虹色魔導師は目立ちたくない①

16歳になったマリスは今年魔導師養成学校に入学する。


10歳で魔色測定をした際、七色魔導師であることが分かってしまった。

ただ、マリスは目立つことが嫌いだ。

七色なんて事が世間にバレたら、確実にお祭り騒ぎとなる。


静かに悠々自適な生活を夢見るマリスにとって、七色であることがバレるのは死活問題である。

父と母もそれを理解してくれ、表向きは三色魔導師である事とした。

テレーズ子爵もそれに賛成し、上手く誤魔化しておくと言ってくれた。


本来であれば皇帝に謁見し、国の筆頭魔導師として国を守る立場であることは分かっているが、そんなことをすれば腕自慢の馬鹿どもが襲い掛かってくるだろうし、それに多分忙しくなる。

各国の著名人とも上辺だけの貴族的会話を行わなければならないだろうし、そんな息苦しい生活はしたくない。

だからこそ三色であることにしたのだ。


ただし、三色ですと言っても入学時には再度魔色測定が行われてしまう。

学校長には先に話を通しておかなければならないと、テレーズ子爵と共に校門をくぐった。



「失礼します。」

学園長室に入ると、学園長ともう一人女性が居た。


「ふむ、テレーズ子爵とレオンハート男爵のご子息だね。何やら急を要する話があるとか。」

「はい、私の横にいるマリス君についてです。」

余計な事は言わないほうがいいと言われていたので黙って子爵の話を聞く。


「まさか、我が校を首席で卒業したレオンハート家のご子息をコネで入れてくれとでも言うのではないだろうね?」

「ええもちろんです。もしそんな話を持ってくるなら私ではなくレオンハート男爵が共に来ているでしょう。」

「確かに。では何故ここに来たのかね。」


テレーズ子爵はチラリと学園長の横に佇む女性を見ると口を開いた。

「失礼ですが、この話は学園長以外に聞かせる訳にいきません。そちらの女性の退室を願いたいのですが。」

「ああ、すまない。紹介が遅れたな。この子は儂の孫だ。」

「レイ・グランバードです。初めまして神殿魔導師テレーズ・ゼクシア子爵。」

クールな女性というものを体現したかのような透き通った声に凛とした顔立ち。

美少女と誰もが答えるだろう。


「今年入学予定の子だよ。」

「では尚更退室を願いたいのですが。」

「ほう、もしかするとマリス君と同期になるやもしれんこの子にも聞かせる訳にはいかないと。」

「恐れながら……どうしてもという場合は絶対に他言しないと契約して頂かねばなりません。」

伯爵の圧に負けじとテレーズ子爵は食い下がる。


「そこまでか。そこまでして隠さなければならぬことか。この子は私の跡をいずれ継いでもらう。故にここに立ち会わせているのだ。契約魔法は使えるか?それで縛ってもよい、この子にも聞かせる許可が欲しい。」

「分かりました。マリス君、それでいいかい?」

「ええ、大丈夫です。契約で縛るなら問題ないかと。」

「ありがとうテレーズ子爵、マリス君。ではレイこっちに来なさい。」

テレーズ子爵とレイは互いに見合って契約魔法を行使する。


「今から話す事柄を許可なく他言することを容認しない。これを逸脱したものは死に至る。」

その言葉を聞いた学園長は驚愕の表情になる。


「なっ!死の契約魔法だと!それほどまでに重要な秘密ということか。ふうむ、早く聞かせてもらいたいではないか。レイ、構わん受けなさい。」

「はいお祖父様。」


「我、テレーズ・ゼクシアの名に置いて、契約を。」

「我、レイ・グランバードは、その契約結びます。」

2人の呪文が言い終わると赤い魔法陣が2人を包む。

しばらくすると光は消え魔法陣も消え去った。


「これで契約は成りました。くれぐれもマリス君の許可なく他言はしないよう気を付けて下さい。もしも許可なく口を滑らせれば即座に死に至ります。お気を付け下さいレイ・グランバード殿。」

「ご忠告感謝致します。ですが私も伯爵令嬢。そんな簡単に口は滑らせませんわ。」


なぜ僕とレイで契約を結ばなかったのか。

テレーズ子爵とレイで契約を結んだ理由は1つ、単純に僕が契約魔法をまだ使えないからだ。

本来であれば入学して学ぶ事だが、流石は伯爵令嬢。既に習得済みのようだった。


「では本題に入りましょう。」

「早く聞かせたまえ、こちらはウズウズして年甲斐なく身体が震えておるよ。」

それもそうだろう。

死の契約を結ばなければ話せないような秘密などとんでもない大きな隠し事でしかない。

ディルティア学園長はそんな大きな秘密を知れることが単純に楽しみで仕方がなかった。


少し間を置き、テレーズ子爵は口を開く。


「ここにいる彼、マリス・レオンハートは虹色魔導師です。」


その言葉を聞いた2人は固まった。

呆然としたような顔で数秒間身動きしない。


「10歳の魔色測定の時、七色の魔力線を私含めてアモン男爵とその妻レイアが確認しました。」

未だ固まったままの学園長とは違い、レイは声を荒げた。


「あ、有り得ません!!!虹色魔導師など伝説の存在です!そこにいる彼がその伝説だとでも!?」

「そうですグランバード嬢。私は先程貴方とこの話を他言しないと死の契約を結びました。馬鹿げた話かもしれませんが絶対に他言無用ですよ。」

「馬鹿馬鹿しい!お祖父様!彼らは詐欺師です!この学校に入れるのは相応しくありませんわ!」


固まったままの学園長はレイの言葉に我に帰ったのか真面目な顔付きになる。

「テレーズ子爵、もしそれが本当ならとんでもない事だ。証拠は見せることが出来るか?」

「見せましょう。マリス君構わないね?」

「構いません。それで信じてもらえるのなら。」


魔色を見る方法は大きく分けて2つある。

1つは神殿魔導師が扱う魔色測定の魔法。

ただしこの魔法は神殿魔導師しか扱えない為テレーズ子爵がこの場に居なければ不可能な事だ。

もう1つは、僕自身が魔法を使う事。

七色という事は7属性の魔法が扱えるという事になる。

故に7属性全ての魔法を見せてしまえば、七色魔導師と言っているようなものだ。

一応他にも魔色を見る魔眼で相手を見つめるとか魔色測定可能な魔道具を使うなどもあるが、滅多にない事例だから今回は説明を省く。


「では、魔色測定!」

10歳の時に見た光景をもう一度見ることになるとは。

魔法陣が僕の身体を上下に動き七色の魔力線が漂い始め、しばらくすると身体に纏わりついてくる。

これを見れば誰であろうと虹色魔導師だ、と叫ぶだろう。

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