第9話 すまん、その展開は予想外だ


「ふぁぁ、そろそろ出るかぁ」


 朝の7時頃、俺はいつものように少し眠たい体を無理矢理起こしつつドアに手をかける。本当に毎日思うのだが正直この家を出る前の時間が1日で最も憂鬱な時間だ。どうせ、今日も明日も明後日も学校に通った所であいつにはもう会えない。そんなことを考えるたびに行くこと自体に意味を見出せず、ズル休みをしてしまいたくなる。

 人間は簡単に嘘をつく。それは例え相手が長年付き添った相手であったとしても、平気な顔で嘘をつく。だから、俺は決めた。もう人を信用しないと...大切な人を作らない、と。

 今まではそうしてきたはず...なのに思い返してみれば昨日の俺はなんだ? いくら罪悪感があるとは言え、女子を部屋に招き入れ随分と仲良くなってしまった。


 よくよく思い返してみれば成瀬達の言ってたようにおかしな点だらけだ。よし...昨日で謝罪としては十分なくらいの事をしたはずだし、今日からはいくら悲しそうな顔をされようが圧のある顔をされようが無視をすることとしよう。

 うん、多分それが正解だな。弁当の件も今日の1回で終わりにして貰って——。


「あっ、こんにちは笹木さん」

「...なんでいる?」


 人の決意をなんだと思ってるんだ、この子。


「いやぁ、昨日家に寄らせてもらったじゃないですか。忘れちゃいましたか?」

「いや、そういうことじゃないんだが。本当になんでいる?」

「朝から笹木さんと登校...なんだか夫婦みたいですね!」

「少しくらい話を聞いてくれないか?」


 まるで当然のように家の前に立っていた小野ちゃんが、話も聞かず興奮気味にそんなことを言うので俺は苦言を呈するが、どうやら小野ちゃんに響いている様子はない。まぁ、小野ちゃんが強引な性格してるのは昨日の時点で分かっていたが...面倒だな。


「分かりました。じゃあ、学校まで一緒に行ってくださりますか?」

「ダメだ」

「よしっ、では早速行きましょう!」

「うん、だから少しくらい話を聞いてくれ!?」


 キッパリと断ったはずなのにいつの間にか俺の手を掴んでいた小野ちゃんに引っ張れるようにして、結局俺と小野ちゃんは一緒に登校することになるのだった。

 くっ、全然上手くいかねぇ。



 *



「お2人さん、朝の見てたぜ。朝から一緒に登校とは熱々じゃないか」

「全くだよ。私達がどれだけ誘っても「いやだ」の一辺倒なのに...やっぱり、本命相手には対応が違うのかな?」

「えへへ」

「...強引に連れて来られただけだ」


 昼の放課になると、成瀬達が少し冷やかすようにそんなことを口にしながら近づいてくるので、俺は静かにそう返す。ちなみに小野ちゃんは隣でとてもニヤけていた。いや、だから朝も一切「いい」とは言ってないんだがな?


「えー、つまりドクは早速小野ちゃんに尻に敷かれてるってこと?」

「そういうことじゃない」


 しかし、山本はニヤニヤと笑みを浮かべたままそんなことを言う。どう言えばいいんだよ。


「そ、それより弁当持って来ましたから貰ってください」

「あ、そう言えばそうだったな。ありがとな」

「い、いえ...//」

「「...えっ?」」


 ドSモード全開の山本相手に俺が頭を悩ませていると、小野ちゃんがやや早口でそんなこと言い水色のランチクラスに包まれたお弁当箱であろうものを俺へと手渡してくる。


「? どうした、お前ら?」

「「いやいやいやいや、おかしいだろ(でしょ)!?」」


 すると成瀬達が素っ頓狂な声を上げるので、俺が尋ねてみると成瀬と山本は2人揃って全力で手と首を横に振る。いや、まぁ気持ちは分からなくはないけどさ俺としては今日で終わりにして貰うつもりだし、一回くらいならどうってことないだろう? 流石に折角作ってきてくれただろうに断るのは申し訳なさすぎるからな。


「ドクの奴が人からの弁当を食べることがあるなんて...」

「そんな...絶対にドクは小野ちゃんの尻に敷かれているタイプだと思ってたのに。逆なんてことあり得るの? 嘘だよね?」

「山本だけ後で外へ出ろ」


 山本だけとても失礼な理由で驚いていた。本当にこいつは...。


「えっ、なに告白?」

「...面倒くせぇ」

「なになに? なんて、言ったのかなぁ?」


 本当に面倒くせぇ...。減らず口とはまさしくこのことだろう。


「まぁ、バカどもは置いておくとして...早速頂くな」

「あ、あっ、はい」

「「ゴクッ...!」」


 俺は後で明日からはいらないということをどう伝えようか考えながらも、水色のランチクロスをするすると解いていく。なんか成瀬達も固唾を呑んでこちらを見てくるが無視でいいだろう。この状況でこいつらの相手をしてもいいことがない。


「...って、あれ?」

「「んっ?」」


 しかし、出てきた弁当箱を見て俺と成瀬達は固まる。


「「...パシリ?」」

「違うっ!」


 というのも、中に包まれていたのはコンビニなどで売っているようなお弁当だったからである。成瀬と山本が本気で俺にドン引いたようなリアクションをとるので俺は慌てて、それを否定する。


「小野ちゃん、これって...」

「本当にごめんなさいっ」


 俺もてっきりわざわざ小野ちゃんが用意するということは手作りだとばかり思っていたので、内心驚きつつ小野ちゃんに尋ねようとするとそれよりも先に小野ちゃんが頭を下げて謝ってくる。当然、意味の分からない俺は固まるが小野ちゃんはそんな俺を尻目に言葉を続ける。


「そ、その昨日は自信満々だったんですけど忘れてたんですけどそもそも私あまり料理とかしたことなくて...一晩中頑張ってみたんですけど全部失敗しちゃいまして...笹木さんに食べて頂くには到底及ばないものばかりで、でも約束したのに持ってかないのもどうかと思ってこれを代わりに持ってきた次第なんです。本当にごめんなさい!」

「いや、それは全然いいんだけど...」


 小野ちゃんが再度頭を下げてそんなことを言うので、俺は戸惑いつつもそう返す。いや、この展開は読めないって。というか、この場合はどうやって明日からお弁当はいいと伝えたらいいんだ? あまりに予想外の展開であまりパッと思いつかないんだが。


「なので是非明日はリベンジさせてください。どうか、お願いします。私にチャンスをください」

「えっ? いや...」


 俺がそんなことを考えていると小野ちゃんが少し涙目で俺の手を掴みながらそんなことをお願いしてくる。小野ちゃん的に相当悔しかったらしい。


「お願いしますっ」

「うん、いや、まぁいいけど...」


 そして、流石にそこまで言われて断れる訳もなくまたも俺は小野ちゃんのお願いを引き受けてしまうのだった。...本当に上手くいかない。




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 次回「どうやら小野ちゃんにつけられているっぽい...いや、まる分かりすぎるんだが」


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