虹色魔導師は目立ちたくない⑦

「マリス!!学園の合否が届いているわよ!」


母の声で目を覚ました僕はリビングへと足を運ぶ。

母から受け取った封筒を開けると、合格、の文字が記載されていた。

三色魔導師である以上よほど学科試験が悪くなければ落ちることはないと思っていたので、大して感動はない。


「良かったなマリス!それでどうだ、他の生徒を見た感じは。」

「んー三色魔導師は何人かいたよ。そんなに目立たなくて済むかも。」

「それは良かった!友達はできそうか?」

「なんか友達だって一方的に言われた人はいるかな。」

「おお、なんてやつだ?もしかしたら父さんの知り合いの息子さんかもしれないからな!挨拶しておかねば!」

「フェイルっていうイケメンだったよ。」

「フ、フェイル……?そ、それってワーグナー公爵家の……か?」

「あーなんかそんな家名だった気がする。途中で逃げて来たからよくわかんないけど。」

父は顔面蒼白、母は既に白目を向いていた。


「に、逃げたってのは……どういうことなんだ?」

「ん?いやなんかうるさかったから。目立つの嫌だし。」

「ま、待て待て。うるさかった?ワーグナー公爵家だぞ?うるさかったから逃げたのか?」

何度もしつこく聞いてくる父にウンザリしていると、正気に戻ったらしい母まで問い詰めてきた。


「マリス!ホントにワーグナー公爵家なのね!?逃げたってどういうことなの!?」

「僕目立つの嫌だって言ってたじゃん。あんな金髪イケメンと一緒にいたら目立って仕方がないから逃げたんだよ。」

「なんてことを……。」

「あ、でもフェイルが父さんの事知ってたよ。」

「知ってた!?ちょっと待ってくれ詳しく、もっと詳しく一から説明してくれ!!!」

あまりのしつこさに嫌気がさすが、ここは説明しておかないと後から面倒だと思ったので出会った所から全部話した。


「なるほど……と、とにかく無礼な事はしていないんだな?」

「フェイルにはね。でももっとうるさいロジータ?みたいな名前の子は無視したけど。」

「ロジータ?まさかロゼッタ様のことか?」

「あ、そうそう、そんな名前だった。」

「待ってくれ、もう父さんは頭が追いつかない……。」

「ロゼッタ・クルーエル様のことを言ってるのかしら?」

「そうそう、そんな名前。赤髪でずっとプリプリしてた子だったなー。あの子もうるさいから近付かないべきだなと思って無視して帰ってきたんだよ。」

「おおおおお前はなんてことを……。」

「じゃあ僕はジンとミアと遊びに行くから。」

「待て待て待て!!おーい!!!」

これ以上父さん母さんの話に付き合っていると夜までかかりそうだったから、サッサと家を出ることにした。


家を出て数分。

既に待ち合わせ場所に2人は居た。

ジンとミアはご近所さんだ。

だからこうして遊ぶ時はいつも決まった近場の待ち合わせ場所に集合する。


「遅かったなマリス。」

「悪い悪い。なんか父さん母さんがうるさくてさ。」

「うるさい?なんかやらかしたのか?」

おいおい、毎回僕が何かやらかすなんて思うんじゃないぞジン。


「昨日の話をしたらもううるさくてたまらないよ。」

「そりゃそーでしょうよ。公爵家の次男長女を放置してしれっと帰ってるんだから。」

「気にしすぎだよ父さんも母さんも。世の中大抵なんとかなるもんさ。」

「アンタのその楽観的思考が虹色魔導師バレに繋がらなければいいけどね……。」


ミアはそう言うがそんなミスはしない。

昨日オリジナル魔法を見せてしまったのはミスだが、あれ以降は気を付けると自分に言い聞かせているのだ。


「まあいいや、とりあえずみんな合格だったよね?」

「「もちろん。」」

「じゃあ明日から学園の寮生活が始まるんだし、買い出しに行こ!」


今日は生活道具の買い出しだ。

学園に入学すると全寮制の為、生活道具は自分で用意しなければならない。

これは、爵位関係なく誰しもが公平に、ということで学園は用意してくれないのだ。

ただ用意する生活道具の質は各家庭により差は出ると思うが。


「まず衣類はあるからいいとして、調理器具とか家財道具が必要かな。みんなお金は持ってきてる?」

「あたりめぇだろ、親が用意してくれたやつ全部持ってきた。」

「僕も。まあそんなに高価は物は買えないけどね。」

男爵位は確かに貴族ではあるが、平民よりは裕福といった程度でそこまで豪遊できるほどお金はない。

むしろ大商人の家庭に生まれたほうがよほど裕福だろう。

流石に子爵ともなれば生活は一変するのだろうが、そこら辺はテレーズさんにも聞いたことはない。

でもテレーズさんの私服を見る限り割と高そうな服だった。

てことは子爵からはそれなりにお金を持っているのだろう。


生活道具をあらかた買い揃えた僕らは一度昼食にすることにした。

「後はなんか買う物あったっけ?」

「生活を楽にする魔道具とかどうよ?」

「あーそれはありね!ボクはまだお金に余裕があるけどみんなはどう?」

「俺もまだ大丈夫だぜ。」

「僕も大丈夫だよ。魔道具かぁ、どこの店に行くのが一番いいかな。」

魔道具には様々な物がある。

衣類を一瞬で洗い乾燥まで行う瞬間洗濯機だったり、飲み水が無限に湧き出る無限水筒だったり浮遊することができる物だったり。

とにかくあれば便利な物だがなくても困らない、といった感じだ。


「あら、貴方達は……確かマリスの友人だったかしら?」

昼食をすませていると、後ろの席から聞き慣れた声がする。

振り返ると、案の定レイさんがいた。


「あ、どーも。」

一応頭は下げておく。

すぐに向き直すとまた昼食を再開した。

すると小声でミアが耳打ちしてくる。


「ちょっと……マリス……あの人伯爵令嬢でしょ?そんな対応してていいの?」

「大丈夫だよ。あまり接点を持つと面倒な事になりそうだし。」

「あらそう、面倒な奴でごめんなさいね。」

聞こえていたのか真後ろに立ったレイの目は冷たくマリスだけを見つめていた。


「「あ……。」」


ミアとジンも気付いたらしく食事を口に運ぶ動作のまま固まってしまった。

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