第5話 でも、結婚してくれるって言いましたよね????????


「えっ、今のってどういう意味ですか?」


 静寂に満ちた教室の中、固まってしまった小野ちゃんがしばらくしそんなことを尋ねてくる。流石にこの空気感では成瀬と山本も声を出せないらしく、固唾を呑んで俺と小野ちゃんを見守っていた。...いや、普段はもっと控えめでいいからこういう時にあの感じ出して欲しいんだけど。


「言葉通りというかなんというか...」


 小野ちゃんはこれまでと何も変わらない声色に笑顔なのに、俺は何故か気圧されお茶を濁すような回答しか出来ない。


「つまり私のことを小中学生だと思ってたんですね?」

「はい」


 普段の俺なら無言で軽く頷くだけだったらろうが、反射的に姿勢を正してそう答える。俺をそうさせるだけの迫力が今の小野ちゃんにはあった。...というか、もしかして小野ちゃんが怒ってるのって小中学生と勘違いされたことか? だとしたら、そこさえキッチリ謝罪すれば乗り切れる可能性もある。


「それで断るのも可哀想だと思って軽い気持ちで私の本気の告白をオッケーしたと」

「はい、ごめんなさい」

「べ、別に謝らなくていいです。そんな幼いと思われていてショックとか、子供扱いされてただけなんだとか、最近胸もちょっと膨らんできて自信つき始めてたのにとか全然思ってないですから!」

「いや、それ思ってるよな。...本当にごめん」



 小野ちゃんは手で自分の髪をクルクルと軽く弄りながらいじけたようにそっぽを向きそんなことを言う。...やっぱり、怒ってるのってそこなんだ。


「いーえ、そこは本当にぜーんぜん気にしてないので大丈夫ですっ」

「本当に?」

「勿論です!」

「本当は?」

「ちょっぴり気にしてます」


 どうやら小野ちゃんは嘘をつくのは苦手らしくそっぽを向いたまま、漏らすようにボソッとそう打ち明けた。可愛い。


「いや、そんなことはどうでも——よくはないんですが、どうでもよくて」

「うん、一体どっち?」

「...笹木さん言いましたよね?」

「な、なにを?」


 途端に小野ちゃんから感じる圧がまた変わり俺は椅子を立ち、一歩後退りしながら聞き返す。


って」

「言ったけど、でも説明した通り本当にするつもりは...」


 俺は更に一歩後退りする。


「でも...結婚してくれるって言いましたよね????????」


 しかし、小野ちゃんはそんな俺の手を掴むと満面の笑みでそう言い放った。気がつけば何故か俺は額からは汗を流し、指先の1つも動かせないほどに全身が固まっていた。


「あっ、もしかして現在付き合ってる方でもいらっしゃいますか?」

「いないけど...」


 小野ちゃんがいつもの空気感へと戻り俺も少し気を緩ませ、事実を伝える。別にここで嘘つく必要もないしな。


「じゃあ、結婚してくれますよね?????」


 そして再び異様な圧と笑顔でそう尋ねてくる小野ちゃん。


「本当にごめん。それだけは無理...だ」


 あまりの圧に呑まれてしまいそうになるが、俺はなんとか踏みとどまり絞り出すようにしてそう伝える。


「じ、じゃあ、結婚とはまだ考えなくてもいいので試しにお付き合いをするだけでも...」

「ごめん、それもダメだ」


 すると小野ちゃんはすがるようにそんな提案をしてくるが、俺は本当に申し訳なく思いつつもそれも突っぱねる。


「なんでですか? それはやっぱり小中学生に見えるような私じゃ恋愛対象外ってことですか?」

「違う、そういうことじゃないんだ」


 傷ついたような小野ちゃんの言葉に俺は慌てて否定の意を伝えることにする。


「その理由は言えないけど、俺は人を信用し信頼することが出来ないんだ。だから、多分小野ちゃんと付き合ったとしてもきっと小野ちゃんを好きになれないし期待に沿うようなことは出来ない。だから...ごめん」


 流石にこの話は他の人達には聞かせるわけにはいかない為、俺は小野ちゃんの耳元で小さく囁く。


「っっ//。そう、ですか」


 すると小野ちゃんは何故か顔を真っ赤にさせた後、どこか不満そうにそう答えた。...分かって貰えた、のか?


「じゃあ、笹木さんに私を好きになって貰えれば問題ないってことですよね?」

「うん?」


 思いついたと言わんばかりに目をキラキラさせながら、小野ちゃんはそんなことを聞いてくる。あれ?


「じゃあ、今日からよろしくお願いします...笹木さん♡」


 そして小野ちゃんは今日見せた中で1番の笑顔でそう言うと、もう一度俺の手を掴むのだだった。


「あっ、でも嘘とは言え結婚してくれると言ったので他の女性を見ることは許しませんからね???」


 最後にそんな一言を付け足して。



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次回「一緒に帰りましょう??」


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