第2話 幼女に将来結婚して欲しいと言われました


「そういえば笹木さんは歳はいくつなんですか?」

「...17歳、高校2年生かな」

「へぇ...ちなみにどこの学校に通ってるとかって」

「一応桜田高校ってとこに通ってるよ。知らなかったらごめんね」

「っっ!? な、なるほど」

「なにその突然すぎるガッツポーズは?」


 小野ちゃんと共にフワトロスーパーを目指して歩いていると、なにを思ったのか目をキラキラさせ息を若干荒くしながら小野ちゃんが色々と尋ねてくるので、ここで変に答えずに泣かれでもしたら面倒と考え俺が素直にそう答えると、小野ちゃんは何故か酷く驚いた顔をしたかと思えば飛び上がって喜ぶ。

...一体俺が桜田高校へと行ってることに小野ちゃんになんの関係が?


「ふふ、そうですか。そうですか!」

「だからさっきからなに、そのリアクション?」

「えへへ、秘密でーす」

「...目的地周辺に到着致しましたのでナビを終了いたします」

「からかったのは謝りますからそんなこと言わずに最後までお願いします」

「いや、本当に目の前だからいいと思うんだけどね」


 半ば本気で言った俺だったが小野ちゃんにそう言われ仕方なくついてゆっくりと歩いていく。


「というか、お母さんがお使いに頼むってことは小野ちゃんここら辺の子なんでしょ? なんで、そもそも迷ってるの?」

「いや、それはさっきも言いましたけど私が変に意地を張ってちゃんと聞かずに出たのってのと...あと、実は私2日前くらいにこの辺に引っ越して来たばかりで、まだ良くここら辺のこと分かってないんですよね」

「まぁ、それならしょうがないか」


 なら、なんで小野ちゃんのお母さんは引っ越してきたばかりのこんな小さな子をこんな時間にお使いに行かせたのかと、俺の中で一瞬疑問がよぎるが家庭の事情は様々なので余計なことは聞かないことにした。小野家はそういう教育方針なのかもしれないしな!


「ですよね!? 迷ってしまったのもしょうがないと思いますよね!?」

「...まぁ、でも意地張らずにちゃんと聞いてたら迷わなかったとは思うけど」

「イジワルですぅ」

「いや、事実だから」


 小野ちゃんは少し泣きそうになっているが俺は今回は意見を変えることなくそう言い切る。


「だって、もし僕が声をかけずにあのままあそこにいたら、時間も時間だしもしかしたら変な人に連れてかれて可能生もあったんだよ? 変な意地のせいで小野ちゃんがそんな目にあったら小野ちゃんのお母さんも凄い悲しむでしょ?」

「うっ」

「だからちゃんとそこは反省するように」

「わ、分かりましたよ」

「まぁ、でもお使いを引き受けて頑張ってるのは偉いとは思うよ」


 少ししょぼんとしてしまった小野ちゃんをフォローする為に俺はそう付け足す。俺が小野ちゃんの頃なんてそんな家の手伝いなんてしたことないし、実際偉いしな。


「? そういうことなら笹木さんも偉いですよ? だって笹木さんもお使いですよね?」

「...あぁ。まぁ僕の場合は1人暮らしだし自分の食べるものがなくなっただけだからただの買い出しなんだけどね」


 小学生くらいの女の子に真面目な顔でそんな褒められかたをした俺は若干複雑な気持ちになりつつも軽く頷く。多分、向こうは純粋に褒めてくれているだけなんだけどなんだこの惨めな気持ち。


「1人暮らし!? 持って1週間と言われるあの生存不可のサバイバルのことですか?」

「小野ちゃんの中の1人暮らしどんなイメージなんだよ! そんなヤバいもんじゃないから」


 確かに小学生くらいの子更には女の子ともすれば1人暮らしなんて想像もつかないだろう仕方ないかもだけど、流石にそれは言い過ぎである。


「あのーあれですよね。人語を解さない化け物が徘徊する中息を潜めて食料を集めなんとか食いつなぎ、睡眠もほんの少しだけでなんとか生き延びようとするんですがどんどんと疲労は溜まっていきついには満身創痍となって最後は足を動かすことも出来ず化け物に...」

