第8話 小野ちゃんの俺ん家探索〜!!(やけくそ)


「お邪魔しまーす!」

「...はい」


 俺が鍵を開けると小野ちゃんが元気よくそんなことを言いながら俺の家の中へと入る。そして、俺もそれに続いてゆっくりと入る。...本当の本当に入れるつもりは1ミリもなかったのだが、まさかの粘り負けである。というか、なんか小野ちゃんって特有の断りにくい圧があるというかなんというか...気のせいか?


「とりあえず、玄関に女の人の靴類はないですね」

「いや、まぁうん」


 別に俺に本当に彼女など存在しないので、どこを見られようと女の気配は見つからないのだがどうやら小野ちゃんは俺が頑なに入室を許可しなかったことで、彼女がいるという疑いを強めたようである。


「まぁ、でも靴とかは事前に隠すことくらい出来ますし、今日はたまたま来てないだけかもしれないですからね。ここだけではまだ判断出来ません」

「いや、事前に隠すもなにもそもそも小野ちゃんが寄るなんて予想外も良いところだからね?」

「次はリビングです♪..はっ!? そう言えばリビングに入る許可はまだ頂いてませんでした。入って大丈夫ですか?」

「...もう、どこでも好きに探索していいよ」


 最早、ただノリノリで部屋探索をしようとしているようにしか見えない小野ちゃんはリビングへと続く扉に手を掛けたところで、思い出したかのように動きを止め、俺の方を見てそんなことを尋ねてくるので俺は半ば諦めの気持ちでそう答える。

 ...昨日もそうだけどなんでこの子は変な所で律儀なんだろうか。子供っぽくて自由人でめちゃくちゃなことをするかと思えば、真面目な一面もある。本当によく分からないな。


「ふむ、この部屋も女っ気のあるものはパッと見なさそうですね」

「だから、さっきからずっと彼女なんていないって言ってるだろ? はぁ...ちょっとお茶でも入れるからそこに座っててくれ」


 俺はため息をつきつつ、キッチンへと歩いていくとお茶っ葉とコップを取り出す。


「もしかしたら、このアルバムに彼女さんとの思い出の写真が写っていたり」


 すると小野ちゃんはリビングの本棚に置いておいた1つのアルバムを手に取りながら、そんなことを呟く。


「それはただの卒業アルバムだ。ってか、デカデカとそうやって書いてあるだろうが。最早、それ小野ちゃんがちょっと見たいだけだろ」

「そ、そんなことないですよ」


 小野ちゃんは焦ったように手を首に振ると少し上ずった声でそんなことを言う。


「本当は?」

「...そんなことなくないです」

「小野ちゃんはあんまり嘘つかない方がいいかもな。下手くそだし」


 それに2回目聞かれると罪悪感に負けてか嘘つけないからな。あまりに向いてないとしか言いようがない。


「下手くそってなんですかっ! 私だって嘘くらいつけますよ。余裕で」

「そっか、それは凄いな」

「えぇ、まぁそれほどでもないですけど」


 俺が適当にそう答えるととても自慢げに胸を張る小野ちゃん。少し残念なのは本人としては胸を張ってスタイルをアピールしてきているっぽいのだが、体型が小学生中学生と見紛うほどなのでその肝心の胸が無いに等しいところだろうか。


「なんでしょう。なんか今とてつもない殺意が湧きました」

「お、お茶でも飲むか?」


 俺がそんなことを考えていると何かを察知したように今までで1番怖い顔をしてそんなことを呟いた小野ちゃん。俺は少し恐怖を覚え慌ててお茶を差し出す。うん、今後は例え頭の中でもそう言うことを考えるのはよそう。いつか刺されてしまいそうだ。


「はぁ〜落ち着きます〜」


 俺が少し怯えながらそんな決意を固めているとお茶を飲んだ小野ちゃんが、のんびりとした口調でそう口にする。...良かった、小野ちゃんが単純で。やっぱりなんか子供っぽいんだよなぁ。胸といい。


「あっ、またなにか殺意が、本当に私どうしたんでしょうか?」

「お、お茶のお代わりでもいるか?」


 俺は慌ててもう一度お茶を入れに向かうのだった。うん、やっぱりダメだ。危ねえわ、これ。



 *



「というか、そう言えば今更ですけど笹木さん1人暮らしなのにアパートとかでもなく普通の一軒家なんですね...はっ、まさかやはり表向きは彼女いない風を装っていますが、本当は彼女がいて同棲でもしてるから...」


