩で空中を浮遊しながらアレコレと調べた。
別の校舎への通路などだ。
そうして地形情報を頭に叩き込んで——依頼主である新島 つよし少年と接触を図る。
場所図書室の準備室。
狭くて空調が聞いておらず、本の古い臭いでむせ返っている。
今はまだいいが夏場にこの部屋には御免こうむりたいところだ。
「うわ!?」
「声が大きい」
光学迷彩を解いて現れただけだから何時の間にか現れたように見えたのだろう。
驚かせたようだ。
手を塞いで人差し指を立ててシーとする。
少し間を置いて、手を離す。
「ごめんなさい。どうやって学校に潜入したんですか?」
そこは「企業秘密だ」と言っておき本題に切り出す。
「しかし君達、事務所でも言ったけど変わってるね——同じ学校の、それも無関係の先輩の無念を晴らそうだなんて」
「ええ、俺″達″はそう言うの許せないんです」
「正義感に溢れてるのは良い事だけど——」
「分かってます」
「……忠告はしたからね。本題に入ろう——草壁さんについてだ」
「ええ、妊娠した草壁さんをどうにかしようと俺達は色々と考えていた矢先に自殺して——」
と、悔しげにつとむ君は語った。
「そうか。実は自殺した場所に足を運んだんだけど——」
「何かわかったんですか?」
「その前に確認だが自殺して飛び降りたとされる場所は教室で屋上ではないんだね?」
「は、はい——え? どうして屋上が出て来るんですか? 先輩が飛び降りたのは教室の筈じゃ——」
「実はこの学校で調べ物をしていた。手掛かりは毛髪と血痕だった。それを専用の機器を通して鑑定したところ、三人分のDNAが出てきた」
そしてつとむ君に見せつけるように毛髪が入った袋を見せる。
「す、凄い——」
「血痕は後で警察に言うつもりだ。犯人の一人はこの学校の関係者。そして血痕が見つかったと言う事はこれは自殺に見せかけた殺人事件だと言うことだ」
「やっぱり!」
「この話に聞く耳を立てている向こう側の友人にもこの話は伝わってるね?」
「あ、バレました?」
そう、このつとむ少年はスマホを連絡状態にして——恐らく向こう側の図書館にいる仲間達もこの話を聞いている事だろう——大胆な事をする。
僕は「まあ隠す必要もない話だからいいけど」と言って話を続ける。
「話を戻そう。三人分のDNAが見つかった毛髪だが、一人は被害者の物だろう。二人は成人男性。付け加えて言うなら成人の足跡が二つ分くっきり残されていた」
「そんな事まで——」
「さらに屋上のカギはダイヤル式だった。つまりダイヤルの番号を知っていて、この学校の地理にも詳しい人物。自ずと容疑者が絞られてくる」
そこで予礼のチャイムが鳴り響く。
「続きはまたにしよう。何処に待ち合わせる?」
「あ、今度は仲間達を誘っていいですか?」
「いいよ」
「じゃあ場所は——」
一旦つとむ君達と別れた。
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