日本橋の切り裂きジャック・前編

 Side 闇乃 影司


 現在日本橋。

 特に夜は厳重に警備されていた。

 警官隊のパトロールが厳重過ぎると言っていい。


 後に、「日本橋の切り裂きジャック事件」と名を残す事件の始まりだ。


 切り裂きジャックの名を耳にした人間は多いと思う。


 漫画やアニメで時たま登場したりするからだろう。


 元は19世紀末のイギリス、ロンドンで女性のみを殺したシリアルキラーで謎が謎を呼ぶ殺人鬼であり、21世紀に突入した今でも未解決の事件である。


 探偵小説を読んだ、親しんだ人間なら一度は推理してしまうだろう。


 切り裂きジャックの正体や事件の真相について。


 不謹慎ながら僕もその一人だ。


 切り裂きジャックについて様々な説がある。

 医者だとか肉屋だとか、複数犯による犯行だとかだ。

 僕もアレコレと考えたが概ね似たような考えに行きついた。


 話を現実に起きてしまった切り裂きジャックに戻そう。

 

 一件目の事件で既にこの事件は一度は終わった物だと考えられた。 

 一件目はいわゆる通り魔的犯行だった。


 何十年か前ならともかく今の都会の街は様々な警備システムで守られている。

 それに警察も無能ではない。捜査技術や科学捜査も進んでいる。

 女性を狙った卑劣な犯行として一人目が逮捕された。

 

 それで事件が終わるかに見えた。


 だが二件目、三件目と事件が起きてしまった。

 それも女性を狙った犯行でだ。

 

 そしてマスコミは面白おかしく、現代の切り裂きジャック事件として大々的に報道して今に至る。

 一件目の事件の逮捕も誤認逮捕ではないかと騒ぎ立てる始末だ。

 

 SNSは怒りの声が多く上がっていて、中には便乗犯や模倣犯の可能性を指摘していた。


 警察の巡回も増え、大阪日本橋でよく見るメイド達による店の呼び込みもない。

 メイド喫茶は暫くお休みになったり、店その物が休業になったりした。


 僕?


 僕は夜はあまりうろつきたくないが、どうしても仕事などで夜うろつく事になる。

 それに依頼もあったので警戒はしつつ、調査はしていた。


 自分でも言うのも何だかよく僕は女性のコスプレイヤーか何かと間違われるからそれで女性と間違われて殺される可能性もあったからだ。


 それに——メイド喫茶ストレンジの店主から直々依頼が来ていた。 

 日本橋の切り裂きジャック事件の早期解決依頼である。

 一メイド喫茶にどこにそんな大金があるのか前金でも相当な額が踏み込まれていた。

 

 恐らく谷村さんのところにも同じ依頼が来ているだろう。


 本当は谷村さんに全部丸投げする事も考えたが依頼となれば話は別。 

 僕も捜査に乗り出した。


 一件目は本当に素人による通り魔的な犯行。

 犯人も逮捕されてるし証拠も多くある。

 警察は自信を持ってまず間違いなくクロだと言えた。 


 二件目、三件目の事件。


 その両方も若い女性を狙った卑劣な犯行だ。

 流石の警察も昨日と今日とで起きた殺人事件で容疑者を特定するのは困難だったらしい。

 

 マスコミやジャーナリストなどが彼方此方で目を光らせていた。

 四件目は起きる事はないだろう。

 

 普通に考えるならば。

 だが犯罪者の思考回路は常人のソレとは異常なのだ。

 起きないとは限らない。


 ともかくここらで事件を纏めてみよう。


 一件目の事件。

 二十代の女性。

 刃物で刺されて死亡。

 犯人は逮捕済み。


 一件目の事件は基本無視で構わない。

 二件目、三件目は違う事件でマスコミがややこしくしてるからだ。

 この事件に関わっている警察官や刑事も全員同じ考えだ。


 二件目も若い二十代の女性が狙われた。

 死因は腹部を鋭利な刃物で刺されたらしい。

 言っては何だが夜の街に不通にいそうな感じの女性だった。

 学生時代の偏差値を調べたら見た目通りった。

 被害者には恋人がいて、その恋人の行方はまだ分からない。

 警察は重要参考人として行方を追っている。


 三件目も若い二十代の女性が狙われた。

 この事件で切り裂きジャック事件として騒がれ始めた。


 被害者は大阪日本橋で営業しているメイド喫茶の店員。

 背後から一突きしたようだ。

  


 =夜中・雑居ビル二階・メイド喫茶ストレンジ=


 メイド喫茶ストレンジ。

 雑居ビルの二階で経営されている。

 核シェルター並に安全な場所。

 テロリストの襲撃を退けた伝説の喫茶店。

 内装は普通の喫茶店だ。

 防弾ガラスに防弾の机、椅子、カウンターなどが置かれている。

  

 ここでよく闇乃 影司は様々なコスプレをして歌を披露して売り上げに貢献している。


 だが今は限られた人間しか入れない状態になっている。

 その限られた人間の中に、僕と——そして警察の刑事である前嶋刑事がいた。

 

 ツバがついた茶色の帽子にブラウンのトレンチコート、白いカッターシャツに黒いネクタイに紺のズボン、黒い皮靴。腕に銀色の時計。昭和の刑事ドラマから出てきたような背格好である。

 顔も服装のイメージにピッタリな歳がいった感じのオジさんだ。

 ベテラン刑事で何時しか大阪日本橋の名物刑事として有名になっている。


 僕と前嶋刑事はカウンター席に座り、カウンターの向こう側では不愛想な黒髪でツインテールの十代メイドさんがいた。

 目つきも鋭く、立ち振る舞いに隙もなく、その筋の人間だと感じさせる。

 

「今回の事件どう見る?」


 と、ノンアルコールビールを口に含む。


「マスコミがおかしく騒ぎ立てているだけでしょう。この事件は偶然発生した、連続起きたように見える偶然の別々の事件です」


「谷村君も同じことを言ってたよ」


 三つの事件を全て同じ事件と見るから大事件に見えるだけだ。 

 実際は二つの事件に分けられる。 

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