農村、ある盛り場にて 1
「いたね。そんな奴。一ヶ月くらい前だったよ。随分やつれた子でね。
みんな驚いたもんだよ。こんな田舎に妙齢の女性だ。しかも異国の人間なんだろう。お前さんと同じような黒髪だったよ。ここでは見ない髪の色だ。
確かにここはベイやスカに比べりゃド田舎もド田舎、生活するのがやっとみたいな連中ばかりの場所だ。それでも盛り場みたいなのはあってな。だから多少なり人の往来ってのはあるもんだが、それでも行商程度でね。
手に持っていた木の棒、みたいなのが印象的だったよ。なんかやたら大切にしていたからね。鋭い目つきだったねえ。色々あったんじゃないか。
ところでその子を見つけてどうするんだい。
見た所お前さんも無一文って感じじゃないか。取り立てて生活感もないし、第一お前さん、故郷はどこだい。チキュウ、ニホン、ってなんだよそりゃ。異国かい。
まあ海辺街から流れ着いてきたんだ。どこの人間か知りもしないさ。船に乗ってきた誰かが来れば誰かが出ていく。うちの都会ってのはそんな場所なんだよ。
しかしこんな田舎まで来ちまうとな。もうここで骨を埋めるくらいしかないんだわな。都会から卸してもらった酒をちびちびやって、毎日農作業ってのがほとんど。
この俺だって毎日とまでは行かねえけど近所の奴に何日か働かせてもらってさ。金なんか貰えやしねえ。野菜とかパンとかさ。
助け合い、ってやつだな。いや、助け合わないと生きていけねえんだわ。ここで作れるものは限られてくるからな。
それでも都会に行こうと思えば行けるだけましさ。大抵の村は都会に出るまで何個の村を横切らないといけないか。
せっかく取った魚や肉も腐っちまう。そのマタ逆も然り、だわな。海で取った魚は大抵が独特の臭いを発している。それで銀貨せびってくるんだから。スカじゃ銅貨三枚もありゃ買えるような代物をさ。
田舎ってのはそんな場所なんだ。
そりゃあ人付き合いが楽とは言わねえ。こっちの都合なんかお構いなしに頼られたりする。だが俺もこちらの勝手都合で頼ったりする。
それが嫌で田舎を出るやつだっている。面倒だからな。そうやって運命共同体に染まっていくのを嫌うのさ。
どこに居ても何かしらの制約を受けるのさ。
望む、望まないにしても。なにかの義務をやらないと生きていけないのさ。
その義務をどう受け止めるかのほうが大切なんだよ。義務を放棄した奴に権利は訪れない。金を払わないと酒は貰えないのさ。
お前さんはどういう義務を背負うんだい。その子を見つけることで何を手に入れ、なにを失うんだい。
おっと、喋りすぎたな。
年を食うと昔話や説教ばかりしたくなる。悪い性だねえ。
で、
アンタ、あの子のなんなのさ」
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