第10話 ライバーとして
「あーーーーーッッッ!!負けたぁ。どおしてぇぇえええええ!!!」
ざこ
弱い
よわよわ七波かわいい
よわよわフレアかわいい
草
哀れだねぇ
草
かわいそうはかわいい
G&V下手すぎわろた
草
マスターならず
昇格ーーーーー!!!!
フラグ建築するから
草
草
草
ダイヤ止まりかぁ~
マスター1どころかマスター5も行けなさそう
「もしかして私、ガンズ・アンド・バイオレンスの才能、ない?」
草
ないかも
ない
あるよ
フレアがんばれ
今月はまだあるよ
ある
ない
ある
ある
もっとバイオレンスも使いこなしてもろて
みつるの方がうまそう
ある
ない
がんばえ~
もうこんな時間か
夜中やん
夜中一時近くや
がんばえ~
みつるはもう....
みつる今なにしてんの?
「えっ、と。よし。さっきの野良試合が最後って言ったから、終わりかなぁ。いやぁーーマスターTear5行きたかったけど、それはまた後のお楽しみってことでね。それじゃ、今日の配信はここまで!おつなな~!ばいばーい!!」
ばいばい
じゃあね
おつなな!
おつなな~
ゆっくり寝てな
おつなな
おつなな~!!
おつなな
ふぅ。今日も、一先ず配信が終わった。同時接続数は...3200。
「だいぶ、多い方だとは思うんだけどなぁ~」
私。七波フレアは今日も、配信を終え、そのまま布団に突っ伏した。今日やったのは、GAVの野良戦配信。銃と暴力でチームを勝利に導くPvP式の対戦ゲームなのだが...今月で3回目になる今回の配信ではマスターランクへの昇格が叶わず、私は若干落ち込んでいた。しかし、配信のオチとしてはは正直ウマかったので、その落ち込みを上回る何かは、確かにあった。だから、今日は自分を褒めてやらねばな。
「...みつる、あれから連絡してこないな」
思えばみつるとの初めてのコラボで扱ったのも、GAVだった。その時は発売したてのゲームだったけど、お互い楽しむようになって。...突然彼女から連絡が来て以降、私の頭の中はみつるでいっぱいだ。だから、久々にこのゲームをプレイした訳だが。
「やっぱ、みつるの安否を心配するコメント、来るよね」
でも言えない。言ってしまったら、色々と面倒ごとが起こる。プロとして、守秘義務違反になるからだ。
「みつる、今なにしてるんだろうな」
あの日。同期として色んなことを語らいあったみつるは、いつの間にか私より遙かな高みに居た。それが、どうして急に引退なんかしたのだろう?それは、色々辛いことが重なったからだって、みつるは言っていたけれど。私は手元の携帯端末から連絡をしようとして、連絡先をタップしようとして、やめて、もう一度タップしようとして、やっぱりやめた。
「...寝てるよね」
そうだ。きっと彼女は今、私に相談したこと。つまり、配信業の再会のために、何かと忙しくしているはずだ。深夜1時、いくら生活が乱れがちなライバーだからといって、寝ている可能性が高いよね。
「星降みつるの復活かぁ。...復活」
もやっ。あっ。今私、もやっとした。ああ、醜い。私、醜いなぁ。
「私にとってみつるは、仲良く話せた数少ない同期だもん。けど、みつるにとってわたしはきっと、たくさんいた仕事仲間の一人に過ぎない」
ねぇ、そんなに自分を責めないで、フレア。みつるなら、そんなことを言いそうだ。でも彼女は私に、最初に私のことを思ったのだと、そう言った。
「...そんなわけない。リップサービスだ。誰にでも優しかった。どこにいても隙なんて見せなかった。あの子は...誰かを楽しませるためならなんだってする。だから、」
だから。信じられない。
「...そんなことない」
「私みたいな奴がいるから、あの子は辞めちゃったんだ。私はこんなだから、あの子に追いつけないんだ」
違う。違う違う。そんなネガティブな事を考えたいわけじゃない。そんな事を思ったら、見てくれてるみんなに失礼だ。追いつくとか追いつかないとかじゃなくて、比べるとか、そんなことをしたいわけじゃない。醜い心が少しでも漏れてしまったら。そんな配信者を見たいと思ってくれる人なんて誰もいない。私は視聴者に見捨てられる。嫌だ。嫌だ嫌だ、何で?なんでこんなこと考えてるんだ?
