第3話 転校生が来るらしい。まぁ、どうせ関わらないし関係ないんだけどさ


「ドクー、久しぶりだな。会いたかったぞっー!!」

「いや、普通に昨日も会った」

「昨日お前があった俺が今目の前にいる俺だと何故そう言い切れる?」

「邪魔だな」



 いつものようにSTが始まる10分ほど前に席に着くと、俺の友人を自称する男、成瀬なるせ りんが抱きついて来たので普通に鬱陶しいので強引に引き剥がす。...朝から元気過ぎないか? こいつ。


「酷いわ。この冷徹男っ」

「...それは悪かったな」

「あっ、ところで今度カラオケ行かね?」


 さっきまでハンカチを噛み涙を浮かべていた(演技)成瀬だったが、一瞬のうちにハンカチをしまいパッと顔を上げるとそんなことを言う。こいつの情緒はどうなっているんだ。


「カラオケには興味ないんだ」

「えー、お前いつもそれじゃん。たまには行こうぜ? なっ? ほら、行ってみれば案外楽しいとか結構あるぞ?」


 そして俺がやんわりと行かない意を伝えると成瀬は不満そうにそんな事を言う。


「嫌だ」

「というか、こんだけ話したりしてんのに俺お前と遊びに行ったことないし、真面目に行きたいんだよ。頼むよ〜ドクー」

「足を掴むな。鬱陶しい」

「おはよう。こんな朝早くからなにを楽しそうに話してるのかな、お2人さん」


 成瀬が中々諦めてくれず困っていると、後ろからそんな声が聞こえて来た。


「おはよう、すい。聞いてくれよ〜、ドクの奴をカラオケに誘ってるんだが全然釣れないんだ。お前からも何か言ってやってくれよぉ」

「おかしいな。約1名から返事が返って来ないんだけど」

「...おはよう、山本」


 俺と成瀬が振り返ると、そこには自他共に認める美少女である山本 すい(ドS)が立っていた。どうやら今日はツインテールの気分らしい。結局、どうやら今日も俺はこいつらの相手をする必要があるらしい。


「ところで、凛カラオケだっけ? ドクにそれは酷だと思うよ。だって...音痴だもん」

「なっ、そうだったのか。そりゃ何度誘っても無駄ってわけか。なんか、悪かったなドク」

「いや、山本の前でも歌ったこと一度もないんだが。適当言うのやめて貰っていいか?」


 そして現れるなりナチュラルに成瀬に嘘を吹き込もうとする山本。本当にこいつは要注意人物だな。


「いや、音痴といったのは私のただの予想。だって、ドクが歌ってるの誰も聞いたことがないんだもん。だから音痴じゃない保障もないでしょ?」

「いや、だからといって音痴と決めつけるのは——」

「じゃあ、実際に歌って証明してよ? それが出来ないなら音痴認定するけど」

「...音痴でいいよ」

「やったー、また私の勝ち」


 ニヤニヤと笑みを浮かべ拳を突き上げる山本。


「お前って本当にいい性格してるよな」

「そう? それはどうもありがとう。私はドクも中々いい性格してると思うよ」

「ドクが人を褒めるなんて珍しい。雨確定演出か!?」


 俺の嫌味を意にも介さず、それどころか笑顔で反撃を繰り出してくる山本。本当に口でこいつに勝てる気がしない。そして、成瀬はただただアホである。何故、褒め言葉として受け止めてるんだこいつ。


「今、ドク口では勝てないと思ったでしょ? 多分、体力でも勉強でも勝てないよ?」

「心読んでまで攻撃してくんなっ」

「おー、久しぶりに感情の乗ったドクが見れた。やったー♪」


 俺が声を出しツッコミを入れると心底嬉しそうにそんなことを言う山本。未だにこいつのスイッチがどこなのか全く掴めない。分かっているのは間違いなくこいつはドSだと言うことだ。


「というか、今日転校生が来るって言ってたけど2人はなんか情報仕入れてたりする?」


 すると突然凛が俺と山本にそんなことを問いかけて来た。...そういや、昨日岡本先生がそんなこと言ってたっけ?


「いや凛こういう時にドクになんか聞いても無駄だよ? 何も知らないから」

「決めつけるのは違うだろ」

「じゃあ、なんか知ってるの?」

「...ついさっきまでそのこと転校生が来ること忘れてた」

「うん、二度と口を開かないようにね?」


 山本が俺の肩を両手でガッシリと掴みながらそんなこと言う。


「別にいいだろ? どうせ俺は関わるつもりないし関係ないんだから」

「うわー、ついには開き直っちゃったよ。どう思う凛?」

「良くないと思うなー、良くないことだから良くないと思うなー」

「ごめん、凛も二度と口を開かないでくれるかな?」


 何故か某元環境大臣構文の凛もそんな風に言われてしまい、俺と2人して黙り込む。

 そしてそんな俺と凛を見て山本はとてもご満悦といった様子だ。...こいつがこの顔でこのスタイルでモテないのって多分こういうとこのせいだよなぁ。


「ドク、今失礼な事考えたでしょ?」


 そんなことを俺が考えていると、山本が俺の顔を除きこみながら笑みを浮かべていた。どこか不気味に感じるくらいの笑みである。...絶対に怒ってるわ、これ。


「これはお仕置きが必要だね。なーにがいい——」

「おーい、お前ら早く席につけ。みんなお待ちかね転校生がやって来るぞー! というか、ぶっちゃけお前らが今日来た目的の8割はこれだろ?」

「お、おい、転校生だってよ。お前らも早く席につけって。いやー、楽しみだなー転校生。どんな人間が来るんだろう」

「いや、ドクはさっきまで存在忘れてたでしょ。誤魔化そうとしてるのバレバレだから。あと普通は「人間」なんて風に呼ばないからね?」

「ビバッ転校生! 楽しみだな〜」


 しかし、岡本先生がそんなことを言いながら教室に入ってきたのでそれに乗じて2人を俺の席から追い払う。ふぅ、危ないところだった。


「さて、みな席についたな? ということで、今から転校生が入って来るわけだが...結構緊張してるからあんまり騒がしくし過ぎんなよ? 分かってるか、成瀬?」

「押忍っ!!!」

「よし、やっぱり分かってないな。お前はちょっと口を閉じておけ」


 なんか早速成瀬が沈黙命令を受けていた。適切な判断である。


「じゃあ、入ってきてくれ」


 そして成瀬が両手で自分の口を塞いだのを確認し、岡本先生が扉に向かって呼びかける。

 その瞬間、みんなの視線が一斉に扉に集まる。


「こ、こんにちわー」


 次の瞬間、扉がゆっくり開き小さな声と共に転校生が中へと入って来た。


「小さっ」

「可愛い」

「お、同じ高校生だよな?」


 しかし、教室内には少し異様な雰囲気が漂う。というのも、現れた転校生は小学生、中学生かと見まごうほどの身長に容姿、その上飛び抜けた美少女なのだ。

 そして俺はと言えばみんなとは別ベクトルの驚きを受けていた。いや、みんなとは比べ物にならないほどの驚きを受けていた。というのも、


「ど、どうも、小野 雪と言います。今日からよろしくお願いします」


 昨日出会った小野 雪ちゃんその人だったからである。えっ? そんなことある? ってか、なんか俺の方ガン見してない!? 凄い嫌な予感するんだけど。



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 次回「「こ、婚約者です」「誤解、誤解だからっ」」



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