あんた、あの子に惚れてるね 完

「そう。追ってきたのね。こんな場所まで。

大分変わったでしょ。こんなにお洒落するような人間じゃなかったもの。それがいつの間にか。

異世界っていい場所って多くの本に書かれたけど、全然そんな事なかったわね。世間を知らない浮浪者でしかなかったわ。

色々足掻いてみたけれど、結局こんな場所が落ち着くんだから。生きるって想像以上に大変なのがわかったわ。自分がどれだけ恵まれていたかもね。


異世界に来たらなにか変わるかもしれない、と思ったけど、さ。何も変わらなかったわ。あったのは辛い現実だけだった。

町並みや種族が違うだけで、あの東京と何も変わらないんだもん。私にとってはプラスどころかマイナスだったわ。

まだ身体を売る段階にならなくてセーフだった、ってだけなのかもね。私はたまたまで、他の人は……。


この世界に来て初めて感謝って言葉を覚えたわ。

そう、感謝。

誰かに食べさせてもらって、服ももらえて、それより前に住む場所があって。

当然と思っていたものはなにもなかったもの。パン、それもあの硬くて黒くて、まずいパンを一切れ貰うだけで藻掻き苦しんだんだから。

生きているってこんなに素晴らしい事だったんだな、って改めて思ったわ。

東京にいた頃には想像出来ない言葉だったかしら。


そうね。

真面目であることが価値だと思ってたから。誰よりも生真面目で誰からも褒められて、それが私の価値を高めるんだって。

でもそれは糧にならなかったのよね。心のどこかに見栄があったから、私は褒められたがったんだと思うし、それをきちんと向き合わなかったから今があって。

今の私があの時の私を見ると、きっと子供っぽく見えるんだろうね。気付けばどんどん孤立して行っちゃって。真面目だけが取り柄。


でも真面目だから今の私がここに行き着いたんだな、って思うと全部も否定できなくてさ。

なんていうのかな。真面目なのが生来ついたものだったんだろうね。それを上手くコントロール出来なかったから今に至ったというか。

色々経験したからこそコントロール出来るようになったとも言えるし。


あっちに帰りたいかって。

そうね。今だったら自分の家に帰りたいな、って思うわ。お父さんやお母さんに会って、甘えて、その分頑張って。

ちょっとだけ分不相応を求めて、失敗して分相応な場所に落ち着いていく。そんな普通の生活に戻りたいなって思う。

でも戻れないから。それはあなたもそうでしょう。


だから私はこの地で頑張っていく。

頑張るしかないんだから。

いかに間違ってても、自分の人生歪んだと思っても。歩いていくしかないんだから。

だから、私はここで、頑張るわ。田舎かもしれないけど、この仕事が何年出来るかも分からないけど。


あなたはどうするの。

……そっか。そうね。

でも、ちょっとだけ、答えは待って欲しい。今は応えられない。だってやっと今になって私は生き方を見つけたもの。それが正しいのか正しくないのか、きちんと決着をつけたい。

私の人生を決めるのは私だもの。どれだけ間違えても、道から逸れても。

その決着が着いたとき、お互いがまだ見初める相手もいなかったら、また来て欲しいな。


うん。

全部否定したわけじゃないの。

ただ、肯定するには私の中でまとまってないから。だから、まだ、答えを求めるのは待って欲しい。


なんだろうね。

東京の頃は?頼りない人と思ってたのにさ。


アナタ、本当に変わったのね。」

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異世界トーキング・ブルース ぬかてぃ、 @nukaty

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