虹色魔導師は目立ちたくない⑥

熱くなっている目の前のイケメンを見ていると逆に冷静になってきた。

皇帝への謁見は確かに凄い事なのだろうが、ここまで興奮している人を見るとなんだかこっちは冷静になってしまう。


「ふう、すまない興奮してしまった。まあ何が言いたいかというとだな、お前の優秀さはレオンハート男爵の息子だというのなら納得出来るということだ。」

「いえ、僕は優秀ではないです。なんか生まれた時から三色魔導師だったってだけで。」

「それも凄い事なのだがな、俺が言っているのはオリジナル魔法を作った事だ。それといつまで敬語で話している。構わんと言ったはずだ。」

「そこまで言うのなら普通に話すよフェイル。」

「フェイル!?お、おお。呼び捨てされるというのも良いものだな……友達……とはこういうものなのか。」


何かブツブツ言い出したので、そろっと目の前から消えて、教室へ向かう事にした。


「ん?ここかな?」

Aと書かれた教室のドアを開けると中にいた者達は一斉にこっちを見た。

フェイルのせいで遅くなってしまったのか、僕がこの教室に来るのが最後になってしまったようだ。

既に全員自分の席に着いている。

あまりの目線の多さに教室を出たくなったが試験を受ける以上そういう訳にはいかない。

フードを深く被り可能な限り顔を隠しながら自分の席へと着く。


「ねえ。」

ふう、なんとか自分の席に座れた。

まだ目線は感じるが下を向いて気付いていないフリをしよう。


「ねえ。」

うるさいな、僕は今影だ。

誰にも見えない影になっているのだ。


「ねえってば!!!」

「どわぁ!!」

肩を殴られ何事かと横を見ると、目が釣り上がった女の子がいた。


「あの、何でしょうか……。」

「さっきからなんっかいも呼んだのに無視してたの!?」

「あ、いや気付きませんでした。」

「はー!?アタシの声が聞こえなかったと!?」

凄い怒る。

凄い怒るじゃないか。

そんな怒らなくてもいいだろ。


「ふう、まあいいわ。貴方名前は?」

「え?名前を聞く時はまず自分から名乗るらしいですよ?」

「アタシの事知らないの!?」

「知らないも何も初対面ではないですか。」

「そ、そうだけどホントにアタシの事知らないの?」

「はい。」

なんなんだこの女の子は。

知らないって何回も言ってるだろ。

理解力に乏しい子だな。


「まさかアタシの事知らない奴がこの学園の試験を受けているとはね……。アタシはロゼッタ・クルーエル。クルーエル公爵家を知らないの?」

「あー、その、えーとはい、知ってました。」

「嘘つけ!!」

この子はすぐ怒るな。

赤い髪にキツネ目だが、良く見るとかなり美少女だ。

なんだ、僕の周りには美男美女が多いな。

目立つ事は辞めてほしいのに。


「で?」

「で?とは?」

「名乗ったでしょうが!!貴方の名前を教えなさいよ!!」

ああ、そういう意味か。

貴族ってこういうやり取りがあるんだな。

面倒くさい。

とりあえず名乗らないとまた殴ってきそうな勢いだ。

「僕はマリス・レオンハートです。」

「へえ、レオンハート男爵の……。なるほどね、魔法創造も納得いったわ。」

なんだなんだ、フェイルといいこの子といいそんなにもレオンハートの名前は偉大なのか?


「それで、あの魔法はどうやって作ったのよ。」

「あ、先生来ましたよ。後にしましょう。」

「こ、こいつ……!」

ほらほら、無駄にくっちゃべってるから試験官が来たじゃないか。


学科試験はまあそれなりの出来だった。

さっさとジンとミアに合流して学園を出よう。

じゃないとまた知らない人に声を掛けられてしまいそうだ。


試験が終わりそそくさと教室を出た僕は校門付近で待ち合わせをしていた為そこへ向かう。

割と早く教室を出たからかジンとミアはまだ来ていなかった。


「ちょっと!!!!」

あ、ミアかな?

声がした方に視線を向けると、赤髪の女の子が腰に手を当て仁王立ちしている。


「あ、ロ、ロジータさん?でしたっけ。」

「ロゼッタよ!!!公爵家に対してその態度!!本来であれば不敬罪よ?」

「すみません。じゃあ。」

「じゃあじゃない!」

よく怒るなぁこの子。

血管切れるんじゃないか?


「なんで先に教室を出るのよ!!後で話するって言ったじゃないの!」

「そうでしたっけ?まあそれはまた今度ということでお願いします。」

「ああ言えばこう言う!!とにかく!オリジナル魔法について聞きたい事があったから貴方に話しかけたの!」

まずいぞ、それは早く忘れて欲しい出来事だったのに。


「あ!見つけたぞマリス!」

またなんかやってきた。

「あーフェイルか。さっきぶりだね。」

「さっきぶりだね、じゃない。何故さっさと俺を置いていくんだ。」

「いやぁ何かブツブツ言ってたから先に行っちゃったよ。」

話し掛けられてそれに付き合ってたらブツブツ言い出したから先に教室に行っちゃった事を根に持っているらしい。


「そ、それはだな。いやもうそれはいい。とにかく!俺とお前は友達になっただろう!!魔法談義に花を咲かせようじゃないか、友達らしく。」

友達と魔法談義するのはどうかと思うが。


「ちょっとフェイル!!今アタシが話してたでしょうが!何横から割り込んできてるのよ!」

「ん?ああロゼッタか。何でこんなとこにいる?」

「アタシがマリスに話し掛けていたのよ!!」


もう誰に対してもプリプリしてるなこのロゼッタって子は。

というか今目の前にいるのは公爵家の2人じゃないか。

まずいぞ、こんなとこ他の生徒に見られたら目立つじゃないか。

ちょうど今2人が何やら言い合ってるようだし、さっさと逃げるべきだな。


ミア、ジン先に帰る、と心の中で伝えサッサと校門から出た。


しかし遠くから校門での騒ぎを見ていた2人がいた。

「何してんのよマリス……。」

「あそこに俺らいなくて良かったな。公爵家2人相手にまともに話ができる気がしねぇぜ。」


フェイルとロゼッタが大声で言い合ってるうちにちょっとした騒ぎになりかけていたがマリスはすっと逃げるようにして帰ったお陰でミアとジン以外に見られることはなかった。

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