 二度目のお茶も飲み終え他の部屋も探索し終えた小野ちゃんは、ふと思い立ったようにそんなことを口にする。


「いや、元々親も一緒にここで住んでたんだよ。去年から海外に赴任になってな。それで俺が1人で住んでるってだけの話なんだ」

「なるほど、そういうことでしたか」


 特に隠すことでもないので俺がそう伝えてやると小野ちゃんはどこか納得したように頷いた。なんで、そんな彼女に繋げたがるんだ。


「というか、さっきから気になってたんだが俺に仮に彼女がいたらどうするつもりなんだよ」

「えっ? いるんですか?」

「あくまで例えだからな? そんな怖い顔すんな」


 仮にと言ったのに瞳から色を消しマジトーンで尋ねてくる小野ちゃんに俺はそう確認する。


「まぁ、なんかもう疲れたな。とにかく、これで彼女がいないことはよーく分かったろ? 分かったら帰ってくれ」

「いや、最後に1箇所だけ1箇所だけまだ見たい所がぁ」

「もう、全部の部屋見て回ったろうが」


 しつこくなんとか粘ろうとする小野ちゃんに俺はそんなツッコミを入れる。


「いや、ここはまだ見てません」

「ちょっと待て。それは冷蔵庫だ。女ものとか最早関係ないだろ」


 そんなことを言いながら冷蔵庫を指差す小野ちゃん。確かにそりゃ見てないだろうけど。というか、ちょっと見られるのはマズイかも。俺そう思い小野ちゃんを止めようと走り出すが動き出し少し遅かったせいで、小野ちゃんの手によって開けられてしまう。すると冷蔵庫の中には見慣れた真っ白な光景が広がっていた。


「まぁ、大量にカップ麺のゴミが並べてあったのを見てしまった時点で予想通りでしたね」


 小野ちゃんが少し呆れたような口調でそう呟く。どうやら始めから気づかれていたらしい。というか、だとしたらこれはなにが目的なんた?


「昨日一緒に買い物をしてもらった際もカップ麺系ばかりで少し不安でしたが、案の条ですね」

「はい、すいませんでした」


 別に小野ちゃんは俺を責めているわけではないのだか俺は反射的に謝ってしまう。というか、今見たら小野ちゃんの顔が何故かニッコニコのような...? それに口笛まで吹いてやけに上機嫌である。どうしたんだ?


「これじゃあ、体にとても不健康だと私は思うんですが?」

「...返す言葉もない」

「それに今日の昼ご飯もコンビニのパンとか出したよね?」

「はい」


 段々と追い詰められていく俺。あれ、やっぱり上機嫌は気のせいか? 普通に怒られてるだけか?


「最早、不健康とかそういうレベルじゃないですよね、これ」

「その通りです」

「じゃあ、決まりですね。明日からは私がお昼ご飯を作ってきてあげます」

「えっ?」


 すると、小野ちゃんはポンと手を打ち笑顔のままそんなことを口にする。ま、まさか最初からこれが目的だったか? 通りで上機嫌になるわけである。


「だ、だが...」

「でも、不健康極まりないですしお昼ご飯くらいはバランスの取れた食事をしないとマズイですよね?」

「うっ」


 あまりこれ以上関係を築きたくない俺もなんとか断ろうとするが終始笑顔で上機嫌の小野ちゃんに更に追い詰められていく。


「でも、わざわざ作って貰うのは悪いし——」

「私は笹木さんのことが大好きですから。むしろご褒美なので気にしないでください♡」


 最終手段として小野ちゃんの迷惑になる理論で行こうとしたが、即座にそんな返しをされついに反論のカードを失ってしまう。



「じゃあ、決まりですね。明日から私が笹木さんの昼ご飯を用意してきてあげます」

「...」


 結局これもまた小野ちゃんによって押し切られてしまい、小野ちゃんが俺に昼ご飯を作ってきてくれることが決定するのだった。


「ふふっ、楽しみです。それに他の女子の牽制にもなりそうですし、色々とワクワクが止まりません。じゃあ、今日は帰って色々と準備したいのでまた明日です。お邪魔になりました〜」


 そして小野ちゃんはウキウキを体現したかのようなテンションで去っていくのだった。

 クラスの奴らに変な勘違いでもされなきゃいいが...いや、それが小野ちゃんの狙いの一部っぽいし無駄か?

 俺はしばらくそんなことを考え折角小野ちゃん自体は帰ったというのに、頭を悩ませる羽目になるのだった。





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 次回「ごめん、その展開は予想してなかった」



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