第12話
「魔王様、報告がございます」
魔族領魔王城の玉座の間、魔族の一体が玉座に腰掛けている魔王に頭を垂れて報告をしていた。
魔王は退屈そうに玉座に座って報告を聞いている。姿形は人に近い、見た目は人間の少女のようで美しい銀の髪と血の色をした紅い瞳を持っていた。
「なんだ、騒々しい、余の耳に入れねばならぬようなことか? 今の人との戦争において我に報告せねばならぬことなどないだろう」
魔王は心底鬱陶しいと言わんばかりに報告をしに来た魔族に言い放つ。今の魔王にとっては大抵のことは些事だ。現在行われている人間との戦いも終始魔族が有利に戦っている、じりじりと時間をかければ人はいつか滅ぶだろう。このまま適当に戦っていても魔族は勝てるような状況で早急に魔王の耳に入れるようなことがあるとは思えなかったのだ。
「端的に申せ、つまらぬことならお前の首を刎ねるぞ」
冷たい一言に報告をする魔族が震えあがる、怯えながらその魔族は報告を始めた。
「神威を……使えるものが新たに発見されました」
「……!? なんだと……!?」
報告を聞いた魔王の表情が変わる、先程までとは打って変わって真剣なものだ。
「それは本当なのか? 新たに神威を使える人間が現れたとは」
「はい、間違いありません。我々が把握している人物ではない者が新たに力を覚醒させました。その者はアルディアの街を攻めた魔族達をすべて滅ぼしたそうです」
「……」
魔王は顎に手を当てて考えこむ。神威の力は限られた人間の血族にしか発現しないものだ。そしてその血を引いていた一族が治めていたシャリア王国はすでに滅ぼし、今把握している目障りな生き残りを除いていないはずだった。
「まさか……あの時の戦いで殺し損ねた王族の生き残りがいるとでもいうのか」
それしか考えられない、神威の力はあの王族の血を引くものしか持ちえないのだから。この時になって新しく神威を使える者が現れたということは魔族がシャリア王国を滅ぼした時にあの国の王族に存在が知られていない者がいてそれが今まで生きていたということだろう。
「やってくれたな、余の脅威となるものは大方排除し終えていたと思ったが……」
魔王は歯ぎしりをする、神威の力は魔王にとって唯一の脅威だ。あの力は魔王であっても受ければただでは済まない。その使い手が増えたというのは決していいことではないのだ。まだ覚醒したばかりというのなら早急に殺して驚異の芽を摘んでおかなくては。
「すぐに種族の長達を集めよ、このことについての余の命令を伝える」
「はっ」
指示を受け、情報を伝えた魔族が退出する。一口に魔族と言っても悪魔や吸血鬼、竜、不死者など様々な種族がいてそれを統括する個体がいるのだ。魔王は彼らを集めて新たな命令をするつもりだった。
すなわち――新たな神威に目覚めたものの抹殺である。
「生かしてはおかぬぞ、あの一族の生き残りめ。脅威となる前に必ず殺してやろう」
明確な殺意を含んだ呟きが魔王以外誰もいなくなった玉座の間に木霊した。
亡国王女の魔王討伐記 司馬波 風太郎 @ousyo
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