第4話 「こ、婚約者です」「誤解、誤解だからっ」


「はい、ということで小野 雪さんが今日から皆のクラスメイトとして新たに加わることになったわけだ。まぁ、皆のことなので心配はしていないが暖かく迎え入れてやってくれな」

「「「押忍っっっー!!!」」」

「一応言っておくと暖かいとうるさいは全然違うからな?


 俺の動揺など露知らず教室内は未だかつてない熱気に溢れていた。まぁ、確かに高校生になって転校生が来るなんて普通ないだろうし、テンションが上がるのは分からなくないのだが...俺の場合は最早そういう次元じゃない。

 まず、そもそもとして小野ちゃんが同年代ったことも衝撃的だが、その上同じ高校かつ同じクラスに転入してくるってどんな奇跡だよ。というか、ってことは昨日俺とんでもない約束を引き受けてしまったことになるんじゃ? ...いや、流石にあれはあの場限りものだと信じよう。

 でも、さっきからずっとこっちガン見だし。あまりにガン見しすぎて若干クラスメイトもそれに気づき始めて俺に注目集まりだしたし。


「ど、どうした小野? 笹木のことをそんなマジマジと見て...もしかして、知り合いだったりするのか?」

「えっと、知り合いと言えば知り合いというかむしろそれ以上というか...」

「分かった。...じゃあ、転校してきたばっかりで不安なこともあるだろし知り合いなら近い方が安心出来るか。おーい、高橋そこの席譲って貰えるか? お前は小野さんが元々座る予定だった席に座ってくれればいいから」

「本当ですか!!」


 えっ!? なにその展開? 俺聞いてないよ? いや、確かに先生の判断としては転校生として緊張してる小野ちゃんを配慮してのことだろうし、間違ってないんだろうけどそれでもそれは違くない!? ほら、教室内にも異様な雰囲気流れてるから。いや、これはなんか俺が小野ちゃんと知り合いなことな驚いてるぽい感じのだけど。しかも、なんか小野ちゃん大喜びしてるからもう大分苦しそうだけど。

 いや、まだだ。隣の席の高橋くんに俺の命運はかかっている。頼む、先生のお願いを断ってくれ。俺の隣がいいと言ってくれ。

 ほら、あれだ俺と君は最高の親友だったろ? ...授業でしか話したことないけど。 でも、だとしても俺のこの必死の目の訴えを見たら分かってくれるはずだ。


「そ、そりゃ全然いいっすけど...」


 高橋くんは必死に目で合図を送る俺と目をキラキラとさせた小野ちゃんを交互に見たのちにそう答える。どうやら見捨てられたらしい。


「よし、じゃあ決まりだな。小野はとりあえず知り合いらしい笹木の隣の席ということで決定」

「わーい」

「...」


 まだざわつきの収まらない教室の中、岡本先生はそう宣言し朝のSTは終わりを迎えるのだった。

 本当に何が起こってるんだ、これ。



 *


「ふふっ、まさか同じクラスとは...嬉しいです。ふつかものですが今日からお願いしますね?」

「...」


 1時間目が始まる前の放課、クラス中の視線が集まる中隣の席へと座った小野ちゃんが、荷物を置きながら上目遣いで(身長的に必然的にそうなる)笑いかけてくるが、未だにこの現実を受け止められない俺は固まったまま何も返すことが出来ない。


「おい、ドク一体どういうことなんだ? 教えてくれっ」

「さっきの仕返しは説明してくれればなしにしてあげるから大人しく小野さんと知り合った経緯と関係性を教えてくれる?」


 すると、早速成瀬と山本が俺の席へとやって来てはそんなことを言ってきた。


「あ、あのー、もしかしてお2人って笹木さんのご友人ですか?」


 俺がどう答えるべきか頭を悩みに悩ませていると、小野ちゃんが少し緊張した様子で2人にそんなことを尋ねる。


「あぁ、俺はこいつの友人の成瀬 凛っていうんだ。小野さん、よろしくな!」

「はい、こちらこそよろしくです!」


 すると成瀬の方が元気よくそんな風に答える。凄いなこいつ。...よく、初対面の相手にここまでいけるな。相変わらずのコミュ強である。


「私は山本 すいって言うんだ。よろしくね。ちなみにドクが私の友人かどうかの件だけど...ドクは普通に私の下僕だね」

「よろしくです! げほく?はなにか分からないですが、そういう関係なのですね。仲よさそうで...とても羨ましいです」


 そして成瀬の挨拶が終わると山本もそんな風に小野ちゃんに挨拶をする。

 凄いなこいつ。よく初対面の相手にこんなに堂々とした嘘をつけるものだ。相変わらずのサディストっぷりである。というか、なんか今一瞬小野ちゃんの目怖くなかった? 気のせいだろうか。


「「まぁ、そんなことはどうでもよくて小野ちゃんはドクとどんな関係なの???」」



 俺がそんなことを考えていると、2人が口を揃えてそんなことを尋ねる。成瀬の方は純粋な興味といった様子で目をキラキラとさせながら、そして山本の方はオモチャを探す子供のような様子で目をギラギラとさせながら。


「だから、ただの知り合——」

「こ、婚約者です」

「「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」」


 俺が慌てて知り合いと口にするも小野ちゃんが少し恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうにそんなことを口にし、2人だけでなく教室中から驚きの声が上がる。ちなみに男子からは悲鳴が聞こえた。

 特に山本と成瀬は驚きが大きかったらしくアングリと口を開け、固まってしまっていた。


「誤解、誤解だからっ。全部誤解だから皆勘違いするなよ!?」

「むぅ、誤解じゃないです。笹木さん、昨日「将来結婚しよう」って言ってくれたじゃないですかっ。酷いです」

「「「うぇぇぇぇ!!?」」」


 俺は慌てて否定するが小野ちゃんがそれに対し小さな頰を膨らませ不満げにそんなことを言うので、教室中から更に驚きの声が上がる。というか、なんか小野ちゃんちょっと変えてない? 俺は確か将来まだ小野ちゃんが俺のこと好きだったら結婚してもいい的なこと言った気がするんだけど、なんか大分都合よく解釈されてない!?


「い、いや、その俺としては小野ちゃん小学生か中学生くらいだと思ってたから、一時的な気の迷いだろうなーと思って断って傷つけるのもアレだしと思ってオッケーしただけで、本気ではなかったと言うかなんと言うか...」


 俺はあまりの展開に動揺してしまい、焦り慌ててしまいそんなことを口にする。


「えっ?」


 その瞬間、小野ちゃんの目から色が失せ、小野ちゃんは固まってしまうのであった。



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 次回「でも、結婚してくれるって言いましたよね????????」



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