第6話 なななみフレア

「七波生米生配信!こんにちは、七波フレアでーす!」

なななみ!

こんにちわ!

こんにちは!

待ってた

今日もかわいい

こんにちは!

こん

こんにちは!

待ってた

なななみかわいいよ

三日ぶり?

けっこう間隔あいた

雑談!

こんにちは!

こんにちはー

こんにち!

昼雑談!

7773 ¥

今日もかわいいよ!歌枠まだですか

「あっ、スパチャありがとうございます。歌枠はねー、うん。たしかに、前やるって告知したけど...へへ...あはは...本題行こうか」

おい

おい

誤魔化すな

歌枠...

歌枠はタヒんだ。もういない

歌って♥

歌って♥

200¥

歌って

おい

それでいいのか、フレア?

「とは言っても今日は雑談だしなぁ。ゲームとかやんないし。みんなはなんか気になることとかあった?私はねー...やっぱアレ、宇宙人」

そう!

俺もそのことばっかり気になって

宇宙進出?

万博、もうあと一月なんだよね

気になる

それ

7773 ¥

宇宙

逆張りのフレアはどこへ...?

逆張らないフレア助からない

「ていってもさ。みんなその話題で持ちきりだかけど、もちきりすぎるよね。だから、フレアも2週回って逆張らないことにしたんだよね。ほれ、褒めろ褒めろ」

じゃあ歌枠やろうね?

歌枠

歌枠は?

歌枠

2週回る意味ある?

にほんごだいじょぶそ?

それでいいのか?

逆張り助からない

「逃げ場ねーじゃねーか。...まあまあ、落ち着きなさい視聴者諸君ら。歌枠はそのうちあるが、宇宙人来訪直後という歴史ある日々は今後もう来ない。雑談を楽しもうではないか!」

言い訳乙

言い訳

は?

歌って

歌の供給がなさすぎる

歌え

お前が今歌う歌も今だけのモノだが?

歌ってくれ

なんで

なんでや

「歌枠の話は置い、とい、て。そう、やっぱ宇宙なんだよ。このコメントを書いている人の中にも、すでに宇宙人はいるのかな?いや、そこまで法整備は進んでないのかな」

さあ

その辺めちゃくちゃなスピードで進んでね?

不安

不安だよね

俺宇宙人やぞ

俺も

シュレディンガーの宇宙人

わたしも宇宙人

宇宙人だぞ

宇宙人

変わるのかな、コンプライアンスとか

俺も宇宙人

便乗して俺も宇宙人や

「色々変わりそうだよね。万博までは、限られた宇宙人しか地球には来訪してないって話だから。...あっ、ちょっといいかな?席外す」


talk みつる


💬久しぶり、ふれあ。今話せる?


「...!」


あれ?

用事?

宅配便じゃね

静止画助かる

フレア?

なななみ笑顔でフリーズ

帰ってこない

トイレかな

トイレじゃね

なんか書いとけ

「...ただいま」

おかえり

おか

おか

おかえり

おかえりなさーい

なななみんおかえり

ん?

喋らない

ん?

どした

どした?

喋らんね

「急用ができたので、今日は配信ここまで」

ええ!?

歌枠

歌枠は?

歌枠から逃げるな

どうした?

まだ3分も経ってないのに

おつなな~

おつなな!

おつなな~

おつなな

おつななみ!

おつなな~

「それじゃあみんな、またね!おつなな!!」

おつなな

おつなな

おつなな

おつなな


時は、夜の10時。地球の空港から宇宙船を出て自宅に舞い戻ったわたしはワッパを追い返し、部屋を大急ぎで片付け、掃除、消臭した後、彼を家に招いていた。もっとも、わたしが誘ったというより私の自宅を見たいという、彼のゴリ押しであったが。

「誰に連絡を?」

さも当然と言った表情で隣の椅子...わたしが昔配信で使っていたゲーミングチェアの残骸に座ってりんごジュースを飲むワッパが私に尋ねる。

「私の元配信仲間。昔いた事務所の同期」

「...そうですか」

「なんだ。余計な茶々は入れないんだね」

「席を外した方がいいですか?」

「ああ、そうだな。しばらく出ていてくれ」

「そうですか。では、終わったら声を掛けてください」

わたしは携帯端末から、彼女の。なななみフレアの連絡先をタップした。その瞬間、全く間をおかず、彼女の大声が私の耳に飛び込んでくる。

「みつる?ねえ、ほんとにみつるなの!?ずっとずっと音信不通で、私どれだけあなたのこと心配してたと思って...」

「落ち着いて。ほんとにみつるだよ」

「良かった。私ずーーーーっと、心配してたんだよ?引退したあと、個人的な連絡先に連絡してもなんの反応もなくてずっと未読のままだし、それに...」

「ああ、...ほんとにごめん。私、戻る資格なんて、ないと思ってたから」

「もう。それで?わたしに、なんの用事?今配信中だったんだけど、慌てて切っちゃったよ」

「えっ?フレアが10時に枠取るなんて珍しいね」

「うん。まあわたしも、いろいろあったってこと。そっちは、元気?」

「なんとかね。だらだら生きてる。でも、もう体もろくに動かない。けど生きてはいる。それで。あのね。用事っていうのは。」

「うんうん」

「私、配信業に戻るかもしれなくて」

「うんうん。...えぇーーーーっっっ!??ってことは、天下のvtuber星降みつるの大復活ってこと?私、上からもそんな話聞いてない。おめでとう!それってすごいことだよ?だって..」

