第9話

「!!」


 魔族が驚いた表情で私のほうを見る。奴はその場から慌てて後ろへ飛び退いた。一瞬前まで奴がいた場所は大きく床が抉れている。抉れた場所には綺麗な白炎が燃えていた。


「あなた……その力は!!」


「はあ……はあ……」


「その力……神威!! なぜ、お前が使えるのです!? その力を使える一族は滅ぼし、生き残りも我々は把握している! お前のような名もない人間がなぜ使えるのですか!!」


「知らない」


 私の使った力を見て魔族が初めて動揺を見せる。奴の動揺を見るにこれがアレスさんの言っていた神威という力なのだろうか。

 いずれにしても今はあの魔族を倒せるならなんでもいい。


「兄さんから離れろ」


 私の言葉と共に白炎が私の周囲に発生する。それは美しい鳥の形を形成すると魔族へ向かっていった。


「あれは受けるとまずいですね」


 魔族は炎の鳥を避けて私へ向かってくる。どうやら標的を私に変えたようだ。


「まずはあなたを確実に倒さねばなりません。あなたの力はすべての魔族、なにより魔王様の脅威となる!!」


「……」


 こちらへ来る魔族に対して私は炎で作った障壁を自分の目の前に展開する。


「ちっ!」


 私の障壁を見た魔族は突撃をやめ、止まる。奴にとってこの炎には触れるだけまずいということか。


「忌々しいですね! その炎さえなければとっくに殺しているのに! ならばその炎もろとも吹き飛ばしてあげましょう!」


 魔族の手に禍々しい力が収束していく。あれは当たるとまずいのは戦いの素人の私でも分かった。


「さあ、死になさい!!」


 魔族が腕に収束させた力を私に向かって放つ。私は大きな火球を形成し、魔族が放った力に向けてぶつけた。

 二つの力はぶつかって弾ける。大きな衝撃が私を襲う。


「くうっ……」


 それでも私は踏ん張って次の攻撃を繰り出すべく動く。魔族は私の炎に自分の力が相殺されたのに酷く動揺していた。


「ま、まさか! 神威とはこれほどの」


 奴の言葉を意に介さず私は炎を放ち、奴を取り囲むように炎の壁が形成される。


「ま、待ちなさい! 話をしましょう! そ、そうだ! ここで私を見逃してくれたらお前達の命を助けるよう掛け合います!」


「必要ない」


 奴の言葉を私は無視する。こんなことをしておいてそんな言葉を信じると思っているのか。魔族の考えることはよく分からない。


「最後だから教えて。私達を裏切った人間のことをあなたなら知っているはず。そいつのことを話して」


「あなた達のことを裏切ったのは執事長のベルトです! 彼が私達の仲間がこの街に入る手助けをして潜入することに成功しました!」


「……!? なんであの人が……」


 ベルト、それはこのアルディア家に長年仕えてきた執事の名だ。私にもよくしてくれて周りからの信頼も厚かった。


「くっくっく……奴は身の安全と地位の保証をしたらあっさりと我々のほうに味方しましたよ。本当に人間というのは醜いですねえ」


 魔族は心の底から愉快そうにその時のことを語る。 


「長く付き合いのあるものでさえ、己の保身のために裏切る。実にいいものです。ええ、その様を見るのは……」


「もういい、喋るな」


 魔族の言葉に心からの不快を覚えた私は奴の言葉を遮る。これ以上、こいつの言葉を聞くのはごめんだった。


「あなたは私がここで倒す。お前と話していて魔族が人間の脅威になるのはよく分かった。野放しにはしておけない」


「ひっ……」


 私は魔族に向かって手をかざす。炎が奴の体を包み込み、断末魔が屋敷に響き渡る。


「ぎゃああああああああ!」


 絶叫を上げながら魔族はのたうち回る。しかし私が生み出した炎は消えない、奴の体を焼き続ける。


「あ、熱い! 痛い! お、おのれぇ! 女、お前ただで済むと思うなよ! お前の力は魔族の脅威だ、必ず魔王様がお前を……」


 奴が話し終わる前に私は炎の勢いを強めて焼き切ってしまう。もうこれ以上奴の言葉を聞いていたくはなかった。


「あああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 醜い断末魔を響かせて奴は灰になって消えた。その光景を見ても私にはなんの感情も湧かない。

 

 ああ、魔族はまだ街を襲っていたんだった、だったら。


「街に残った他の魔族達も駆除しないと」


 私は踵を返して部屋を出て行く。目的は街を襲っている魔族の打倒だ。


 なぜだろう、神威を扱えるようになるまでは魔族が怖くて仕方なかったのに今はまったく恐怖を感じない。今の私の頭にあるのは魔族を打倒するという目的のみだ。


「アーリシア、待て!」


 兄さんが止めるのも聞かずに私は街を荒らしている魔族を倒しに向かう。目覚めた力のおかげなのか、今はなんでも出来そうな気がしていた。

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