繁華街、某ギルドにて 3
「シナイの女、か。覚えとるよ。
珍しい剣を持っていた。生前聞いたことがあってな。東洋に生えた木を使ったしなる剣があると。
そういうモノに出会えるのは死してなおこの世に残った未練がましいワシに授けてくれた幸運なのかものう。
ヨーコ、か。はて、そんな名前だったかな。いや失敬。とりたて強い剣士だったわけでもなかったから記憶はなくてな。練習していたのは動きから感じ取ったが、所詮その辺りは女よの。どう頑張っても腕っぷしで男には勝てん。
ほうほう。あの豚から話を聞いてきたと。あいつなんじゃ。剣士というとすぐワシに投げつけてきおって。お人好しで教えているのかもしれんがワシは指南役じゃないんじゃぞ。
まあ、生前指南役はしとったがの。それでも金のためにやっとったんじゃ。飯の種、というやつじゃの。それなのにあの豚は一々ワシに送りつけよって。
『骨だけだから飯の種いらないだろ』とか平気で言いおって。
確かにワシは骨だけかもしらんが酒くらいは嗜むんじゃ。むしろ酒と書物が生きがいで未だにこの世に未練がましくいるっていうのに、どっちも手に入らないようなことをさせられてたまるかい。
あのな。ワシがいかに骨だけと言ってもだな。食うことと寝ることくらいはするんじゃよ。何故腹が減るとか食ったものがどうなってるのか知らんがな、こんな骨だけになっても腹は減るし眠くはなるんじゃよ。しかしなんでワシは夜眠くなるんじゃろうな。他の骨人は夜起きて朝寝るっていうのに。
あ、なんじゃ。別に陽の光を浴びたらからって死んだりはせんわ。同じ族の奴らが言うには陽の光を浴びたら生前で言う夜になった感覚を覚えるっていうがな。
いや、そんな話はどうでもええんじゃったな。ヨーコという女だったな。ワシの元にそこそこ通い詰めてはおったな。最初は艶やかじゃったが、あやつ家がなかったんじゃて。どんどんみずぼらしくなっていっての。
ワシも見るに見かねて服など買ってやったもよじゃったよ。腹は減るが食わなくてもなんとかなるのが死人族のいいところ、なのかそうでないのか分からんが特徴での。金を余らせようと思ったらなんとでもなったもんじゃ。
あの夫婦の所で寝泊まりしていたわけじゃないんか。そりゃああんだけみずぼらしくもなるわな。女だてらじゃと夜も十分に寝られたもんじゃなかろう。男ですら何をやられるか分からんのが夜じゃ。女だと尚更。そう考えたら可哀想じゃの。
三ヶ月くらいはこの辺りにおったが街を出る、と言っとったのう。金のないやつにこの街は住みにくかろうて。ワシだって生前ここらの剣術指南はしとったが住んでいたのはもっと田舎じゃ。毎日呼ばれるわけでもないしの。
あの夫婦だってこの街に半日かけて歩いてきてるんじゃから。馬車なぞ使えんよ。この地にいるってことは金もたんまり貰えるわけじゃあないんじゃ。金が欲しけりゃ戦に参加するしかない。そこから宿無しじゃよ。
それが出来んやつはどうやって口に糊するか考えにゃならんのさ。
おお、そうじゃミニャル。南と言えばお前さんのほうがよく知ってるじゃろ。こいつになにか教えてやりんさい
ところで、
おぬしらあの子のなんなのじゃ」
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