第3話
「ふう、疲れた」
剣の稽古を終えた私は浴場で汗を流して部屋に戻ろうとしていた。お父様が治めるイリシウム王国のアルディア領は今は魔族領と接しているため、魔族が出没することも珍しくない。昔は接してはいなかったけど、魔族が今の境界まで人間の国を滅ぼして侵略してきたのだ。以来この領地は境界での魔族との争いが絶えない。そのため女性でも万が一のため、皆自分の身を守れるように剣術などの訓練を受けるのだ。とは言ってもお父様や王国の騎士達の奮闘で領の中心であるこのアルディアの街には魔族は出没せず、私もこの屋敷でずっと過ごしていてこの剣術を使う機会には巡り合っていないけど。
「私はここでずっと過ごしているから大変って実感があまり湧かないけど……世界は今、魔族に脅かされて大変なんだよね」
この屋敷で過ごしていると忘れてしまいそうになるけど人間は現在魔族と戦争をしている。人間側は必死になって戦っているけれどじりじりと魔族に押されているような状態だ。
この世界には人間以外にも妖精族と言われる種族がいる。妖精族も魔族の脅威に晒されているから人間と手を組んで戦っているけれど魔族の力が強すぎて退けることは出来ていない。
「その内に人間や妖精族って魔族に滅ぼされちゃうのかな……」
恐ろしい想像に身を震わせてしまう。そんなことにならないように皆戦っているのにそんな想像をしてしまうなんて私はなんていけない人間なんだろう。
「お父様達が必死に戦っているのにこんなことを考えてはいけないわ」
気分を変えたい、屋敷の中を散歩でもしよう。私は部屋から出て廊下を歩いて行く。屋敷の玄関まで来ると誰かが来ているようでお父様と話をされていた。
(誰かしら?)
好奇心を刺激された私は物陰に隠れて来客と話しているお父様を見守る。来客は若い男性だ、綺麗な金髪に蒼い瞳の持ち主で街を歩けば誰もが振り向くような美しい容姿の持ち主。私は思わず目を奪われてしまった。腰には剣を佩いており、立ち振る舞いから歴戦の戦士なのが伺える。
「あの子はまだ15歳だぞ。やはりこんな過酷なことに巻き込みたくない」
「ですがいずれは向き合わなければならないことです。あの方に王家の血が流れている以上このことを理解してもらうのは避けて通れないことでしょう」
「そんなことは分かっている!!」
発現した来客に対し、お父様が声を荒げる。私は思わず肩をびくりとさせてしまった。あんなふうに怒るお父様は初めて見たからだ。
(あんなにお父様を怒らせるなんて。あの来客の方はなんの話をされたのかしら)
お父様は温厚で声を荒げることは滅多にない、その父があれほど声を荒げるというのはかなり失礼なことでも言ったのだろうか?
「あっ!」
少し動いた拍子に物陰に立てかけてあったものに私の体が当たってしまった。そのまま倒れて大きな音を立ててしまう。
音に驚いた来客とお父様と来客の男性が私のほうを見た。
「アーリシア、なぜここに!?」
お父様が驚いて声をあげる。私は正直に話すことにした。
「すいません。屋敷を歩いていたらお二人の会話が耳に入ってしまい……すぐにここから立ち去りますね」
あの会話の雰囲気からして私が首を突っ込んでいい話ではないだろう。私は踵を返してこの場を去ろうとした。
「お待ちをアーリシア様、私はあなたにお話しがあって今日はここに参ったのです」
立ち去ろうとした私を美しい金髪の青年が呼び止める、私は思わぬ制止を受けてその場に固まってしまった。
私に? この人は私の知り合いでもない。どこかであったことがあるのだろうか?
「私にお話?」
私の言葉を聞いて美しい金髪の青年は頷く。
「あなた様に伝えなくてはならないことがあります。どうか聞いて頂けないでしょうか」
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