「いいや、その。星降みつるとして復活するかどうかは、まだわからないけど」

「そっかー。正直、私はそれってもったいないと思う。炎上したわけでもない。何か、ずるいことをしたわけでもない。それでいて、いつも誰かを楽しませるのが星降みつるだったのに。そのまま戻らないなんて。けど...キミが決めたことなら。」

「ありがとう。あのね...私、また配信やるかもしれないってなった時に一番に思い出したのがキミなんだ、フレア」

「えっ....わっ、わたしが?」

「だって、コラボだってした仲じゃん。」

「そんな。私なんて。ずっとずっと大口のライバーや会社とだって提携してたじゃん」

「あんまり、気持ちが上手く伝わってなかったのかな。だとしたらごめん。私は真っ先に君を想った。嘘じゃないよ」

「みつる...」

「あはは、なんかしんみりしちゃったね。話題変えよっか」

「そうだね」

ずっと同じ姿勢で座っていたからか、地面についていた手が痺れる。姿勢をあぐらに変えて、改めて話し始める。

「今はさ、やっぱり配信専業でやってるの?」

「うん。なんとか...でも、すごいよ。全盛期のキミに、まるで手が届きそうにない。あれだけの年月が経ったのに」

「もう、フレアったら。落ち込まないで」

「ふふ」

「ん?」

「いや。そういうお姉さん気質なとこ、変わってないね」

「どうだか。ここ一年でだいぶ荒んだよ、わたしは」

「けど、どこかワクワクしているように思える。私にはそう聞こえるな」

「そうか?....そうか。うん。そうか」

「えっ、なになに?なんかあった?彼氏でもできたの?」

「まさかぁ!!できるわけ無いが?」

なんだろう?ムカつく。このタイミングで大声なんて出したら、あいつを意識してるみたいだろうが!

「どしたの?そんなに声荒げて。図星?」

「図星ではないが!!??」

「ふふ」

「なんだよ」

「そういう、案外わかりやすいところも変わってないね」

「そうかよ...あのさ」

「何?」

「久々に話せて楽しかった」

「えっ、もう終わり?」

「だって、わたしの無遠慮で配信きっちまったろ?すまなかった。よかったら、また雑談やってくれない?私、観に行く。コメントはしないけどね」

「そっ、そう?うん。...わかった」

「私も、そういう配慮が出来なくなってしまったんだな。けど...時間をかけて戻していくよ。また、連絡するかもしれない。じゃあね」

「うん」

私は、携帯端末を地面に置き、一つ大きなため息をついた。それから、外に追いやったワッパを迎えに行くべく、立とうとして気づく。

「いっ...た」

筋肉痛だ。引きこもり生活が祟っている。これほどまでに活動的だったのは、1年ぶりだったからだろうな。私は、はるかに歩きやすくなった床を掻き分け...なんで歩きやすくなったはずなのに掻き分けてんだろ、私...。とにかく掻き分けて、ワッパを呼ぶ。

「もういいよ。入って」

「ああいや。もう深夜も近いことですし帰ります」

「はあ?泊まんねえの」

「連邦の仮設住宅に帰りますので。流石に寝泊まりするほど、常識は欠いてはいない」

「どっ、どの口が言うんだこの変態...」

「では、わたしはこれで。そうだ、窓、開けてみるといいですよ。今夜も星が綺麗ですから」

「おう。じゃあな」

そう言って彼は停泊させていた宇宙船に乗り込み、去って行った。しかしまあ、こんなに目立ってるのに、私以外の住人は特段何かしてきしたり、ワッパを追いかけ回したりする様子はない。とても不気味だが、その理由について考えるのはもっと不気味だ。

「ふぅ。寝よ」

私は、ワッパから送られた今後の予定について、改めてチェックした。

「宇宙コンプライアンス教習。簡単な宇宙主要言語の習得。ボイトレ、トークセッション。それから...」

なんて事の無いスケジュールだ。いつかに比べれば、はるかに余裕がある。だが。

「なんか...ダルい...」

わたしは自覚した。今の私は、体力が滅茶苦茶落ちているのだ。心も、体も。

「頑張ろ」

私は気合いを入れ直し、最後まで予定を閲覧した。今はマネージャーこそいないけど、それこそなんの予定もない私には予定ダブリングを気にかける必要もない。

「ボイトレ、コンプラ、簡易宇宙歴史学習基礎、...オリジナル、曲、レコーディング」

「トシアキ作曲...」

私は眉をひそめてその文字を睨みつける。

「間違いない。カタカナでトシアキだ。あの人も、まさか万博の影響で...」

そのせいで、さっさと寝る予定だった私の目は、すっかり冴えてしまった。

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