第8話

「おい、アーリシア! 待て!」


 兄さんが止めるのも聞かず、私は進む。屋敷は外から見てもところどころが壊れ、争った後があった。 

 

「!?」


 お父様とお母様は無事なのかしら……!


 私は必死に走り回って2人を探す。お父様の部屋に辿り着いた私は中を確認する、部屋の中にはお父様とお母様が倒れていた。二人の側には誰かが立っている。2本の足と腕はあるものの2本の角が生えていて口には鋭い歯は並んでいる姿は明らかに人間ではない。


「おやあ? まだ人間がいたのですか?」


 ぞわりと背筋に悪寒が走る。相手から向けられる殺意


「あなたは……何者? お父様とお母様に何をしたの!?」


「馬鹿なことを聞きますねえ、この女は」


 人の形をした何者かは私の言葉を嘲笑うような言葉を投げかける。


「私は魔族ですよ、見て分かりませんか」


「魔族……!?」


 どうしてそんなやつがこんなところに……!? この街の警備は厳重で魔族は入り込む余地はなかったはず……。


「なんで魔族がこんなところにいるの!? この街の守りは厳重だったはず……」


「ああ、そのことですか。なに簡単なことでしたよ、この家の者に手引きしてもらっただけです。おかげで厳重な警備も簡単に突破できました」


 それはこの街に人間を裏切って魔族に協力した者がいるということだ。一体誰がそんなことをしたんだ。


「まったく人間とは単純な者です。少し欲を刺激したらすぐに裏切るのですから。おかげでこの街に簡単に入り込んで滅ぼすことが出来ました」


 口ぶりからしてこいつは人を殺すことをなんとも感じていない。このままだと私も簡単に殺されることは容易に想像出来た。


「さてあなたの疑問に答えるのはこの辺にしてそろそろ消えてもらいましょうか」


 魔族は淡々と口にすると腕を大きく振り上げ、私に向かってくる。この一撃を受ければ私は死ぬだろう、だけど恐ろしさで足がすくんで動くことが出来ない。


「アーリシア!!」


 魔族の腕が私に振り下ろされる前にお兄様が私を横から押す。私はそのまま倒れてしまったが魔族の攻撃からは逃れることが出来た。


「ぼうっとするな!! 僕がこいつの相手をするから早く逃げるんだ」


 お兄様はそういうと私を庇うように前に立ち、剣を構える。ここに来るまでに自分の部屋から持ってきたのだろうか。


「で、でもそれじゃお兄様は……」


「俺はこの魔族を倒す。父上と母上の敵をとる」


 お兄様はこの魔族と戦うつもりだ、でもこいつに敵うの……?


「くっくっく……あなた、まさかわたしに勝つつもりですか?」


 魔族はお兄様の言葉を聞いて嘲笑う。その気になれば私達なんて簡単に殺せるからだろう。


「あなた如きが私を殺せるとでも思っているのてすか?」


「やってみなくちゃ分からないだろう!」


「人間とは脆弱なくせになぜ自分より強い相手に戦いを挑むのですか? まあいいでしょう、愚か者1人殺すのに大した手間はかかりません。相手をしてあげますよ」


「はああああああああ!!」


 裂帛の気合いと共にお兄様は魔族に向かって突っ込んでいき、上段に構えた剣を振り下ろす。


「遅い」


 魔族はお兄様の攻撃を難なくかわし、反撃に出る。


「ぐっ……」


 お兄様は必死にその攻撃を受けたりかわしたりしている。しかし段々その動きが鈍ってきていた。


「どうしました? 威勢がいい割にはもう駄目になってきているじゃないですか。もう少し楽しませてくださいよ」


 対して魔族のほうは余裕たっぷりの口調で兄さんを煽る。まったく兄さんに脅威を感じていないのが伝わってくる。


「あっ!」


 ついに兄さんが握っていた剣が魔族の攻撃に耐えきれず折れてしまう。折れた剣が虚しく宙を舞い、床に突き刺さる。


「ふむ、つまらないですね。もう終わりですか」


 魔族は酷くつまらなそうに言い捨てる。それでも兄さんは魔族を睨みつけている、戦意が衰えた様子はない。


「……なぜそんな目をするのです。あなたにはもう戦う手段はない、なのになぜまだ戦おうとするのですか?」


「決まっている。妹を守るためだ、それ以外にない」


「……」


 魔族の問いかけに迷うことなく答える兄さん。その答えに私は息を呑む、兄さんはどんなことがあっても引かないつもりだ。


「ふむ、理由を聞いても理解できませんね。やはり無駄な行為でした、ではさようなら」


 魔族は今度こそ兄さんを殺すために腕を振り上げる。そのまま勢いよく腕を振り下ろした。


「やめろぉ!!」


 喉が張り裂けそうになるくらいの大声で私は叫ぶ。叫んだおかげか恐怖で竦んで動けなかった体が動いた。

 お父様とお母様は死んでしまった、兄さんも今殺されてしまいそうになっている。

 そんなのは嫌だ、もう自分の大事なものが訳も分からないまま壊されるのは……嫌だ!!

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