「本当にいよいよ小野ちゃんの中での1人暮らしのイメージどうなってんだよっ。最早、ただのデスサバイバルじゃんっ! 1人暮らしになった途端世界観変わりすきでしょ。というか、その場合俺の近くにいるの小野ちゃん危なくない? 化け物が俺を狙って徘徊中なんだよ?」


 最近の小学生はそういう系が好きなんだと思いつつ俺は軽く話しに乗っかる。まぁ、もうちょっと着くまでかかるしな。それまでお互い無言というのは小学生にとっては苦痛だろうからな。


「私は大丈夫です。笹木さんが守ってくれますから」

「いや、それデスサバイバル系で死んじゃうタイプの子が言うセリフだからっ。中盤で主人公の目の前で殺されて主人公が「もう、俺になにが出来んだよ! なんで俺なんかが生きて...」ってうすぐまってそこにメインヒロインの励ましがあって「あの子の分まで生きてあの子を助けれなかった分人を助ける。それが俺のすべきことだったんだ」的な感じで、なんとか立ち直る的なエピソードに消化されちゃうタイプの子だから」

「...笹木さん詳しいですね」

「なんで小野ちゃんが引いてるの!? 話振ったの小野ちゃんだよね?」

「いや、まぁそうなんですが...」

「だからなにそのリアクション!?」

「ふふっ、いやちょっと笹木さんの困ってる顔が面白くてつい遊んじゃいました」

「はぁ」


 小野ちゃんが無邪気な笑顔でそんなことを言うので俺は怒るに怒れない。というか、こんなに人と話したのはいつ振りだろうか。いくら小野ちゃんが機嫌を損ねて泣き出さない為とは言え、俺からしてみればかなり珍しいことだろう。


「? どうかしましたか、笹木さん?」

「いや、なんでもない。...それよりも到着みたいだぞ小野ちゃん」

「...そうみたいですね」


 そんなこんなでフワトロスーパーに無事到着したわけだが、何故か小野ちゃんの顔は暗い。なんだ?


「あのっ、笹木さん」

「どうしたの?」


 すると小野ちゃんが足を止めて俺の方を向くと意を決したように口を開く。


「私このスーパー初めてで食材の配置とか知らないんです。それでもし良かったら手伝って貰えませんか?」


 そして続けざまにそう言い放った。


「最初に言ったでしょ、手伝ってあげるって」


 それに対する俺はそう返すのだった。まぁ、ある程度この展開になるのは読めてたしな。ここまで来たら付き合ったところで時間も大して変わらないだろう。


「っっ、ありがとうございます!」


 そして小野ちゃんはそれを聞いた途端パァと顔を明るくすると、今日1番の笑顔で感謝を述べるのだった。



 *



「すいません、帰りまでついてきて貰って」

「まぁ、もう真っ暗だしな。女の子をこんな中1人で帰すのは流石の僕にも出来ない」


 スーパーでの小野ちゃん&俺の食材集めを終え外へ出た俺に小野ちゃんは少し申し訳なさそうにしながらそんなことを言う。


「? 笹木さんはめちゃめちゃ優しい方だと思いますけど?」

「...」


 俺の言葉に対し小野ちゃんは真顔でそんな返しをしてくるので俺はなんと言っていいのか分からず黙り込む。普通はこんなことしないし、今日だってスーパーが一緒じゃなきゃスルーするつもりだったからな。到底自分では自分がそんな人間には思えないが、小学生くらいであろう小野ちゃんにそんなこと言っても困らせるだけだしな。

 どうしたらいいのだろうか?


