偽の依頼・後編
Side 闇乃 影司
=午後・大阪日本橋・闇乃 影司の事務所=
僕の事務所——正確には恩人の事務所だが今は自分が留守を任されている事務所。
メイド喫茶ストレンジに近いアパートの二階だ。
「あの、ここが闇乃さんの事務所でしょうか?」
そこに気の弱そうな少年がやってきた。
「君は?」
「I市から来ました―—I市の中学校に通っています」
それもI市からだ。
I市からやってきて自分にワザワザ依頼?
と不審に思った。
「どんな依頼だい?」
「依頼はその——」
どうやら教師にイジメられているらしく、それをどうにかして欲しいとの事だ。
問題なのは少年が嘘をついている事だ。
自分は嘘か本当かを見分けられる能力を持っている。
「残念だが受けられない」
「や、やっぱり、ダメですか?」
ホッとしたような様子を見せた。
普通は残念がったり、声を荒らげて「どうしてですか!?」と問い詰める。
これはますます怪しい。
それに「やっぱり」と言うのも変だ。
「依頼主に嘘をつく依頼人の仕事は原則受けないんだ。ごめんね」
「噂は本当だったんだ——」
「噂?」
「闇乃さんは嘘か本当か見分けられる人だって——」
「まあ探偵の真似事のような事もしてるしね。で、どうしてそんな事をしたんだい?」
と、尋ねると「それは——」と言い淀む。
「I市の中学生で、自分の中学の教師にイジメをどうにかして欲しいと言う依頼をしにきた。つまり君は教師をよく思わない人間の指示でここに来た事になる」
「は、はい」
「そして中学生の教師に恨みを持つ、君に指示した人間は誰だ? 何のために? 答えは簡単だ。君をいじめている人間だろう。そして自分を知っていて恨みを持つI市の人間も限られる」
先日の図書館の一件を思い出し、その中学生のクラスや名前を順番に挙げていくと飛び上がるように驚いた。
「どうして知ってるんですか!?」
「ただの消去法だよ。I市で僕に恨みを持つ人間は限られているからね」
子供の悪戯にしては手が込んでいる。
これはタチが悪い。
ホームレス事件の件もある。
ここは少年だからと優しくすると悲劇を産むことになるだろう。
「それで、ぼ、ぼくはどうなるんですか?」
「ああ、君は偽の依頼を僕に受けさせようとしたね。確かに許されない事だ。だから——」
そして僕は少年にある罰を与える事にした。
☆
=数日後・大阪日本橋にて=
僕は依頼者の少年と近所のカフェでジュースを奢っていた。
少年は明るく中学校で起きた出来事を話す。
やった事は簡単だ。
偽の依頼のターゲットだった教師に事情を説明して学校を休んでもらった。
これが一番大変だった。
なにしろ、暴力教師扱いして第三者を使って排除しようとしたのだ。
子供の悪戯にしては限度が過ぎている。
これを宥めるのが一番大変だった。
無理もない。
危うく人生を破滅させられるところだったのだ。
キレない方がおかしい。
だから「少年達を懲らしめるため」と説明して休職してもらうことにした。
そして少年達は鬼の首を取ったかのようにクラスで悪さ自慢をはじめた。
その会話内容を全部少年が持つスマフォを通して録音し、加害者の各家庭の保護者に通達。
念のため教師達にも通達。
依頼者の少年にはイジメ被害の訴えを両親にしてもらう事にした。
同時に僕に依頼した事も話してくれた。
もちろん僕も同半だ。
僕が少年に与えた罰とはこのことだった。
ちなみに僕と知り合ったのは偽の依頼をしに来たのではなく、僕に助けに求めに来た体で話をしている。
その後、学校は実質休校状態になり、教師達は内々で処分する事になった。
加害者の親たちが依頼者の家に次々と頭を下げに来る始末。
その時のいじめっ子たちはまるで借りてきた猫のように大人しかったらしい。
だがイジメっ子と言うのはタチが悪く、SNSによるネット私刑が横行する要因はここからである。
つまり報復に出るのは目に見えて明らかだった。
本当は魔法の力で解決してもよかったがそれだけでは芸がない。
なので第2の罰として依頼主の少年に僕が変装する許可を貰う事にしたのだ。
これには少年だけとの秘密。
少年はとても驚いた。
背格好も何もかもが同じなのだから。
この辺りで僕の事を本気で魔法使いか何かだと思い始めたようだ。
そして遂に不良達との対決。
少年の代わりに学校に登校し、授業を受け、少年と同じ筆跡で黒板のノートを取り、同じ声で気弱な少年を演じた。
事情を説明して少年はダーク・スターズの皆さんに匿ってもらい、僕の目を通してオンライン授業を受けるような形にする。
そして案の定絡んできたので叩きのめし、再度教師と親に通告する。
もちろん証拠付きでだ。
この時もう教師も親もブチぎれたらしい。
特に今の時代、たった一つの悪行で社会的に抹殺される恐ろしい時代。
幾ら内々で処理しても、誰もが情報の発信者になれる時代、学校ぐるみで隠し通すのは限度があった。
遂にイジメの実態が明るみに出てしまい、学校側は保護者会や謝罪会見を開くなどの対応に追われて休校状態に陥る。
加害者の家族は転校になったり、引き籠りになったり、針のむしろだと分かっていながら学校に通わざるおえない状態になってしまった。
そして——
「クソ!! 離せよ!?」
「まだ何もしてないぞ!?」
「どうしてこんなところに警察が!?」
カフェに待ち伏せして襲撃してきたところを前嶋刑事率いる警官隊の御用となった。
待ち伏せが分かったのは懲りずにスマホの連絡アプリで仲間に呼びかけていたからだ。
その内容を前嶋刑事達に連絡して御用となった。
これでスリーアウトだがゲームチェンジにもゲームセットにもならない。
いじめの加害者と言うより根っこの部分は一度や二度、三度叱られた程度で変わる事は無い。
それこそ自分が死ぬような目に遭わなければだ。
そこに、学校のいじめの怖さがある。
「かわいそうな気もしますね」
「そうだね。でも、こうでもしなければ君はいじめで死んでいたかもしれない。それに彼達にもやり直すチャンスはあった。ここまで来たらもう自業自得としか言いようがない」
「はい——彼達はどうなるんですか?」
「厳しく注意されてもスグに出てきて懲りずに悪さするか、改心するか、どちらかかな」
4度目、5度目と続くかどうかは彼達次第である。
ただ分かる事は前科がついた人間の末路は総じて悲惨と言う事だろうか。
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