「みつる。私は...あっ」
携帯端末が振動している。私は、心臓の動悸を抑えるために一度、深呼吸をして。それから、胸に手を当てて自分を落ち着かせながら、発信主の名前を再度確認した。
着信 みつる
そうか。寝てなかったのか。バイブレーションが10回目を迎えたその時、私は意を決してボタンをタップした。そこから、耳に馴染んだ声がする。
「あっ、もしもし?みつるだよ。...あの、ごめん。もしかしてお風呂とか入ってた?」
「ううん、全然。さっきまで配信してたところ」
「良かった。そう、今回は終わり際を狙わせてもらった。ちょっとだけ、リアタイしてたよ?やっぱりさ、GAVは面白いよね」
「あれ、見てたんだ。恥ずかしい、私、まだマスターに上がれてないのにぃ!そういえばみつるって、今もGAVやってるの?」
「うん。実は引退した後もやめられなくて、別アカでね。今シーズンはもうマスター帯に上がった」
「...すごいじゃん!私より上だ。全然、腕、衰えてないんだね」
ああ。そこでも、今の私は負けるのか。いや、いいんだ。GAVを本気でプレイすること自体、久々だったしさ。そんな言い訳じみたことを心の中で口走るわたしは、きっと今誰より醜い。そんな私が、嫌いだ。
「引きこもってたからなぁ。フレアは配信をやってたわけだし、上とか下とか、無いよ。またさ、時間ができたときにさ、二人でチーム組んで潜らない?バイオレンスコマンドの魔術師と呼ばれた私の力、見せたる」
「そんな二つ名、名乗ったことあった?」
「ない。今考えたからね」
そう言って、みつるはフフッ、と笑った。私も、つられて笑う。これが、彼女が世界に掛けてきた魔法の、ほんの片鱗。言葉の魔法だ。
「あ、あのさ。みつるは、ユニライブのライバーとして復帰するの?それとも、別の会社?もしかして、個人だったり?」
「ごめんフレア。それはまだ言えない。守秘義務があるからね。私のこれからについては」
そうか。当たり前だ。なんで、そんな不躾な質問をしちゃったんだろう。
「いやっ、私こそごめん。いいよ、気にしなくて。今、調子どう?」
「まずまず。なまった体を、少しずつ戻してるとこだよ。きっと、どんどん元気になる」
「そっか。よかった。ご飯とか、食べた?」 「うん。ハンバーガー食べた」
「よかった」
「何が?」
「現役時代は根を詰めすぎて、ろくに食べないときもあったじゃん」
「そう...だったね。でも、時々だよ。あ、そうだ」
「何?」
「私まだ、やらなきゃいけないことあったんだった。また、後で連絡するね」
「う、うん。じゃあね」
「じゃあね、ありがと。楽しかった」
わたしは、連絡を切る。楽しい会話のはずだったのに、いつからこんな風になっちゃったんだろう。この気持ちを、みつるは気づいているのかな?気づいていてあえて、私に連絡をよこして来るのだろうか。それとも。
「考えるな。考えるな、私」
ぐるぐると、とめどない悪循環。
「...もう、今日は寝よう」
風呂にも入らず、寝る。なんだか、どっと疲れた気分だ。けど、誰かのせいにはできない。してはいけない。配信機材とゲーム。たくさんの漫画本に囲まれたベッドに寝る。いつだか視聴者さんからもらったぬいぐるみや、コラボグッズのサンプルが居てくれるお気に入りのベッドも、今の私にはなんだか憂鬱にうつった。
「...!!!」
誰かに、見られている?
「...気のせいか。私、疲れてるな」
そして、私は眠りにつく。地球万博まであと...
「27日。結構余裕で見つかった。星降みつるの、同業者だな」
そうつぶやいてにやり、と微笑む何者かの影を、その時の私は知らなかった。
地球万博! 芽福 @bloomingmebuku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。地球万博!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます