T中学校・飛び降り自殺事件・中編
Side 闇乃 影司
=放課後・秋葉塾=
学校には警察が草壁 れいこさんの事件の再調査と言う形で現場に足を踏み入れている。
その入れ替わりに僕はと言うと——新島 つとむ君の仲間は塾を経営しているらしい。
塾と言っても実体は仲間達の秘密基地と化しているようだ。
仲間達の親御さん達は夜遅くなっても塾で頑張って熱心に勉強していると言えば問題はない。
名前がいけないのか、身内からはこの秋葉塾はオタク塾と馬鹿にされているらしい。
と、塾経営者の息子である秋葉 しんいち君が言っていた。
つとむ君の仲間達は個性豊か。
まるで児童文学の僕らの七日間戦争シリーズに出て来そうな子達だ。
放っておくと解放区と呼んでどっかに立て篭もったりしそうだ。
などと思いつつ、皆にサインをする。
切り裂きジャック事件以来、サインする機会も増えた。
それだけ有名になってしまったと言う事か。
「俺達がアレだけ知恵を捻って調べたのに——そうか、犯行現場は屋上だったのか」
活発そうな少年の八神 そうたが言う。
この少年少女のグループのリーダー格だ。
「殺人そのものは別の場所で行われた。そこで役に立ったのがスマホだ」
「スマホ?」
女の子の一人が疑問に思いながら言う。
「そう。犯人はスマートフォンを持ち歩ていた——それを調べて行く内に事件の全容が明らかになってきた」
スマートフォンを持ち歩くと言うのは位置情報を送信し続けるのと一緒だ。
そして普段屋上に立ち入らない深夜の時間帯のスマホの持ち主はスグに分かった。
「犯人AとBは別の場所で草壁さんを殺害した。恐らくだが学校、それも事故と言う形で、犯人達にとって想定外の事態だった。だから騒ぎが大事になる前に学校での自殺と言う形でだ」
「その場所は?」
つとむ君の仲間の一人が尋ねてきた。
「その場所は誰も使わない空き教室だった」
「根拠は?」
当然その事を尋ねて来る。
「綺麗すぎる」
「はい?」
「恐らく事件後にアルコールでモップ掛けまでして証拠隠滅した」
逆にそれが仇となった。
「大掃除の期間まではまだ早すぎる。念のためモップを調べたけど同じくアルコールで消毒されている、持ち手までもが綺麗すぎるモップが見つかった。さらには廊下もアルコールで綺麗に拭き取ったんだ」
それも丹念に全部。
能力を使うまでもない。
その几帳面さが仇になった。
「空き教室は普段は封鎖されている。ではその時だけ空き教室は空いていた。ねえ? 久保田先生?」
皆、えっとなって入口の方を見る。
そこには久保田先生が丁度入って来たからだ。
顔色はとても悪い。
つとむ君の仲間達はまるで殺人鬼に遭遇したかのように久保田先生から離れた。
「神経質な犯人はこうして近くで監視していたんだ。名目は様々だが、今なら僕のファンですと言う理由も使える」
「…………」
久保田先生は無言のままだ。
僕はつとむ君達の前に立ちはだかるようにして立った。
「そう言えば久保田先生、暇さえあれば頻繁に空き教室に足を運んでましたね。まあ理由は不良生徒の監視のためとか色々でしょうけど——今日は特に何度も念入りに足を運んでいた。僕のせいですね」
そう、久保田先生は何度も空き教室に足を運んでいた。
ここに来る前も足を運んでいたのだ。
それも顔色悪そうに。
「自首してください。警察も馬鹿じゃありません。時間を掛ければ誰だって分かる事です」
「違うんだ——」
何もかも、絶望したように先生がその場にへたり込んで言う。
「僕は殺すつもりはなかったんだ。だけど、産むと聞かなくて——それで——相談したんだ、アイツに」
「あいつに?」
「森崎って言う奴だ。俺はそいつに借金をしていた」
「草壁さんを自殺に見せかけるようにしたのも?」
「ええ。森崎です——事件の後始末は全部自分がやりました――」
そして久保田先生はその場に頭を抱え込み、怯えながら泣き崩れた。
「どうすればいい! このままじゃ俺はあいつらに殺される!」
「その様子を見ると森崎は裏社会の人間ですか?」
「ええ、アイツは表向きIT企業を経営していますがいわゆるフロント企業と言う奴でしてヤバイ職業の人なんです」
「そして口封じに殺されると?」
「はい。警察にも弱味を握られている奴がいるそうで——」
「成程——」
この町に訪れた時、最初に会った警察官を思い出す。
久保田先生と同じく借金して首根っこを掴まれているのだろう。
ふと塾の窓から外を見る。そこには無線機ではなく、スマホを使って何処かに連絡している不審な警官がいる。
(思ったよりも根が深い事件だな)
この事件を根本的に解決するにはその森崎と言う男を逮捕するしかない。
なので警察官と森崎との会話を録音させてもらう。
続いてIT企業についても調べる。
これが普通の探偵物ならば、後は警察に任せてもいいかも知れないが——このままでは依頼主の身に危険が及ぶ可能性も出てきた。
「その先生どうするんだよ?」
おそるおそる少年グループのリーダー格のそうた君が尋ねて来る。
「一先ず、保護する必要がある。口封じに消されたら真相は闇の中に葬られる」
「まるでドラマの世界だな」
「残念ながら現実だ。それに警察も信用できないから信頼できる警察を呼ぶ事にする」
そう言って僕は前嶋刑事の電話番号に連絡を入れた。
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