農村、ある盛り場にて 2
「ああ、お前さんみたいな髪の黒い女ね。最近この辺りをうろうろしているね。
なんか色々な場所で働いてるって専らの噂だ。なんでもかんでも仕事を手伝ってくれるから大変助かるんだと。
若いものがいないわけじゃあねえが、基本的にはここには耄碌したような奴らしかいねえ。墓穴に片足突っ込んでいるような奴らばかりだ。
見てみろ。店のあちこちを。どう見たって長生きしそうにねえだろ。十年後にはここの常連客は全員変わってるような場所さ。
だからこそああいう若いのって目立つんだよね。
勿論元気に田畑を耕してる奴もいるよ。元気さだけが取り柄みたいな奴だっている。だが大抵は今日鍬を持つのが精一杯みたいな奴らばかりだ。鎌ですら重いって喚いている。
それでも食うためには仕事をせにゃならんのさ。飯を食わねば死んでしまうからな。
それを微塵も感じさせない人間の姿ってのは目立つもんさ。
だが、どこに住んでるのかね。
最近家を建てたやつはいないし住み込みが入ったって話も聞かない。どこかで寝てるのは間違いないんだろうけどさ。
もしかしたら洞穴とかそんなところなのかもな。お世辞にも綺麗な服を着ているわけじゃあねえし。
身なりを整える余裕もないってこったな。
お前の噂も聞いてるよ。なんだって金持ちらしいじゃないか。何やってたんだ。
なんだって。異世界からやって来た、だって。冗談も休み休み言えよ。
俺がその異世界に行ったら大金持ちになれるって話か い。お前の世界の王様からとんでもない金を貰えて、幸せに暮らしました。めでたしめでたし、ってなるのかい。
ならねえだろうよ。そんな事。
なら何かしらの方法で稼いだってわけだ。この短い期間で。
へえ。流石都会だねえ。えげつない事をしていたんだな。
まあ、それが嫌になったって事だろ。言わなくても分かるよ。顔に書いてある。世の中才能があることとそれを好き好んでやれるかどうかは別だ。
嫌でもとんでもない才能が在るやつがいれば、この上なく愛していてもびた一文にすらならないやつがいる。
そのちぐはぐさを調整しながら生きていくのが人生ってやつさ。だからたまたまお前にはそういう才能があったってだけで、それがいいか悪いかは別の話。
まあ、それを別のことに活かせないか考えたほうがましだな。
残念ながらここは人手が足りない。
若いやつはいるにゃいるが、自分のことで手一杯だからな。どこの誰もが人手を求めている。
自分のことで精一杯ならそりゃ誰かを助けることは出来ない。若いのも夢とかなんとか言って外出ちまうしな。
そんなに都会っていいもんかねえ。
田舎はいいもんじゃねえかもしれねえが、都会に何もかも負けてるってわけでもねえのさ。
ちょっとした相談を顔知った人に出来たり、なんなら口利きしてくれたりもする。助け合いが生まれるんだな。
確かにそれをうっとおしく思うやつも居るさ。若い奴らなんて尚更だわな。何が楽しくてここのジジババと仲良くしなきゃならないんだって。
弱点もないとは言わねえ。悪習になっているものでも慣習だと切り捨てられなかったりするからな。
でも助け合おうとするから起こらなかったことが起きたりする。結婚出来なかろう奴が結婚して、子をこさえたりする。
これは田舎でないと中々難しいのさ。
意外と田舎に籠もる奴ってのはそういう奴らさ。
都会の魅力を魅力と思えない奴。なんなら生きることを考えたらその魅力があだなすと思う奴。
そういう奴は田舎がお似合いなのさ。都会の灯火ばかりが美しいわけじゃねえ。
田舎は都会よりくっきり星空が見えるのさ。
ああ、喋りすぎたな。ところで、
アンタ、あの子のなんなのさ」
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