虹色魔導師は目立ちたくない②

「そんな、ば、馬鹿な……。」

「ふ、ふふふ、まさかこの歳で伝説を見ることが出来るとは……な。」


学園長は不敵に笑うがレイは驚愕と恐れが入り混じった顔を僕に向ける。


「これで分かってもらえたでしょう。私がなぜ死の契約などという強力な契約魔法を使ったか。」

「確かに、これはおいそれと他言できるものではないな……。さっき言っていた彼の家族とテレーズ子爵しかこの事は知らないということか?」

「いえ、もう2人知っているものがいますが今は関係ありませんので紹介は省かせて頂きます。」


未だ口を開けたままのレイは放置して、話は進んでいく。


「それで、この秘密を儂に伝えてどうするつもりだ?」

「この子は今年ここ、魔導師養成学校グランバード学園の入学試験を受けます。ですが入学試験の際に魔色測定がありますね?他の生徒の前で行ってしまえば彼の虹色魔導師という秘密はバレます。なので、校長には上手く取り計らってもらいたいのです。」

「まあそれは何とかしよう。だが何故公にしない?マリス君、これを大体的に広めれば富と権力もぶっちゃけると女も好き放題出来るぞ?」

いきなり僕に話を振られ、動揺する。

ちらっとテレーズ子爵を横目で見ると、軽く頷いている。

ここは僕自身で答えろと言うことか。


「僕は、目立つ事が嫌いです。」

「目立つ事が嫌い……か。まあ確かに世界で一番有名になることは確実であろうな。」

「静かに悠々自適に生きる事が僕の望みです。もしこんな事が広まってしまえば多分筆頭魔導師として抱え込まれ自由はなくなります。僕はそれが嫌で目立ちたくないんです。」

「なるほど、理解した。本来であれば国を挙げての快挙となるというのに……。仕方あるまい、この歳で伝説を見せてもらえたのだ。協力しよう。」

「ありがとうございます!」


学園長は伯爵らしい圧を感じるが、話せば分かってくれるタイプだ。

貴族によくある、格下の言葉は耳に入れないというタイプではないようだ。


「それで、テレーズ子爵。何かしら策があるのだろう?」

「ええ、彼には入学時三色魔導師として入ってもらいます。三色ならばエリートには違いありませんが、首席で卒業し平民から貴族へと成り上がったレオンハート男爵の息子だと分かれば周りも納得するでしょう。」

「ふむ、それでいこう。後は属性を決めておかねばならん。」

「属性は汎用性の高い赤と青。火と水属性は入れておいた方がいいでしょう。もう1つは、マリス君、どの属性を選ぶ?」

「あー確か黄色が雷属性でしたよね?黄色にします。」

「赤青黄色か、攻守バランスの整った色合いだな。間違っても他の色は見せるでないぞ?」

「はい、分かっています。」

極稀に後から色が出現する後発性魔色症というのがある。

本来は生まれ持った色の数は変わらないが、本当に極稀に後から色が増える者もいるらしい。

僕が間違えて他色を使ってしまうような最悪の場合、後発性だったということにするらしい。

もちろんその場合は四色魔導師になるわけで三色とはまた違った人生を歩むことになってしまうが、虹色がバレるよりはマシである。


「であれば、レイにこの話を聞かせておいて良かったかもしれんな。バレそうになった時同期でフォロー出来るものがいれば心強いだろう。」

いきなり自分の名前が出たからかずっと固まっていたレイが動き出した。


「あ、はいそうですねお祖父様。私が責任を持って必ず彼の正体がバレないようにします。」

「うむ、頼んだぞ我が孫よ。」


しっかりと僕の目を見つめそう言ったレイの顔は真面目な顔付きだったが、美しい少女に見つめられた僕は目を逸らしてしまった。

それを気にしたのかレイが僕の目の前まで歩いてくる。

「マリスだったわね、レイ・グランバードよ。宜しく。」

そう言いながら手を差し出してきた。

僕は片膝を付き、自己紹介をする。

「マリス・レオンハートです。宜しくお願いしますレイ様。」

念の為爵位の高いレイには様を付けたようないい気がしてそう言ったが、気に食わなかったのか顔を顰める。


「レイでいいわ。爵位は上でも貴方とは同期になるでしょう?様なんて付けられたら友達と言えるかしら?」

「あ、レイ、さんでいいですか?まだその呼び捨ては慣れないので。」

「まあいいでしょう。」

友達になったと言えるのか?

今このやり取りだけで?

しかし、こんな美少女と友人関係になってしまえばそれはそれで目立つのではないか?

あまり親しくしすぎないほうが良さそうだ。


「よし、これで話は付いたな。入学試験は明日だが、落ちないでくれたまえよマリス君。試験に合格出来なければここでの会話も意味がなくなってしまうからな。」

魔導師養成学校に通うのは魔導師の義務といったが、試験に落ちればその限りではない。

試験に落ちるような落ちこぼれは国にとって必要のない人材という扱いになり、魔導師以外の仕事を探す羽目になる。


「はい、明日の試験。全力で臨みます。」

「うむ、その意気だ。頑張ってくれたまえ。」



「良かったじゃないかマリス君。あんな美少女と仲良くなれる機会なんてそうないよ。」

帰り道テレーズさんはからかうようにそう言う。

「いやーあんな美少女と仲良くなんてしてたら目立つじゃないですか……僕は平穏がいいんです。」

「はあ、変わらないな君は。私だったら喜んで仲良くなるというのに……。」


テレーズさんはそう言うが、あんな美の化身みたいなレイと仲良くなんてなってみろ。

同じ男子生徒の目線が恐ろしい事になるわ。


「まあなんにせよ校長が話の分かる方で良かったよ。これで平穏な学園生活が送れるね。」

「そうですね、僕がミスしなければですが。」

「間違っても赤青黄色以外の魔法は使わないようにね。流石に自らバラしてしまえば私達でも庇えないよ。」

「勿論です。気を付けて学園生活を送るつもりですよ。」


後は明日の試験に受かればいいだけだ。

他の生徒はどんな生徒がいるのだろうか。

少し楽しみになってきた。

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