いそばひ居るよ 〜いたずら難隠人〜
加須 千花
悪戯するぞー! おー!
あり
いそばひ
昔からずっと立っている花橘に、
上の枝にはトリモチを引きかけ、
中の枝には
下の枝にはヒメ鳥を
お前たちの母を取るとも知らず、
父を取るとも知らず、遊び
万葉集 作者未詳 巻第十三 3239番より抜粋
* * *
将来は
ただ、実の
と言っても、
加え、たった一人の息子だ。
三月の早朝。
自分と同じ六歳の
「ほーつえにー、もち引き掛けぇ〜……。」
そこらへんの草を引きちぎり(庭は手入れが良くされているので、実は
「
「けーっ。知るかよ。勉強なんて退屈だいっ。」
「
「こちたみっ(うるせっ)。ばーか、ばーか、私が主人だ。
「うう……。」
「お。」
たくさんの馬の
「ぐえっ。」
と
しばらくうかがうと、よく通る
「
と
「ひゃい!」
藪に隠れた
「変な声! あーあ、
普段は衛士だが、十日に一回、難隠人付きの女官として務めている。
なかなか骨のある奴だし、剣だって体術だってできるし、遊び相手として、難隠人のお気に入りだった。
……美人だし。
近くに行くと良い匂いがするし。
乳房大きいし。
「今から
「うん!」
古志加は上司の、いつもムスッと怖い顔をしてる
ちなみに三虎は、
古志加が遠慮がちに喋る。
「あの、今から
「はぁ? わざわざ時間を作ってやってるんだぞ。オレは、
「はい……。」
古志加と三虎は行ってしまった。
衛士たちも、さっさと
「ちぇ。つまんね……。」
そう、つまらないのだ。
お気に入りの女官は、今日は衛士でいない。
ずっと、産まれた時から一緒だった、たおやかで美しい
今は、
……さみしい。
早く
難隠人の実の
難隠人が母と頼れるのは、
……顔が見たい。会いたい。ぎゅってしてほしい。
「けっ。」
私は泣いたりするもんか!
今日も元気に
「
さっき、
その紐を歩いた人がぷつっと切ると、横から
上手く団子がその人にくっついて、腰を抜かすほど驚けば、成功だ。
颯爽と難隠人が浄足を振り返ると、浄足が、
「あわあわあわあわ。」
と何故か顔を真っ青にして、慌てている。
「ん?」
とつぶやいた難隠人に、上から影が落ちた。
(やべっ!)
と逃げる体勢をとったところで、背後に立った大人に、むんず、と耳たぶをつままれた。
「いててて!」
「難隠人さま。良くもやってくれましたね……。」
ふしゅうぅぅぅ、と怒りの吐息を吐く鬼の
後ろには、えぐえぐ泣いた女官、
ざっと見た限り、
「あ、団子、上手くくっつかなかったか。これは改良が必要だな!」
「あほ──────!」
鎌売が怒鳴った。
「こっち来なさい! 勉強さぼって、変な悪戯して! お尻を叩きますからね! まったく、
「け───っ、ぺっ、ぺっ、ぺっ、
「
「びえええ〜ん、申し訳ありません、おばあさま……。びええええ……。」
* * *
十二歳になった
「……で、オレも、
今からは想像つかないかもしれないけど、そんな六歳だったんだよ、
ちょうど、
「まったく。それぐらいにしろ。」
今ではすっかり落ち着いた十二歳の
「ははは。あの頃、オレは一番の被害者ですよ。沢山泣かされて、つきあいでお尻を腫らしました。
これくらい、言わせてもらいますよ。」
「ちっ。」
もうどうとでも言え、という態度だ。
……今なら、
でも、六歳の当時は、
「止めましょう。」
と言いながら、強引に止める事はできず、真っ赤な顔をしてぷるぷる震えながら、難隠人さまのあとをついてまわる事しかできなかった。
難隠人さまは、ふとした時に、深い哀しみを瞳に浮かべる
今ならわかる。
浄足はこう言いたかったのだ。
───オレがいるじゃないか!
オレがいつも、傍にいるのに、それでも寂しいのか?!
オレがいるだけじゃ駄目なのか?!
まあ、幼かったので、当時は言葉にできなかった……。
「まあ。ほほほ。」
母刀自、
母刀自は、いつでも綺麗だ。浄足の自慢である。
女官の
「それでも、あたしは、
「おっ、オレの味方はお前だけだな。」
浄足の
浄足は、穎人さまの笑顔に、落ち着きと、
今は穏やかだ……。
あとは、穎人さまのお父上と、その従者──あのいつもムッとした顔の叔父が、無事に
あの叔父から作り方を教わった、
早く、あの従者としては尊敬できる叔父に、この腕前を自慢したい。
待ってるから。
早く、帰ってこいよ、三虎。
───完───
いそばひ居るよ 〜いたずら難隠人〜 加須 千花 @moonpost18
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