亡国王女の魔王討伐記
司馬波 風太郎
第1話
これはある滅んだ国の王女様の物語、世界を脅かしていた魔王を討伐し、人間に平和と安寧をもたらした王女様のお話。そしてそんな王女様と彼を支えた騎士の恋物語。
*
どんどんと私の部屋の扉を叩く音がする。もう少し寝ていたいのにその音のせいで私の意識は矯正的に覚醒させられた。
「……まったく人を起こすにしてももう少しいい方法があったと思うんだけどな」
頭を傾けてベッドから扉を見ながら、音を立てている人物に私ーーアーリシア・アルディアは不満を溢す。もう少し配慮というものがあっていいんじゃないだろうか。
「ふああー……」
私は起き上がって大きく伸びをする。ベッドの傍にある窓から外を確認すると日はとっくに上っていた。
「また寝坊しちゃったか」
どうやら私はぐっすり眠っていたらしい、この扉を叩く音さえなかったらきっと目覚めも最高のものになっただろう。私から応答がないことに苛立ったのか扉を叩く音はさらに強くなっていく。
「はいはーい。起きてますよー! 今行くから待っててー!」
扉を叩く音がうるさかったので大きな声で返事をして近所迷惑な騒音を出すのをやめさせる。そのまま扉に近づいて私は扉を開けた。
「また寝坊してたのか、アーリシア。本当に朝が弱いんだな」
扉を開けた先にいたのは一人の男性、綺麗な金髪に青い瞳、むっとした表情を浮かべて私のことを睨んでいる。この呆れたように私に声をかけてきた男性はアラン兄さんだ。年は私と二つ違っているが無愛想な表情が多いせいで少し年齢が上に見えてしまう。
「早く来い、父上と母上が待っている。皆お前が起きてこないから朝食を食べられてないんだ」
端的に要件を伝える兄さん、喋りにも無駄がない。
「もうそんな冷たい感じで喋らないほうがいいですよ、兄さん。そんな感じだと素敵な女性は逃げてしまいますよ」
私が揶揄うように言うとアラン兄さんはふんと鼻を鳴らして腕を組んだ。
「余計なお世話だ。お前こそもう少しお淑やかにしないと嫁にもらってくれる男がいなくなるぞ。見目だけは麗しいお転婆め」
兄さんが辛辣に言い放つ。私は幸いにも容姿に関しては整っていた、綺麗な金髪と美しい赤い瞳は周りからも褒められることも多い。容姿がすべてとは思わないけど褒められるのは嬉しいから自分の見た目は嫌いじゃない。
「兄さん、一言余計ですよ。ちゃんと行くから少し部屋の外で待っててください、着替えてきますので」
失礼なことを言う兄さんに私は負けじと言い返す。まったくっこういうことを言わずにもう少し隙があって抜けているところでもあれば可愛い人間に思われるのにちょっと饒舌に喋ったら出てくるのは皮肉だから困った兄さんだ。
口の減らないアラン兄さんに大人しく部屋の外で待っているように伝えると私は一旦扉を閉める。そうして私は窓際まで歩いて行き、外を見た。
「今日もこのアルディア領は平和だなあ」
窓の外の天気は気持ちのいいくらいの快晴だ、小鳥達の綺麗な囀りが聞こえてくる。窓からは領の中心であるアルディアの街の様子が見える。この窓から見えるのどかな風景が私は好きだ。
「さて色々と浸るのはこれぐらいにして口うるさい兄さんのもとに行きますか」
今の季節は冬、少し肌寒いので私はストールを羽織って部屋の入り口に向かう。
「お待たせ」
「よし、早く父上と母上の元へ向かうぞ」
私が来たことを確認したアラン兄さんは足早に朝食をとる屋敷の居間に向かって行く。本当に愛想というものがない。顔はいいのだからもう少し可愛げとかがあれば女性からの評判もよくなるだろうに。いやでも女性に媚びを売りまくる兄さんも嫌だな、ちょっと見たくない。
「どうした? なにか気になることでもあるのか?」
私が立ち止まったのを気にしたのか兄さんが立ち止まり、簡潔に問いかけてくる。本当黙っていれば色男なのにおしゃべりをすると愛想がないのは大きな減点対象だと思う。
「ううん、なんでもないわ。お母様とお父様も待っているのでしょう? 早く居間まで行きましょう」
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