「...笹木さん自身が自分をどのように評価しているのかは私には分かりません」

「...」


 すると黙り込む俺に対し小野ちゃんはそう口を開いた。


「でも、今日私は笹木さんのおかげで助けられてこうして笑顔でいられています。これは誰にも曲げようのない事実です」

「そっか」


 小野ちゃんはそんな風に続けるとニコッと笑う。...本当に最近の小学生気を遣えすぎじゃない? いや、これは小野ちゃんがいい子すぎるだけか。


「あっ、私の家が見えてきました! 無事帰還です」

「良かったな、次からは変な意地張らずに迷わないようにね」

「...笹木さんってちょっとイジワルですよね」


 小野ちゃんが少しジト目で俺のことを軽く睨んでくる。


「じゃあここらで僕はお別れかな」

「...あ、あのっ」

「?」


 家へと向かって歩いていく小野ちゃんを眺めながら俺は足を止めてそう告げるが、小野ちゃんは振り返って再び俺の元へと戻って来た。


「本当に今日はありがとうございました! 笹木さんのお陰で新境地にてお使いという極悪難易度のミッションをやり遂げることが出来ました」

「いや、極悪難易度になったのは小野ちゃんが変に意地を張って...」

「超極悪難易度のミッションをやり遂げられました」

「...うん」


 小野ちゃん的にはどうしても極悪難易度ということにしておきたいらしいので俺は大人しく頷くことにする。...こういう所はちゃんと小学生っぽいんだよなぁ。


「笹木さんは優しくて面白くてでもちゃんと悪いことには真剣に怒って私の身を案じてくれて」

「いや、そんな大層なもんじゃ——」

「そんなことあるんですっ。私見たことないですもん、笹木さんみたいな優しい人」

「...ありがとう」


 小野ちゃんは否定しようと発した俺の言葉に被せるようにそう言葉を吐く。そして、まさかそんなことを言われると思ってもいなかった俺は少し動揺する。


「だから私は笹木さんのこと大好きです。本当に好きです。ラブなんです」

「へっ?」


 そして続けざまに小野ちゃんが発したセリフに俺は固まる。


「い、いや、違いますからね。決して私は優しく声を掛けられただけで惚れちゃうような尻軽じゃないですからね!? 笹木さんだから惚れただけですからね!?」


 すると小野ちゃんはなにを勘違いしたのか焦ったように真っ赤な顔でそんなことを言う。小学生くらいだろうによく知ってたな、そんな言葉。


「と、とにかく笹木さん大好きです。...だから、将来私をお嫁さんに貰ってくれませんか?」

「...」


 そして小野ちゃんは俺の耳元へと顔を寄せると、小声でそんなことを囁く。まさかの行動に俺は驚きを隠せず完全に固まってしまう。

 いや、冷静になれ俺。相手は恐らく小学生くらいだぞ? 恐らく子供の頃にありがちな「このお兄さん優しい人だ。結婚したい」的な一時的なものだろう。

 だとすれば焦ってここで断ってしまえば無駄に泣かせることになる。

 どうせ、この先小野ちゃんに会うこともないだろう。そして時が経ち中学生高校生になれば小野ちゃんはそんなことすっかり忘れるだろう。

 なら俺が取るべきは...。


「うん、いいよ。将来まだ小野ちゃんが僕のことを好きでいてくれるならだけどね」

「ほ、本当ですか!?」


 下手に悲しませるより小野ちゃんの気持ちに応えてあげることだろう。


「うん」

「や、約束、約束しましたからね? 約束破ったら針千本なんですからね? ね?」

「はいはい」


 まだ顔の赤い小野ちゃんが必死にそんなことを言うので俺は軽く頷く。


「じゃあ、また今度です笹木さんお休みなさい」

「うん、また今度ね。そっちこそ、ちゃんとしっかり寝るんだよ?」

「もちのろんです。夜更かしは肌荒れの原因ですから」


 何故かやや古い返しをした小野ちゃんはそう言い残すと、手を振って今度こそ自分の家へと入っていくのだった。

 いやぁ、本当に最近の小学生って大人っぽいんだな。いや、そう見せたいのか? 俺はそんなくだらないことを考えながら、帰路を急ぐのだった。


 ...明日の俺が今日の俺の行動のせいで死ぬほど苦しめられるなど当然知る由もなく。




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 次回「転校生が来るらしい。まぁ、どうせ関わらないし関係ないんだけどさ」


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