ホームレス殺人事件・後編
Side 闇乃 影司
=午前・某高校・屋上=
犯人探しも大詰め。
いよいよ犯人を呼び出す段階まで来ていた。
クラスも出席番号も割れている。
そして僕は——犯人達と対峙していた。
犯人達は数名複数の少年を取り囲んで、ボコっている最中だった。
「そいつらに罪を被せて自分達は逃れる腹か?」
本当に人間って奴は恐ろしい。
そしてなんと雑な手口を考え付いた事か。
追い詰められたとしてももう少しマシな手口を考えつくだろう。
「あ、あんた誰だよ!?」
「警察の協力者だ。漫画に出て来るような探偵のような者だと思ってくれていい」
「はぁ? 探偵? カッコつけてんのか?」
それはお前達には言われたくないセリフだと僕は思った。
この様子だと普段の学校生活でも叩けば埃が出るような事を沢山したに違いない。
すると屋上の柵越しから次々とパトカーがサイレンを鳴り響かせて到着。
そして警官隊が学園に強行突入していく。
前嶋刑事か、あるいは助力者の判断だろう。
いいタイミングすぎてドラマの撮影かと思ってしまう。
「本当はもっと穏便に済ませたかったが、君達が屋上に集まってるのを不審に思ったらこれだよ」
「違うんです!! これはその!! 嵌められたんだ!! 僕達は!!」
「言い訳するな!!」
僕は大声を出して黙らせた。
「自分達がやった事を後悔する事もせず!! それどころか他人に罪を擦り付ける!! 君達は何の為に勉強してるんだ!?」
「はあ? 何言ってるの?」
「意味わかんねーし」
「頭おかしいんじゃーね?」
そう言って冷汗を垂らしながら僕を馬鹿にするように笑う殺人者たち。
ダメだ。
こいつらはもう言葉が届かない。
放置すればまた第二、第三の犠牲者が出てしまう。
「ぎゃっ!?」
僕は気が付けば利き手じゃない方の左腕一つで胸倉を掴み上げて高々と男子生徒の一人を持ち上げていた。
何時の間にか前嶋刑事が現れて僕の腕を掴んで首を横に振り、僕は腕を下す。
依頼主の気持ちは尊重されるべきだ。
だから僕は苦渋の思いで下した。
「ハハハハハ、どうせ捕まっても少年法とかが守ってくれるし——」
「そうだな。それに殺したのも悪気があったわけじゃ——」
などと開き直って言い訳をし始める。
「なにがおかしい?」
「はっ?」
「なにがおかしいと言ってるんだ!!」
前嶋刑事が少年に掴みかかり、屋上の柵に挟み込むように押さえつける。
「よく聞け!! お前は!! 人の命を奪っただけじゃない!! 大勢の人間の人生を、自分の家族や親戚、そしてこの学校で真面目に生きている教師や生徒!! その人生までもを踏みにじったんだお前たちは!?」
「だ、だからなんだってんだよ? 俺には関係——」
「あるから言ってるんだろうが!! それを何も分かっちゃいない!! 分かっていなかったからこんな馬鹿な真似で人生を棒に振れたんだ!!」
今の前嶋刑事は鬼気迫る物があった。
伊達に今の歳まで刑事をやって来たワケではないのだろう。
「お前は考えた事もないんだろう!? その制服やスマホ、そんな生意気な口を叩けるだけの学力を身につけられた、当たり前の日常がどれだけの苦労によって支えられているか!? その裏でどれだけ親御さんが頑張っていたかをな!!」
「そんなの当たり前だろ!?」
「そんな当たり前のために親は君に人生を捧げてきたんだ!! その意味を、少年法に守られながらよく考えてみるんだな……」
そして刑事は少年を解放した。
周りは目を見開いて前嶋刑事を見つめる。
その後、駆けつけた警官達により、少年達は逮捕された。
☆
逮捕後、取り調べは続き、犯行に及んだ少年達は酷いイジメを行っていたことも分かった。
余罪の追及を進めて行く内に、教師もイジメを黙認、学校ぐるみで庇っていた事も分かり、逮捕劇の舞台となった進学校は無期限休校となった。
その調査には僕も関わっている。
調査は犯人達の中学時代まで遡り、自殺事件に関与していた事も分かった。
海外なら間違いなく死刑判決だが、この日本には少年法がある。
それを抜きにしても犯罪者に甘いとされる日本。
数年後もすれば自慢話の種にして出所するのだろう。
それがネット私刑の横行を招いている要因の一つである。
=数日後・夜・メイド喫茶ストレンジ=
僕と前嶋刑事はメイド喫茶ストレンジを居酒屋のバーの如く使用している。
一定の時間帯では極限られた人間にしか入れないようにしていた。
その限られた時間帯に入る事を許されている人間の中に僕や前嶋刑事が含まれていた。
ホームレスの殺人事件は予想した通り後味の悪い結果になった。
メイド喫茶で酔っ払うつもりはないのか、それとも子供のいる手前気にしているのか、あるいは職業ゆえか、前嶋刑事はアルコールは控えているようだった。
「ホームレスの親族——見つかって、んで泣いてたよ。こうなってるのなら相談して欲しかったって泣いてた——」
「うん——」
「毎度の事だが、殺人事件は大勢の人間が泣くんだよ。身内とか親族とかがさ。報道されてないだけで。今回の事件だってそうだ。だけど一番可哀そうなのは亡くなったホームレスなんだよな——」
やりきれんよと言ってノンアルコール飲料を口につける。
「マスコミは何時も通りだが、ネット越しに加害者の親族や関係者を叩きまくるのはどうかと思うがね。あれじゃ今の若者が子供を持ちたがらないのも納得だ」
「前嶋さんの娘さんは——」
「正直自信無くなってきた。放任主義と言えば聞こえはいいが、妻に任せっぱなしだからな」
「そうですか——」
藪蛇だったかなと僕は思う。
「君はどうなんだ?」
と、前嶋刑事が尋ねてきた。
「僕は父親と母親の顔、知らないんです。幼い頃の記憶もないんです。ただ学校でも家でも酷い扱いを受けていたらしくて——」
「……世も末だな。そんな世の中でも真面目に生きろと言うのだからたまったもんじゃない」
確かに前嶋さんの言う通りだ。
真面目に生きるのがこれ程辛い世の中になるとは思わなかった。
「一人の大人として恥ずかしいかぎりだ」
「前嶋さんだけの責任では——」
「だとしてもだ——責任を感じずにはいられんよ——未来は明るいと信じていたのにな」
そう前置きして前嶋刑事は——
「勿論、世の中暗い事ばかりだけではないのは分かっている。だけど刑事、警察は世の中の闇を見詰めざるおえん職業だ——すまなかったな、おじさんのこんな話題に突き合わせて」
「いえ——そんな事は——」
「それと、さんざん暗い話題を振っておいてなんだが——大人になる事も悪い事ばかりじゃない。それに君のような前途ある若者から勇気を貰える事もある」
「勇気を貰えるだなんてそんな」
ちょっと言われて恥ずかしい。
モジモジしてしまう。
「ははっ、可愛いな君は。また捜査に協力してくれ。君は周りから好かれる才能がある」
「そ、そうですか? 正直捜査の邪魔に思われてるんじゃないかって思って」
「確かによく思わない人間もいるかもしれんんが、ここまで今回の事件がスムーズに解決に導いてくれたのは君の御陰だ。感謝するよ」
「う、うん」
僕は恥ずかしかりながら頷いた
世の中不幸な事で溢れているが、良い事もあるようだ。
丁度今みたいに。
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