港町、ある酒場にて 3
「あの女かい。3ヶ月前までうちにいたよ。
どこにも馴染めそうにないやつでね。アタイには働かせろの一言だけで居座りついてやがった。こんな歓楽街から離れた店になんのようなのかね。
まあここにはああいったやつはいくらでもいる。きちんと働けば飯くらいは食わせてやるさ。
どこにいたのか臭い女でね。
最初に命令したのは風呂に入れ、だったよ。あの様子だと長い間風呂に入ってなかったんじゃないかい。
体を洗い流したら綺麗な体だったよ。一瞬なんであんな娘が、って思ったけど、色々あったんだろうね。遂に何も教えてくれなかったよ。
シナイかい。なんだいそれは。木で作られた剣、かい。ああ、持っていたね。宝物なんだってさ。アタイには触れさせて貰えなかったよ。
まあ触れるつもりもなかったけどね。周り見りゃ分かるだろ。うちは他の店でどうにもならなくなった奴らが来るのさ。
あそこの赤鼻を見てご覧。
あのの不細工な顔。これが男に買われると思うかい。そりゃ蓼食う虫も好き好きって言うがね、基本的に顔も身体もよくない女なんか売れないんだよ。
それで大分虐められたらしいのよ。いた酒場も悪かったみたいで仕事している時にテーブルに磔にされて弄ばれたらしくてね。
想像できるかい。不細工で貧相な体だからってんで店で徹底的に貪られたんだよ。まだ客が出入りしてる店でね。
女一人じゃね、男が複数群がってきてケチもちも見て見ぬ振りしたらもうどうにもならないんだよ。裸にひん剥かれてあらゆるものをあらゆるところにかけられ。女は男の欲望の捌け口じゃあないんだよ。
ああ、聞いてたのかい。ごめんねルミア。思い出させちまったね。ああ、ここで泣くのはおよし。ちょっと裏に行ってきな。休んでいいから。
見たかい。
ああいう奴らの集まりなのさ。男は適当に嬲るしか価値のない子だとしてもね。あの子も人間なのさ。弄ばれていい奴なんかいないのさ。
多分ヨーコも何かあったんだろうねえ。濁った目だったよ。だからこそ綺麗すぎる身体と釣り合わなくて違和感があったけどね。
なんとなくだけど多分抱かれてないんじゃないかい。たまにいるんだよ。男に抱かれるのが嫌で逃げてきてここに来る娘もね。
だが、結局はそういう子も現実を受け入れられないだけで受け入れられる子は誰かに買われていくか、それでも売れないやつはあの赤鼻みたいに買われもせずにここで金もない男と喋ってなんとか酒の一杯を増やそうとしてるのさ。
どっちが幸せ、か。それは分かんないねえ。買われて一生の伴侶を手に入れた奴もいれば、ひどい扱いを受けて死を選んだ奴もいる。
所詮は金で買われた、ってのはきっかけにしかならないんだわね。酒場で買った女に入れ込む奴もいれば買った奴に入れ込む女もいる。もののように扱うやつもいれば恋人のように扱うやつもいる。
そればかりはめぐり合わせでしかないんだよ。
運が悪かった、かい。
そうかもね。世の中所詮運さ。何かをやったら正しいってわけじゃないし、間違いと思ったそれが災い転じて、ってなる時もある。
生まれた種族だけで決まる運命もある。女日照りの続く人豚族が耳長族を襲ったり、そのまた逆もあったり。妖精だから生まれたら幸福になるかって言うと見世物小屋に売られたりね。
でもね、動き出さないと運に飲み込まれるだけなんだよ。
そりゃ死んだやつには情の一つもあるさ。だがね。そうなる前に出来たことはいくらでもあったのさ。それをせずに死んだのは運が悪かった以外になんにもいえないわ。
アタイだってこの小さな手でこの店を作れたんだよ。それはアタイが一生見世物小屋にいたくなかったからさ。
何かを変えたかったから今日まで頑張ったし、たまたま運が良くてこういう形に落ち着いたのさ。
まあ、ヨーコも何かしないと行けないと思ったからアタイの場所から出ていったんじゃないのかね。
濁った目ではあったが、最後まで芯の折れない子だったよ。行き先は何処かわからないけどね。どこかでたくましく生きてるんじゃないかい。
そうだアンタ。一杯飲むかい。
一杯奢りで、なに、自分で飲むのかい。そうかいそうかい。坊やのような見た目だが子供じゃないんだねえ。
ところで、
アンタ、あの子のなんなのさ」
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