ホームレス殺人事件・前編
Side 闇乃 影司
=朝・大阪日本橋から離れたとある公園にて=
僕は言っては何だかハイテク機器の塊のような人間でもある。
念じたり触れるだけでPCやスマホにハッキングできる。
相手の嘘だって簡単に見破れる。
最近はアップグレードをしまくってハイテク科学捜査も出来るようになってしまった。
今なら目に映った白い粉を小麦粉か麻薬かの判別すら一瞬で出来るようになってしまっている。
そんな自分だからか警察からお呼びの声が掛かる時がある。
依頼人は大阪日本橋の名物刑事となりつつある前嶋刑事。
くたびれた茶色いトレンチコートに帽子、カッターシャツにネクタイ、ズボンにブーツ。
最近の大人でも珍しく銀色の腕時計を着用している。
中肉中背で最近白髪が気になり始めている一家の大黒柱でもあるおじさんだ。
そんな前嶋刑事から殺人事件の捜査依頼をされた。
現実の殺人事件なんてのは刑事ドラマみたいな難事件なんてのは本当に稀で、そう言う事件は起きる事はない。
だが僕は運が悪いのか。
そう言う事件に引き寄せられてしまった。
前嶋刑事の手によって。
事件現場は日本橋から少し外れた公園。
前嶋刑事曰く、前のパートナーを逮捕した忌まわしき思い出の土地らしい。
そのせいで今は一人で行動している状態だとか。
被害者はホームレス。
複数の打撲痕からホームレスを狙った集団リンチによる物だと思われる。
発見された時は早朝。
夜中から深夜に亡くなったと思われる。
こう言うのは谷村 亮太郎さんの出番だと思うのだが、あの人は学生、プラモバトルシュミュレーターの事業、そして自分と同じく何でも屋の3足の草鞋を履いている人だ。
つまり忙しい。
暇している僕の出番となった。
「ホームレス狩りか。反吐が出るな」
僕は吐き捨てるように言った。
僕なんかに他者の犯罪を批判するような資格があるのはないとは思うがそう思わずにはいられなかった。
その一言を聞いて前嶋刑事も「ああ、全くだ」と言った。
「なるべくしてなった奴もいるだろうが、誰も彼もがホームレスになりたくてホームレスの人生を歩んでるワケではないのに……」
と、悔しげに前嶋刑事が言う。
今の世の中は不景気にも関わらず、政治家や官僚達は自分の国がさも裕福な大国であるかのように振る舞い、海外に資金をばら撒いて国民からあの手この手で搾取している。
正に今が正直物が馬鹿を見る時代で、誰も彼もがホームレスになってしまうかもしれない暗黒の時代なのだ。
にもかかわらず何処ぞの馬鹿どもはそんなの知った事かと能天気にこんな馬鹿な凶行に走るのだ。
「……人の人生って、何なんだろうな。僕みたいなのがこうして生きて、必死に足掻いて生きた人が報われないなんて」
僕はそう呟く。
自分を戒めるように。
「私もそう思うよ影司君——世の中って奴はトコトン不平等だ。恐らくホームレスを狙ったのは、自分もホームレスになるかも知れないのに、自分の恵まれた環境にも気づかず犯罪を犯す馬鹿なんだ」
「うん——」
恐らく前嶋刑事は犯人像をこれまでの経験則でもう組みあがっているのだろう。
これを刑事の勘と呼ばれる物だろうと僕は思った。
「……我々の仕事は基本は手遅れな状態から始まるからな。殺人事件なんかはそうだ。だからこそ真相を解明して法の裁きを受けさせる。それが私の誇りだ」
「うん」
前嶋刑事は現場を後にする。
僕もその後ろについていく。
行先は決まっている。
犯人のもとだ。
もう犯人の身元は割れつつある。
集団による派手な犯行と言うのは証拠が残りやすく、また現代科学による発展により事件の捜査もハイテク化している。
僕の仕事はその捜査過程をより簡略化させて犯人を逮捕させることだ。
犯人を逮捕してバッドエンドが多少マシなバッドエンドにする。
それが人が死んだ事件の捜査と言う奴だ。
☆
=午後・某高校にて=
僕は前嶋刑事と一緒に高校に訪れた。
何の変哲もない高校。
偏差値が高い高校。
中学時代に頑張って勉強した人間が入る高校だ。
そんな場所に犯人がいる。
その真実に僕は「なんでそんな馬鹿なことをしたんだ」と思ってしまう。
運動場も学校も大騒ぎ。
校長と教頭が頭を揃えて出迎えて来る。
前嶋刑事が警察手帳を取り出し、それを見せつけるとまるで借りてきた猫のように一礼した。
=午前・校長室=
——ウチの生徒がですか?
——何かの間違いでは?
校長と教頭は自分の学園の生徒がホームレスを殺害したと言う事実を認められずにいるようだ。
本来ならある程度の日数、期間が居る捜査だ。
十分な証拠を揃えて、足を踏み込む。
そう言う手順が必要だ。
だが僕が殺人事件を起きて翌日まで簡略化させた。
証拠はネットの海に散らばっていた。
例えば削除されて拡散されつつある動画とか。
校長と教頭のスマホに動画を送信する。
そこに映っていたのはホームレスを袋叩きにする少年達の動画だ。
「校長と教頭と言う身分であり、生徒を守らなければならない事は此方側も重々承知しています——だけど証拠が出てしまったんです」
前嶋刑事が重々しく告げる。
「ですが、これだけでは我が校の生徒とは限らないでしょう?」
校長先生が当然の疑問を口にする。
「スマートフォンの契約はデジタル化していましてね。それに前々から言われている事ですが携帯やスマートフォンを持ち歩くと言うのは、発信機を持ち歩くのと同義なんですよ」
そう、前嶋刑事の言う事は真実だ。
スマートフォンの契約には当然個人情報が登録されている。
そしてその契約されたスマートフォンは常に位置情報を発信し続けている。
そう考えれば犯行時刻、公園でたむろしていた、十代、二十代の——と言う風にドンドン検索条件を狭めていって調べて行けばあら不思議。
例え動画を配信しなくても、こうして犯人を特定出来ると言うワケだ。
契約店に前もって連絡を入れて、裏取りした。
「最近の科学捜査は恐ろしい。例え変装していても、後はもう特別な機器を通せば——勝手に顔認証や声紋認証、体格から誰まで分かると言う段階なんですよ」
そう言って前嶋刑事はドライヤーのようなそれっぽい機械を取り出す。
そのドライヤーで校長や教頭の背丈をズバリ言い当てていく。
煙草を吸ったかどうかまでズバリ言い当てる。
そして恐ろしい事に体調まで言い当てた。
「本当にSFの世界のようでしょう? 私が昨日酒を飲んだかどうかまで分かるんですよ?」
まるで前嶋刑事は刑事と言うよりビジネスマンだかセールスマンのようにドライヤーのような機械を見せびらかす。
「では——学園での捜査を許可して頂きますかな?」
と、校長と教頭に後々角が立たないように笑みを向けながら言う。
ちなみにこのドライヤーのような機械が僕が作ったスペシャルアイテムであり、前嶋刑事に貸し出した物である。
自分には不要な物だが、今みたいに使い方を工夫すれば話を円滑に進める時に使用できるのだ。
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