第2話

 居間に着くとお父様とお母様がすでに着席されていた。


「アーリシア、また寝坊したの?」


 お母様がくすくすと笑う。私が寝坊してアラン兄さんが起こしにくることが何度もあったためか微笑ましいものを見るような表情だ。


「ええ、また綺麗に寝坊していましたよ、この妹は。いい加減自分で起きれるようになって欲しいです」


 アラン兄さんがやれやれといった様子でつぶやく。私は恥ずかしくなって顔を真っ赤にしながら席に着いた。


「寝坊助さんなところは小さい頃から変わらないわねえ」


 お母様がおっとりとした声で私を揶揄われる。この朝に弱いのはどうにかしたいのだが、私だけではどうにもできていないのが実情だ。


「お、お母様。わ、私も治そうと努力はしているんです」


「アーリシアちゃんは怒った顔も可愛いわね〜、本当将来はとても綺麗な女性になるわ〜」


 私はむっとして言い返したものの、お母様はそれをものともしない。お母様に言い争いで勝てるようになる日は想像できないなあ。


「二人ともそこまで。せっかくの朝食が冷めてしまう。話は朝食を食べながらにしよう」


 お父様が私とお母様の会話の間に割って入る。私とお母様は素直にその言葉に従った。


「いただきます」


 家族全員で食事の前の挨拶をすると一斉に目の前の食事を食べ始める。


「アーリシア、もう少しで誕生日だな」


 朝食を食べながらお父様はそんな話を切り出して来た。そういえばそうだった。あまり自分では意識していないのですっかり忘れていた。


「ええ、そうですね」


「アーリシアちゃんももう16歳になるのね。月日が流れるのは早いわ〜」


「お母さまいつまで経っても子供扱いはやめてください」


「そうやってむくれるところが父上からも母上からも子供に見えているんじゃないのか?」


「兄さんも余計な一言が多いです」


 むくれる私を見てアラン兄さんとお母様はくすりと笑い、お父様は苦笑いをしていた。


「まったく。みんなして私を子供扱いしたがるんだから」


「まあ、そう拗ねるな。誕生日はきちんとお祝いしよう。これでアーリシアも立派に成人扱いだからな」


 この世界では16歳で成人扱いとされ、一人前の人間として扱われる。少し不安がないわけでもない、私の家系は大きな貴族だから女性である私には結婚の話とかも出てくるだろう。

 あー、嫌だ、嫌だ。恵まれた生まれのおかげでいい生活をさせてもらっているけれど家同士の関係のために結婚したりするのは正直面倒くさいなとか思ってしまう、必要なことだとは分かっているけれど。

 そんな不安を表に出すとまた兄さんに揶揄われるので感情が出ないように私は苺ジャムを大量に塗ったパンを頬張って食事に集中した。

 

「当日は楽しみにしていなさい、節目だから盛大に祝おう」


「楽しみにしています」


 お父様の言葉にそっけなく答えたけど私も自分の誕生日に祝ってもらえるのは嬉しい。


「ふふ、嬉しそうだな」


「!?」


 お父様が私のほうを見てくすくす笑っている。そんなに私は顔に感情が出やすいのかなあ、少し恥ずかしい。


「……お父様の意地悪」


 家族全員に揶揄われながら私は朝食を終えた。

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