「わたしはこの世界から、虐めを一つ残らずなくしたいと思っているんだ」
崇高な考えと不思議な力を持つ睡蓮と、お互い唯一の友人である琴子。
愛情深いのに、どこかおどおどと自信がなさげな琴子。琴子のそうした性質に小さなひっかかりを覚えながら読み進めたが、そういうことかー!
ぞわぞわじわじわとにじり寄ってくる恐怖感と、睡蓮&琴子の静謐でありながらも激しい愛情がとてもよかった。ふたりだけの、いい意味で閉塞的な百合の関係性、とても好きです。
ラストも、琴子の世界に広がりと永遠を感じられ、爽やかな読後感でした。カクヨムコン9「映画・映像化賞」佳作、おめでとうございます!
やや内向的な主人公、琴子は美しい友人、睡蓮に憧れていた。
不思議な力を持つ睡蓮は人を遠ざけるところがあったが、琴子には気を許しておりそれがまた琴子を喜ばせた。
しかし二人が所属するクラスには陰湿な虐めがあり、それが彼女たちの関係に影を落とす。
「この世から虐めをひとつのこらずなくしたい」という考えを持つ睡蓮は、虐めの矛先が変わったとき、自身の理念の実現に向けた行動を始める。
睡蓮に対して友情以上の想いを抱く琴子は、そんな彼女を放っておくことができず……
睡蓮がもつ理念は、本来であれば叶えることが難しいものです。しかし、彼女は不幸にもそれを叶えうる力を持っています。それでもまだ、実行に移すことはためらわれていましたが、琴子という大切な存在ができてしまったことで実力を行使し、それがかえって琴子の胸を痛める結果になります。
琴子と睡蓮、二人が互いに抱く想いは痛々しく、相手のためなら自ら傷を背負うこともいとわないという危うさを秘めています。その不安定さは物語の終盤まで続き、読み手に不安を抱かせます。
ホラー作品にはいろいろな怖がらせ方のバリエーションがありますが、本作の怖さの源になっているのはこのメインキャラ二人の「危うい関係性」にあると感じます。相手を想うあまり、人の道を外れてしまうのではないか。どこまでも堕ちてしまうのではないか。その不安感が続きを読ませる原動力に繋がっています。
少女たちの危うくも美しい関係性に浸りたい方は、是非お読みください。
著者の過去作からのファンです。
ほんわかしたファンタジーから、殺伐としたホラーまで、幅広い技量を持つ著者が長編ホラーに着手されたということで、公開前から着目しておりました。
今回のメインテーマはずばり「いじめ」です。
ショッキングな展開にはなりますし、読んでいて心苦しくなるシーンはいくつもありますが、ひたむきな主人公「琴子」を通して、読者自身も成長させられる、そんな作品です。
愛すること。苦しむこと。生きるということ。
それについて、登場人物たちはそれぞれ違った考えを持っており、それをぶつけ合うシーンも見どころの一つです。
また、著者が得意とする幻想的な心象描写は、とても美しく残酷で、読者の心に深い印象を与えてくれます。
幅広い年齢層の読者に訴えかけることのできる、メッセージ性の強い作品だと思います。この物語を必要とする、一人でも多くの読者に届きますように。