第7話 いや、家まで入っていいとは言ってない


「今日の所はこれで終わりな、さようなら!」

「「「さようなら」」」

「じゃあ、俺は今日今から会議あるからまた明日」


 帰りのST俺たちは声を揃えて岡本先生へと頭を下げると、岡本は用があるらしく急ぎ足で教室を出て行った。


「はー、今日は色々と疲れました」

「だろうな」


 不意に隣を見ると小野ちゃんが机にグッタリと倒れ込んでいた。なにせ、転校初日だしな。緊張なども当然色々あったろうし疲れるのも無理はないだろう。まぁ、俺も俺で物凄く疲れたわけだが。


「まぁ、でもこれから笹木さんと帰れると考えたらこんなの全然——」

「小野さーん! 私達と一緒に帰らない? 色々とお話ししてみたいし」


 小野ちゃんが俺にとって気の重い話をし始めたその時、いつのまにか周りに集まっていたしいクラスメイト達の内の1人がそんな声を上げる。


「おっ、いいじゃ——」

「ごめんなさい! 私、先に笹木さんと一緒に帰ると約束してるので」


 俺はチャンスと踏んで小野ちゃんになんとか行かせようと声を上げようとするが、それよりも早く小野ちゃんが俺の手を掴むとそんなことを宣言する。どうやら意外と小野ちゃんは大胆な性格をしているらしい。いや、目立ちたくない俺としてはこの上なく最悪だけど。...当然のごとくクラスメイトの視線の集まりよう凄いし。

 今日だけで俺が必死に今まで積み上げてきたパッとしない地味な奴のイメージが大分崩れてしまっているような気がしてならない。


「じゃ、じゃあさ、私達がそれに着いていくってのはダメかな?」

「本当にごめんなさい。私と笹木さん2人だけで帰るって約束なんです」


 だが、女子生徒はまだ諦められないようでそんな提案を投げかけるが、小野ちゃんは頭を下げるとそう言い切った。そしてその瞬間にクラス内に更に流れるざわめき。うん?


「いや、そんな約束ではなか——」

「だって、多分ですけど笹木さん大人数の中にいるの苦痛ですよね?」


 クラスメイトに朝の件は何も説明していないし、ここで更に変なイメージを抱かれては敵わないと俺は慌てて否定しようとするが、その瞬間小野ちゃんに耳元で小さくそんなことを言われてしまいつい黙り込んでしまう。

 確かに正論である。


「だから、ここはひとつ乗ってくれませんか?」

「...分かった」

「あ、ありがとうございます」


 そしてついには小野ちゃんにそう説得されてしまい、俺は大人しく頷いた。そして、俺の返事を聞いた小野ちゃんは笑顔でそう答えると、未だ混乱している様子の女子生徒の方へと振り返り


「今日の所はすいません。もう一度婚約者にして貰う為に頑張らないといけないので」

「おい、もう行くぞ」


 笑顔のまま誤解しか生まない事を口にするのだった。...どうやらこんなところでごねているより、早く連れ出して一緒に帰った方が被害が少なさそうである。教室が更なる喧騒に包まれる中、俺は小野ちゃんの手を引き素早く逃げ出すのだった。めちゃくちゃに勘違いされてそうでならないがまた今度ゆっくり説明すればきっと皆んな分かってくれるだろう。まあ、山本と成瀬すらポカーンとしていたのは非常に気になる所だが...分かってくれる、よな?


 *



「はぁ」

「ため息なんてついてどうしたんですか?」

「...そりゃあ、小野ちゃんのお陰で色々と疲れたからな」

「やっぱりたまに笹木さんってイジワルですよね」


 帰り道、俺が自分の家に向けて歩いていると必死に俺についてこようとやや早歩きで後ろを歩く小野ちゃんが少し不満そうにそう呟く。


「だから昨日も言ったろ? 俺はいい奴でもなんでもないんだよ。だから、小野ちゃんが惚れたのは幻想の俺で本当の俺じゃないんだからいい加減諦めて——」

「いや、でも私ちょっぴりS気質な笹木さんも好きなので」


 俺はそれに乗じてなんとか言い聞かせようとするが、真顔の小野ちゃんにそんな風に即答されてしまう。


「世の中には俺なんかより魅力的な男性はいぅぱいいると思うんだが」

「だから、私が好きなのは笹木さんですから。何を言っても諦めませんからね? 笹木さんこそそろそろ諦めさせるのを諦めてください?」

「...本当に面倒くさい。最悪だ」

「わざと強い言葉使っても無駄ですから。しかもちょっと罪悪感からか語気よわいですし。むしろ、もっと言ってくださいって感じですよ♡」


 ぐっ、俺の想定の3倍くらい小野ちゃんが口論に強い。最初の頃のちょっと内気な感じの小野ちゃんはどこ行ったんだよ。なんか話す度に小野ちゃんがヤバくなっていっているような気がしてならないのは気のせいか?


「? どうかしました?」

「い、いや、小野ちゃん昨日と全然印象違うなって」

「あはは、それを言ったら笹木さんだって昨日は一人称「僕」だったじゃないですか」

「いや、あの時は本当に小学生くらいだと思ってたから」

「今は?」

「...ちょっぴりまだ疑ってる」

「失礼すぎますよっ」


 俺が正直にそう答えると小野ちゃんは怒ったようなショックを受けたような表情で、ツッコミを入れてくる。うーん、昨日とあまり変わらない小野ちゃんだ。やっぱりヤバくなってるは考えすぎか? と、そんなことを考えているといつの間にやら俺の住む家が見えてきた。


「っと、着いたな。じゃあ、小野ちゃんまた明日な。まぁ、今日は俺も罪悪感あったから一緒に帰ることにしたけど基本1人のがいいから、明日からは他の誰かでも誘って—」

「し、失礼しまーす!」

「おい、ちょっと待て」


 俺が家の前で別れの挨拶をしていると何故か当然のごとく俺の家の中へと入っていこうとする小野ちゃん。


「で、でも、どうしても確認しなきゃいけないことがあるんです。女がいないか、とか。女がいないか、とか。女がいないか、とか。あと、他にも」

「多分、他も全部「女がいないか」だろ!? 痕跡すら1つもないから大人しく帰ってくれない!? 家まで上がっていいとは言ってないし、付き合ってもないのに年頃の女の子が一人暮らしの男の家に上がりこむのは危険だから。やめておいた方がいい」


 俺はなんとか小野ちゃんの肩を掴みそれを止めようするが、


「笹木さんは大丈夫です。しかも、ま、間違いならむしろ起こってくれた方がいいくらいですから」

「なにを口走ってるんだ!?」


 結局、頰を赤らめながらそんなことを言い家の中へと入るのを諦めようとしない小野ちゃんと絶対に入れたくない俺との戦いはこの後20分ほど続くのだった。

 ...やっぱりなんか小野ちゃんヤバくなってない!? 俺が婚約者は嘘だったって言ってからたまに凄く圧を感じたり変なこと言うことがある気がするんだが...。




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 次回「小野ちゃんの俺の家探索〜!!(やけくそ)」


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