虹色魔導師は目立ちたくない③
試験当日。
マリスは受付を済ませて、待機所の椅子に腰掛ける。
「おまたー!」
元気のいい明るい声を掛けてきたのは僕の友人の1人、ミア・テンセント。
テンセント男爵の令嬢に当たるが男爵が集まるパーティで知り合い仲良くなった。
歳も同じだった事も仲良くなれるきっかけになった。
ショートの髪がよく似合う彼女も美少女と言っていいだろう。
「受付が混んでてさー、ボク途中で寝そうになったよ。」
「寝るなよ。」
いつも通りのやり取りを交わしていると、一人の男が近付いて来た。
「わりぃ!!待たせたな!!」
「いや、ミアも今来たとこだしそんな待ってない。」
「まじか!受付めちゃめちゃ混みだしてよー、やっぱマリスの言った通り早めに来といて良かったぜ!」
少し口の悪いこの男も僕の友人だ。
名をジン・カッツバルク。
彼も男爵家の1人だ。
ミアと同じくパーティで知り合い仲良くなった。
僕と真逆の性格をしており、良く仲良くなれたなって言うくらい目立ちたがり。
金髪で逆立った髪が不良を彷彿とさせるが、根は真面目な熱い男だ。
「はい、遅刻でーす。ジンは罰としてジュースを買ってきなさーい。」
「は!?いやいやマリスが言ってたじゃねえか!ミアも今来たんだろ!?」
「気にしない気にしない。さっさとジュースを買ってきなさい!」
「ちっ、分かった分かった!買ってくればいいんだろ!」
ブツブツ言いながらもしっかりジュースを買いに行くジンはやっぱり優しいんだろう。
ミアも遅刻したくせに良くそんな事が言える、と思うがこれが僕らの関係性だ。
軽口を言い合ったりできる、信頼できる友人達だ。
それに、僕の秘密を知っている数少ない人物でもある。
「そういや、マリス。試験の時はどうするの?」
「ああ、それなら大丈夫。三色だけ使うって学園長とも決めてるから。」
「あーそゆことね!バレそうになったらボクらが誤魔化してあげるよ!」
「助かる。」
そろそろ自分達の番だ。
試験は単純。
実技と学科だけだ。
これから行うのは実技試験。
でかい広場の真ん中に出て、試験官の言う通りに自分の使える魔法を披露する。
「次!ミア・テンセント!」
「あ、ボク呼ばれた!行ってくる!」
ミアが前に出て、試験官と何やら話をしている。
多分指示を受けているのだろう。
しばらくすると試験官がゴーレムを召喚した。
ははあ、なるほど。
あれに向かって魔法を撃つってわけだ。
それで個人の実力を測るって寸法だな。
ミアは魔力を練りだしたようだ。
身体から青と緑の魔力線が浮き出てくる。
「
ミアの掌から湧き出た水が風によって巻き上げられ水分を纏った台風となる。
観覧席まで届く僅かな風がその風力を物語っている。
凄まじい勢いでゴーレムへと向かう暴風。
風が止んだあとには粉々になったゴーレムが地面に崩れ落ちていた。
「ふむ、二色魔導師だな。それなりに威力もあるようだ。よし、戻っていいぞ。」
「はーい。」
戻ってきたミアは満足そうな顔を浮かべている。
「お疲れミア。」
「全力でやってきちゃった!」
試験の成績によって振り分けられるクラスが決まる。
一級、二級、三級とあり、言わずもがな一級は特に優れた者だけで構成されるクラスだ。
二級は二色以上であれば入れるクラス。
三級は一色かあまり魔法が得意でない二色魔導師が入るクラスとなる。
待遇も変わるそうで、みな二級以上を目指しているらしい。
「あれだけ派手にやれば実技はいい点出るだろ。」
「だったらいいけどねぇ、あ、次ジンの番だよ。」
「お、ほんとだ。行ってくるわ!」
ジンもミア同様、試験官と一通りやり取りをした後ゴーレムに向かって魔力を練りだす。
ジンの身体からは赤と橙の魔力線が浮き出てくる。
「
炎を纏った岩石が掌に生み出され次第に大きくなっていく。
直径40センチ程まで大きくなるとそのまま撃ち出される。
弾丸のような速度で撃ち出された炎を纏った岩石はゴーレムに当たると衝撃音を響かせながら砕けた。
ゴーレムはバラバラとまではいかなかったが、上下が分離するほどのダメージを受けたみたいだ。
戻ってきたジンはちょっと悔しそうな顔をしていた。
「へっへー!ざんねーん!ボクはバラバラに出来ましたけどー?」
「う、うるせぇな!!おれのはそこまで豪快な技じゃねぇんだ、繊細な技なんだよ!」
「はー!?ボクも繊細な技ですけどー!!」
「お互い十分実力は発揮できたと思うよ。喧嘩しない喧嘩しない。」
何かあるとすぐに競おうとする2人の悪い癖だ。
「次!マリス・レオンハート!」
「呼ばれたから行ってくる。」
「「頑張れよ!!」」
2人からの激をもらい試験官の所まで歩いて行く。
「おお、レオンハートの息子か。」
「え?」
「あ、いやな。俺がまだ新任の教官だった時にレオンハートが通っていたんだ。首席で卒業していったやつだしな、覚えているぞ。」
この試験官は僕の父親を知っている人らしい。
「よくそんな昔の事覚えていますね。」
「そらそーだ!アイツは平民から貴族へと成り上がった世にも珍しい例だからな!実力で爵位を勝ち取ったやつだ。」
そうだった。
父は首席で卒業したおかげで平民から男爵位となった。
だからこそ教官の覚えもいいらしい。
「お前にも期待しているぞ!」
「あ、はい。」
期待されても困る。
こっちは三色だけでやるつもりなんだから。
ゴーレムが召喚され試験官が離れると、魔力を練り始める。
赤と青、そして黄色の魔力線が浮かび上がると観覧席からざわめきが聞こえ始めた。
「おい、あいつ三色魔導師か!?」
「ちっエリートかよ。」
「どこの家の方かしら?」
三色の魔力を見た感想は様々なようだ。
「
右手に炎、左手に雷を纏わせ身体の前には水球を生成する。
炎と雷は水球に触れると水蒸気爆発を起こし、その推進力を得た水は薄い刃となり、ゴーレムへと飛翔する。
パシュッ
気の抜けたような音だけが聞こえ、ゴーレムは綺麗に真っ二つとなった。
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