侯爵位だった両親を事故で失い、後見人を名乗って家にパラサイトしてきた叔父夫婦とその息子に虐げられる少女、朱乃。不吉を運んでくると邪険にされ雨の中で腹を空かせる黒い猫と境遇が重なってしまうほど、その身の上は凄惨です。
そんな朱乃が黒猫を助けた夜に出会った大陸人の青年・璃人によって、どん底にいた彼女の運命が大きく動き出します。
虐げられていた少女が幸せへ転じる王道のシンデレラストーリー。和と洋、そしてどことなく中華も混ざったような複雑な世界観が無理なくまとまっているのは、ひとえに作者様の技量の賜物かと。登場人物の心情とシンクロした情景が浮かぶような繊細な文章に、思わず溜め息をこぼしてしまいました。
お話は第一部のキリの良いところで一旦完結しています。文字の世界へじっくり潜るのに最適な文量だと思いますので、ぜひ今のうちから存分に楽しんでおくのをお勧めします!
叔父夫婦に家財も財産も奪われて、手に残ったのは簪が二つだけ。
その一つも、黒猫を助けるために手放してしまう。
そうして残った、最後の紅金魚の簪。
ここまでの文章だけで、主人公――朱乃の切ない境遇とやり場のない思いがじわじわと伝わってくる。
人生を諦めてしまい、絶望の淵に立たされて。
それでも生きるしかない、そんな状況で出会ったのは、一人の貴人の様相の男性だった。
怪我を負った朱乃の前で、颯爽と片膝をついて手当てする姿は、胸をときめかせる。
その男――璃人澱んでばかりだった朱乃に光が差した瞬間でもあるだろう。
虐げられ、未来のない人生の中での出会いは、儚さも浮き立たせ、しかし恋により世界を色めき立たせるものがある。
秀美な文章で綴られた世界は、色とりどりに美しく空の明暗から行燈の明かりまでが細やかに描かれて世界を際立たせている。
二人の行方、そして朱乃の運命を是非とも見届けていただきたい。
オススメです。