この物語は、亡き父の遺した特別なメガネを通して、家族の思い出や日常のかけがえのなさを繊細に描いています。父の映像記録が、何気ない景色や物に重なり合う様子は、まるで家そのものが宝箱のように感じられ、読んでいるこちらまで心が温かくなりました。また、母と娘の関係性もリアルで、忙しい母を気遣いながらも自分にできることを探そうとする娘の優しさが伝わってきます。特に、母が父の話をする時の柔らかな表情や、夕飯のオムライスのエピソードが日常の小さな幸せを象徴していて、読み手の心に残りました。
描写には余計な説明が一切ないのに、SFの世界へスッと入り込めます。懐かしい未来という言葉を思い出しました。矛盾しているようですが、それは作者の力量でうまく小説として成立しています。なにより物語の中で、父母娘の穏やかかつ深い愛情を見る事ができました。この作品を読めて良かったです。
仲が悪いわけではないけれど、たくさんの思い出があるわけではなく、親戚のおじさんのような印象を残してこの世を去った父。その父の残したARグラスを、まだ反抗期の訪れていなかった、けれど距離があることを知らないほど子どもではなかった娘が見つけるところから物語は始まります。 ドラマチックな謎が明らかになるわけでも、壮大な裏の顔が見つかるわけでもないけれど、お父さんの、娘の思いがじんわり沁みる素敵なお話でした。
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