儚くも美しい和風ファンタジーの世界で描かれる、切ない恋

  • ★★★ Excellent!!!

叔父夫婦に家財も財産も奪われて、手に残ったのは簪が二つだけ。
その一つも、黒猫を助けるために手放してしまう。

そうして残った、最後の紅金魚の簪。

ここまでの文章だけで、主人公――朱乃の切ない境遇とやり場のない思いがじわじわと伝わってくる。
人生を諦めてしまい、絶望の淵に立たされて。
それでも生きるしかない、そんな状況で出会ったのは、一人の貴人の様相の男性だった。

怪我を負った朱乃の前で、颯爽と片膝をついて手当てする姿は、胸をときめかせる。
その男――璃人澱んでばかりだった朱乃に光が差した瞬間でもあるだろう。

虐げられ、未来のない人生の中での出会いは、儚さも浮き立たせ、しかし恋により世界を色めき立たせるものがある。
秀美な文章で綴られた世界は、色とりどりに美しく空の明暗から行燈の明かりまでが細やかに描かれて世界を際立たせている。

二人の行方、そして朱乃の運命を是非とも見届けていただきたい。
オススメです。