T中学校・飛び降り自殺事件・後編

 Side 前嶋刑事


 =夜・車内=


 俺は愛車にスマホを通話モードのまま置き、影司少年と連絡を取る。

 あの、かわいいホームズがまた何かやらかすらしい。


 内容は犯人の保護。

 警察内部にもう一人の犯人とグルの奴がいる以上、信用できないらしい。

  

 そしてワザワザ日本橋から俺を頼って来たそうだ。

 

「事件を纏めるとこうだな? 久保田先生は誤って草壁 レイコさんを殺害。犯行動機は赤ん坊の出産を巡るトラブル——気が動転した彼は裏社会の人間である森崎に連絡を取り、自殺に見せかけて殺害するに至った。そして警察はまんまとその思惑通りに自殺として事件を終わらせた」


 そして——


「どこかの、かわいいホームズさんがその真相を暴き、そして事件を闇に葬るために警察とグルになって久保田先生を殺す可能性も出てきたと。場所は?」 

 

『やすらぎ荘と言う小さな宿です。犯人は眠らせてあります』


 そう言ってやすらぎ莊までの道則がカーナビに表示される。

 本当にどうやってやっているのだか。

 

(あのかわいいホームズは見かけに裏腹に何でもありで末恐ろしい。谷村君とか工藤君とかもそうだが最近の十代はどうなってるんだ)


 俺は心の中で最近の十代びっくり人間の事について想いを馳せる。

 きっと今回の事件も荒事だらけになるんだろうな。



 =夜・T市やすらぎ荘=


 Side 闇乃 影司


 やすらぎ荘はつとむ君やそうた君達のもう一つの溜まり場らしい。

 ますます7日間戦争染みてきていた。

 眠らせた久保田先生はワンルームの一つに放り込んできていた。

 あの様子だと朝までぐっすりコースだろう。 


 玄関から顔色の悪い制服の警察が一人上がり込んできた。

 尾行してきた警察官だ。

 

「警察です。久保田さんはどちらにおられますか?」


「ご案内します」


 そして適当な部屋に案内し、魔法で眠らせて放り込んだ。


「普通の警察が青酸カリなんか持ち歩かないよな?」


 青酸カリで自殺に見せかけて久保田先生を殺そうとしたのだろう、この警官は。

 間違いなく森崎の手の人間だ。

 

「青酸カリって——」


 後ろでは恐る恐る少年少女やその保護者たちが此方を覗き込んでいる。

 先程まで親たちは子供たちを叱りまくっていた。 

 しかし青酸カリで口封じに毒殺を試みた警察が現れた事で事件の重大さを認識したようだ。


 遅れて前嶋刑事が現れた。


「遅くなってすまんな。状況は把握している。だがどうする?」


「森崎を逮捕するしかないでしょう」


 そして玄関から堂々と覆面の男達が二名現れた。

 手にはナイフを持っていたので片方を僕が鳩尾に一発。

 もう片方も前嶋刑事が見事な一本背負いで投げ飛ばした。


「こいつらも口封じか?」


「でしょうね——久保田先生か、あるいは警官の口封じか、両方かですね」


「全く、君と一緒にいると騒がしくてかなわんね——」


 そして玄関から外に出ると、続々とパトカーが到着した。

 

「この場は——」


「ああ。この場は俺に任せて事件を終わらせに行って来い」


「はい」


 そして僕は夜空へと天高く飛び立った。



 Side 闇乃 影司


 =森崎のIT会社のビル=

 

 IT会社とは名ばかりの会社。

 様々な会社が入っているワンフロアを借り切っている。

 そこでは逃げ支度に勤しむ森崎とその部下達がいた。


「もう来たのか!?」


 そう言って拳銃を構える森崎。

 部下達も様々な凶器を持っているが遅すぎる。

 銃声が鳴り響き、乱闘状態に陥る。 

 そして——


「何だこいつ?」


「へへへ……こういう時のための助っ人って奴さ——」


 と自慢げに言う森崎。

 僕と森崎の間に割って入るように現れたのは二足歩行で銀色の赤い一つ目の戦闘ロボットだった。 

 ただの地方の小悪党には不釣り合いの代物だ。


『目標発見。闇乃 影司。危険度最大値——』


「知っててくれて光栄だ」


 そう言って軽く蹴るが左腕で止められる。

 続いて体を回転させて側頭部を蹴ろうとしたが右腕でキャッチされ、逆に投げ飛ばされる。

 僕は回転しながらその場に着地。

 続いて頭部から赤い光線が放たれるがバク転して回避。

 その光景に嗾けてきたはずの森崎は尻餅をついて怯えている。


(あまり時間をかけるとまずい)


 そう思って俺は宙を飛び、ロボットに飛び掛かった。

 窓を突き破り、ロボットだけが落下。

 俺は勢いよく回転しながら跟落とし。

 頭部を破壊する。


『戦闘不能。自爆モードに移行します』


「!!」


 その場から離れてロボットは大爆発した。

 証拠隠滅のための自爆だろう。

 事務所の中ではなく正解だった。


(しかし誰がこんな物を——)


 謎は残る。

 大阪日本橋に現れたハイテクテロリストと何か関りがあるのだろうか?


「だがそれよりも――」


 事件はまだ終わっていない。

 森崎の確保が残っている。



 =翌日・T市やすらぎ荘=


 やすらぎ荘で事件解決を祝ってパーティーが開かれた。

 代金は僕とここにはいない前嶋刑事、そして事件に関わった両親達が出し合って開かれた。


 現在T中学校は悪い意味で話題になってしまい、マスコミの対処で追われて授業にならず休校状態になってしまった。


 T市管轄の警察署もマスコミに頭を下げる事態に発展しているらしい。

 犯罪を見抜けず、証拠隠滅のために加害者を警察が殺そうとしたのだ。

 そりゃ問題にもなる。


 森崎達は逮捕された。

 特に森崎は聞かれてもいないのに真実を洗いざらい全部話し、自分達の身の安全の保護を訴えた。

 あの謎の戦闘ロボットが関わっているのだろう。自分が関わった世界のヤバさに気付いて森崎は自己保身に走ったとみるのが正解だろう。


 あの戦闘ロボットについて一応報告はしたが、警察の上の方からストップが掛かって捜査は打ち切りなった。

 前嶋刑事にも深追いしないようにも頼んだ。

 

 テレビやネットではまた僕の事で大騒ぎになっている。


「今回の事件は無事に済んだけど——」


 と、この場にいる中学生達に注意しようとしたが——


「言いたい事は分かります。あんな情けなくて悪い大人になっちゃいけない、大人にも絵本や小説を読ませて道徳の授業を受けさせるべきだでしょ?」


「はぁ……」


 こんな調子でドッと笑い合う。

 言ってる事がまんま7日間戦争のキャラのソレである。

 

「しかし今回は闇乃さんが総取りだったな」


「次こそは俺達の手でケリをつけてやろうぜ」


 などと闘志を燃やす始末。

 今回はと言う事は以前からこうだったのだろう。

 僕は苦笑して「程々にね」と言っておく。

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