繁華街、某ギルドにて 4
「へぇ〜。あんた、その子探してるの?
なんでよ。いや、聞くのは野暮って話ね。ここはそういうところ。まあろくに金もなさそうだし仕事として依頼しないだけマシって話ね。ここで金は重要よ。みんな金が必要だからここに来るの。たとえ端金でもね。ここに来るのは大抵村に見放された奴か変わり者のどっちかなのよ。まともなやつは今頃鍬か弓でも持ってるわよ。まあ私みたいな妖精には無理な話だけどね。
でもここにはどんなやつにも仕事があるのよ。私のような、文字通り体の小さいやつでもね。勿論ろくな仕事じゃないことのほうが多いけど。
この前は確か男の浮気調査だったわね。部屋の中に入ってあれこれ探し出せって。こういう疑り深い奴らがいるか私のような商売成り立つってわけよ。
でもね、どんな世界にも仁義ってやつがあってね。例えばこういう話をいくらしても私は依頼主の名前を明かしちゃ駄目なのよ。
依頼した奴にだって生活があるからねら、それを脅かすようなことをしちゃこの街では食っていけないのさ。酒の肴にはされるけどね。されたくなきゃ人様に迷惑かけない生き方をするしかねえって話なんだがね。
そのヨーコもその手の類じゃないかい。
この街はなんでも受け入れるのさ。良しにつけ悪しきにつけ。仁義だけ守れば生きていける。何をしても、は言いすぎかも知んないけどさ、大抵のことはお目溢ししてもらえるんだよ。なんでもありだからねここは
じゃあそのなんでもありな街から去ることになったってことら何かしら理由があるか、仁義を失った奴だけなのさ。
前者は大抵田舎へ帰るために、だがそれよりも遥かに多いのが後者。仁義を失った奴らさ。ここには人が多すぎるからね。お互いの踏み込んじゃならない距離ってもんがあるのさ。
まあ、午後に来た奴らも大抵は自分の村にある掟を破ったような奴らのほうが多いんだけどね。
仁義を破ってムラを追い出さられたのなら自分にあう仁義の場所に行くしかない。そしてそこも自分を受け入れていくれるかどうかという話とは別。
その女にはここの仁義と合わなかったんじゃないかい。いかにせよ、私には関係ないかな。
で、ヨーコってやつはどこからきたんだい。
……異世界。異世界ってなにさ。お空の星からやってきたお姫様、とでも言いたいのかい。そんなお伽噺みたいな。冗談も休み休み言わないとあんたも信用失うよ。
まあ、いいさ。言いにくいことなんかよくある話だからね。第一ここも人の事は言えないしねえ。どうだい。自分の掌くらいしかない女と喋る気分って。
そしてその女は骨しか体を持たない男と一緒にいる、なんて滑稽でしかないだろう。知ってるかい。妖精ってのは湧き出る清水とそれによって育てられた木々の実でしか生きていけないって。
勿論そんなの嘘なんだけどね。私らだって肉を食えば魚も食うのさ。そして飢えを凌げりゃ生きていける。どこから汲んできたかわからない水で作った酒で流し込んでも生きていけるのさ。
そんな夢をぶち壊すここはもう異世界みたいなもんだわね。
そう考えると面白いもんだよ。異世界から来た女はここの現実に耐えられなかった。元いた世界から受け入れられなかった奴がここでも受け入れられないってこった。こんな混沌とした場所に。
じゃあ、そいつはどうやって生きればいいんだろうねえ。ある意味どこからも求められていない、不幸な奴じゃあないか。
ま、尤も自分から選ぶことを求めなきゃ居場所なんか出来ないんだけどね。
南、ね。
漁港が多いからここほどじゃないけど賑わってる場所だわね。
ただ、荒くれ者も多いから厄介事も多いよ。いや、ここも厄介が多いと言えば多いけど質が違うね。質が。
ここは謀略から利権に暴力となんでもござれだけどあっちは暴力のほうが多い。とりあえず手が出るような事が多いわね。
お、坊やは頭が働くね。そう。ここより命は軽いわね。喧嘩があった翌日にどちらかが死体になっているなんてのはザラさ。まあ死人になってなんとなく生きてるか死んでいるか分からないやつもいるけどね。
そんな場所さ。気をつけな。
もし無事に戻ってきたら私を抱いてもいいよ。あんたみたいな坊やは結構好みなんだよ。それを楽しみに行ってきな。
ところで、
あんた、あのこのなんなのさ。」
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