港町、ある酒場にて 4
「よおお前さん、また来たのかい。
見つかったかい。あの女。……なんだって。まず一杯だって。一番高いやつを、か。
へえ。この街のことがよく分かってきたようだな。ミルク一杯でなんでもかんでも教えてくれるようなお人好しじゃこの街では食っていけないんだよ。
で、なにが聞きたいんだ。
ほう。あの赤っぱなの事も知ったのかい。
へえ。本当に色々嗅ぎ回ったんだな。そうさ。あいつはうちで働いていたのさ。だが、あんな器量もよくない痩せこけた女を誰が相手するのかって話だよ。
まあ、見せしめだよ。なんでああなったか、なんて今更言うまでもない。脅かしのつもりだったんがな。
なんだ、怒らないのかい。
へえ。昔のお前さんなら噛み付いてきてもおかしくない目をしていたがな。本当に色々あったんだな。
お前さんも多くを見たから分かったと思うがな。そういう事なんだよ。あんなひどい目にあったあいつが何故この街にしがみつくのか、って。
以前言ったよな。この街は逃げ場をなくした負け犬が来る場所、って。あいつもそうなのさ。
この街に来るのは都会ではやれそうにもないが小さな街ならなんとかなりそう、とここを安く見積もってやってきたやつらばかりだ。
だが大抵そういう奴らは自分の皮算用が遥かに甘いことをこの街で知るんだ。都会に行くのは皮算用がきちんと出来るやつしか生き残れねえんでな。
だがここはベイよりは田舎だ。だから少し甘めに見てもらえる、ここでなら輝けると思ってくる馬鹿が多いのさ。
そして痛い目を見る。
それで済めばまだましさ。
そんな痛い目を見たにも関わらずまだこの街にいようとする。いや、すがっているんだ。そういう奴らは。
スカで食えなければどこにも行けない。傷付いた身体で田舎に帰るしかない。キズモノなんか嫁の貰い手にもならないだろうよ。
だから、ここにすがるしかねえんだわな。悲しい人生だよ。テメエの見積もりが甘かったが故に都会になりきれないここで、もう手に届くこともない未来に手をずっと伸ばしてるんだからな。
そういう奴らを食い物にするのさ。
別にそれで風切って歩こうってわけじゃあない。そうしないと俺達は食えなくなるからな。酒と料理では貰える金なんざたかが知れてる。この酒場だってただで建てたわけじゃねえ。
誰かが誰かを食い物にして成り立ってるんだよ。ここは。
で、なにが聞きたいんだよ。警察にでも俺を突き出すかい。
……そうだよな。そこまで知ってりゃもう俺からは何も言えねえや。
港町から歩いて3時間くらいかな。そこにお前さんの言うヨーコは住んでるよ。小さな村だ。
居場所は知っているさ。上物だったからな。
だが、あいつはもうこの街の人間じゃねえ。連れ戻そうってのが違う。俺達は馬鹿を食い物にしてるのさ。
馬鹿じゃねえやつはこの街を去る。去ったものは戻ってくるまで追わないんだよ。
ほら、こいつは奢りだ。飲んどけよ。お前さんもこの街を去るんだろう。餞別だ。
お前さんくらい頭がキレるやつならうちの店にも欲しいんだがね。止めねえよ。この街の人間じゃねえんだからさ。
ところでよ、
アンタ、あの子のなんなのさ」
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