偽の依頼・前編

 Side 闇乃 影司


 =午後・I市図書館=

 

 I市。


 大阪日本橋から大体電車で500円近く離れた場所だ。

 往復で1000円とられる。


 だが僕の場合は光学迷彩モードになって戦闘機形態になれば別にどうってことはない。

 飛んでいる鳥に激突しないかどうか気を付けなければならないが。

 その辺りを考えると往復1000円の電車代は安いかもしれない。


 I市と言うのは駅前周辺はそこそこ発展している街であり、また最近は本物の変身ヒロイン・エンジェリアや、ローカルヒーローの悪の組織側、ダークスターズなどで話題になっている。


 本来は違う産業で有名らしいのだが、悲しいかな。

 一般人と言うのは小説の世界で有名な人間よりも漫画の世界の有名な人間の方を覚えてしまう生き物なのである。

 マイナースポーツよりもメジャースポーツの人間が有名になるように。

 

 僕がI市に来た理由は仕事だ。

 変身ヒロインのエンジェリアを一目見物ではない。

 ローカルヒーローのダークスターズのお手伝いとかもする時もあるが今回はI市の図書館が舞台だ。


 I市の図書館は元々は別の場所——中学校の眼前にあったらしい。


 だが移転して高架駅の駅前にあるショッピングモールに移転した。


 ショッピングモールは道路で分断されていて、その道路の上や高架駅周辺を歩道橋で移動できるようになっていた。

 高架駅の出入り口(反対側の出入り口はドラッグストアとする)から見て右側はホール会場とか大きなツインタワー、タワーマンションが聳え立つ複合施設。 

 遠方から見てもツインタワーが目印になるのでランドマークとして分かり易い。

 飛行として目指す時も楽である。

 

 図書館があるのは左側の複合施設である。

  

 I市の図書館は近代的であり、勉強や仕事。

 一部エリアでは飲食も可能だ。

 

 時間帯によって利用層は変わる。


 テスト期間中なのか図書館まできて勉強しに来ているらしい——普段勉強してなさそうなガラの悪い少年達が児童書コーナー近辺の広いテーブルを丸々独占している。

 職員たちがいるカウンターから遠く離れていた。

 

 語彙力が死んでいる頭の悪そうな会話をして、机を太鼓のように両手でリズムよく叩いたりしている。

 普段の授業態度が手に取るように分かってしまう。

 きっとこの子達の教師や親は大変だろうなと思った。

 

 この図書館に来たのは特に理由はない。

 ただ図書館があるから来ただけ。

 自分はお堅い本も読むが児童向けの本も読むタイプだ。

 

 ラノベだって読むし、シャーロック・ホームズの本とかも読む。

 

 そうして普通に過ごしているだけで厄介な事になった。


 自分でも言うの何だが、今の自分の容姿はよく女の子に間違われる。

 日本橋をただ歩いているだけでコスプレイヤーかモデルか何かだと間違われて二度見される事も珍しくない。

 それに一々地方の図書館を利用するために変装するのも変なので、何時も通り図書館を利用していた。


「連絡先教えてくれない?」


「一緒に遊びません?」


「いいとこ教えますよ?」


 そこで運悪く、先に語ったガラの悪い少年達に絡まれたのだ。

 盗撮してきたのでスマホをハッキングして削除しておいた。

 そして現在、ガラの悪い少年達に集団でナンパしてくると言う絵面から見て犯罪に間違われるだろこれと言う状態に陥っていた。

 

 少年と表記しているが体格だけは大人である。

 だけど知能は子供である。


 そして周りからロクに叱られもせず、注意されもせずに、注意されたとしてもちっとも反省せず、同年代の少年少女達からまるで王様か貴族のように扱われて育って来たのだろう。

 でなければ今時漫画でもみないような、集団でナンパすると言うような真似はしない。 


「あの。自分男なんですけど」


 取り合えず何時も通りに対応する。


「君、冗談上手いね」


「だったら証拠見せてよ」


 これもまあ何時も通りだ。

 そして運転免許証を見せる。

  

「やみ……なに? かげし?」


 漢字表記で闇乃 影司(ヤミノ エイジ)。

 まあDQNネームだかキラキラネームだわなとか思った。

 優しく「やみの えいじです」と補足しておいた。


「ああ、闇乃 影司ちゃんね——え?」


「もしかして本当に男?」


 この段階でようやく男なのかどうか疑い始めた。

 自分としてはキラキラネームを馬鹿にされなくてちょっとホッとした。


「そう言えばネットで見た事ある。日本橋でそう言う人がいるって」


「ああ、俺も聞いた事がある——ケンカがメチャクチャ強いって」


「ナンパしようとしたら邪魔されたって」


 などなどと僕を置いてけぼりにして好き放題言い始める。

 僕は「じゃあ僕はこの辺で」とその場を後にして本を戻しに行く。

 流石にこれ以上この図書館に留まって、本を読む度胸はない。

 

 だが何を思ったのか手を背後から伸ばしてきて——


「まだ何か用?」


 と、伸ばされてきた腕を掴んだ。

 キツメに睨むと——


「ひ、ひぃ!?」


 その場に尻もちをつく。

 腕を離してやる。

 僕は本に戻しに行き、その場から立ち去る。


 図書館の職員から「大丈夫ですか?」と言われたので「大丈夫です」と言って図書館から去っていった。


 本来ならこれでこの話は終わり。


 この話には続きがある。

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