繁華街、某ギルドにて 2

「リョーコ…。黒髪の長い女…。一年くらい前。あー、なんか記憶にあるなそいつ。

シルキィ、記憶にあるか。……お、覚えてるか。あ、あれ、あ、あ、あの時の。あー、あいつのことかな。おーおー。そうかそうか。多分そいつだな。おーおー、覚えてる覚えてる。

俺と妻のシルキィで伐採依頼を受けた時だったかな。どうだったっけシルキィ。そうだよな。そうそう。やたらに礼儀正しい女だったんだよな。こういうところはどちらかというと荒れた奴らが多いからあんまりにも礼儀正しいから妙に印象に残ったんだよな。


俺達は元々森の民だからな。どっちかっていうと森の中の野菜やらキノコやらの採取や家や薪に使う木を伐採したり、伐採されたものを運ぶとか、そういうのが仕事になることが多いんだよ

なんだって。でっけえ体型だから怪物と戦ってそうだって。そりゃあ面白えや。そういうのは竜人とか獣人の仕事さ。腕っぷしは負けねえが武器が使えるわけじゃねえし、体術がうまいってわけじゃあねえからなあ。

どっちかっていうとそういうのはカミさん、いや、耳長族とかの方がうめえんだわ。尤も腕っぷしが全然ないからそういう仕事につく耳長族は少ねえんだけどよ。

まあ、俺達夫婦は森に住んでいた時期が長えからそこを活かして働いてるってのがほとんどだわな。


だから一年前くらいに伐採した木を運ぶ仕事をやったときにたまたま同じ班だったんだよ。そいつと。

やたら礼儀正しいやつだったなあ。結構別嬪さんで、いてててて、やめろシルキィ。お前さんほどじゃなかったよ。第一若すぎるわな。別嬪っつっても娶りたいと思うような年齢じゃなかったって。それはシルキィも思ってたっつってただろうに。

ったくこいつはすぐ拗ねやがる。


あ、わりぃな。ウチのカミさん嫉妬深くて。

そうそう。そういう若いってのもやたら記憶に残ってだな。おめえさんが怒らねえなら言うけどよ、小娘って感じだったんだ。


小娘みたいな年齢のやつだってこのギルドで働くやつはいるが、そういう力仕事をするようなやつなんてほとんどいねえんだよな。

精々小遣い稼ぎに誰かの家の掃除とか、病人の炊事とか。そんな日銭稼ぎをするヤツの方が多いんだ。なんだかんだ女にゃ力仕事はしんどいからな。男で人豚族の俺だってしんどい事の方が多いってのに。

そういう意味では記憶にあるぜ。


あー。俺の姿見ておったまげてやがった。剣を向けてきてな。俺もなんだなんだって見たら木、なのかね、まあこの辺りでは見たことねえ木の剣を向けてきやがったよ。

そこをウチのカミさんがめちゃくちゃ怒ってさ。思い切り平手打ちしててな。カミさんが怒りながら事情説明したらすぐ謝ってきたよ。

まあ耳長族のほうが人間と見た目はちけえからな。俺なんて人豚族、って言われるくらいだから豚のほうが近いんだわな。そこはカミさんがいてくれてよかったよ。多分俺がなに言っても『豚の怪物』って言ってあの木の剣振ってきただろうからな。


そこから、か。

まあ普通に働いてたよ。一緒に数日ほどだったがね。

でもいつも仕事終わり頃になるとオロオロしてたんだよな。それはカミさんも思ってたようでよ。

話を聞いてみたら宿がねえ、って話でね。まあ同じ仕事をしたよしみで寝る場所くらい貸してやろうか、って話をしたんだが、断ってきてね。

それで最後の仕事が終わったんだけど大分薄汚れていてね。仕方ねえから無理やり家に案内したのさ。もうカミさんが強引でね。いてててて、シルキィ。耳を引っ張るな耳を。千切れるわな。


その時のなにか話したか、かい。

うーん。他愛のない話しかした記憶がねえんだよな。なんつったって一年くらい前の話だ。俺達もそこまで記憶がいいわけじゃねえや。

でもこの辺りにはもういねえんじゃねえかな。いるならどこかですれ違っているはずだしな。


え、なんだいシルキィ。

あ、なんだって。ドージョー。

あ、そんな話してたっけ。あ、あーあー。

なんか剣の指導してる場所に行きたいとかなんとか言ってたな。よく覚えてたな。あ、え、あー、うん。

すまんね、カミさん嫉妬深くて。なんか俺とヨーコとの会話結構覚えてるみたいなんだよ。俺そんなにいやらしい目つきでその子見てたんかね。そんなつもりなかったけど。

あーあー、悪かったって。悪かったよ。お前さんが一番さ。俺にとっちゃ一番の女さ。じゃなけりゃ耳長族と結婚なんざしないさ。お前さんが耳長族だから結婚したんじゃねえんだから。お前さんに俺が惚れたから結婚したんだから。


わりいな、俺が話せるのはここまでだ。

カミさん、他の女の話ししたら機嫌悪くなっちまう。まあ、そこで寝てる死人の奴に聞いてみなよ。あいつ生前は名のしれた剣士だったらしいぜ。

俺からはそこまでさ。


で、よ。

アンタ、その子のなんなのさ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る