虹色魔導師は目立ちたくない⑤

「マリス……貴方は……。」

「え?いや何となく気になりまして。」


ミアとジンは憐れな者を見るかのような目で僕を真っ直ぐ見つめてくる。


「な、なんだよ。」

「目立ちたくないってのは、嘘なのかなぁ?マリスくぅん?」

ミアが笑っているようにみえて目が笑っていない。

怒らしたみたいだが、何のことか分からない。

耳を引っ張られミアが小声で怒鳴ってきた。


「バカなの!?せっかくレイ様が誤魔化してくれたのにアンタがそんな事言い出したら意味が無くなるでしょ!」

「え?」

「だから!属性じゃないのに魔法って作れるの、って聞いたでしょ!作れる訳ないじゃない。そもそも自分の属性以外は使うことすら出来ないんだから!」

「あ……。」

「やっと気付いた?アンタはそれは嘘です、自分で作りましたって言ってるようなものよ。」

やっと意味がわかった。

僕が何気なしに聞いた質問が駄目だったらしい。


「あー、レイさん。今のは聞かなかったことに……。」

「貴方は私の好意を無駄にするのがお好きなのかしらね。」

「いえ……そんな事は……ないです。」

レイさんは呆れたような顔で溜息をつく。


「どういう事だ?伯爵様って属性違っても魔法作れるのかよ。」

「有り得ないわ!でも……伯爵様ならあり得るかも?」

「そんな人に師事してぇ!」


うむ、上手くいったようだ。

他の聞き耳立ててた生徒達は上手い具合に勘違いしてくれてる。


「はあ、なんとかなりそうね。マリス、貴方は今後喋る前に一度考えてから言葉を発するように。」

「はい……。」

それだけ言うと、レイさんは自分の席に戻って行った。


「はー良かった。勘違いしてくれて助かったねマリス。」

「そうみたいだな、世の中うまくいくもんだよ。」

「アンタが変な事口走らなければ良かっただけの話だけどね。」

「そうだぜマリス。流石の俺でもヒヤッとしたぜ。」


馬鹿筆頭のジンにまで呆れられたのは納得いかないが、今回は僕が悪い。

反省しよう。今後は喋る前に一度考えてから口を開こう。


「「「おおおおお!!!」」」


反省しているといきなり試験会場が沸いた。

何事かと顔を上げると、金髪の凄い高そうな服を着たイケメンが試験を受けるようだ。


「誰?」

「知らないの、マリス。あの人は四大公爵家の1人、ワーグナー家の次男、フェイル・ワーグナー。大物だよ。」

「へー。」

あんまり知らない。

だって僕らは男爵。

公爵なんて雲の上すぎて知ってるわけない。

知ってるミアがすごいのだ。


「おいおい、俺でも知ってるぞ。」

ジンも知ってた。

なるほど、知らないということは常識知らずのようだった。


「では、フェイル・ワーグナー!実技試験を始める!」

試験官の声と同時にゴーレムが召喚される。


フェイルは手をゴーレムに向け魔力を練り始める。

青、緑、黄色の魔力線がフェイルの体に纏わり付く。


「俺が、最強だと知るがいい!風炎雷撃フレイアボルト!!」

炎が渦を巻きながらゴーレムへと真っ直ぐ飛ぶ。

当たるか当たらないかの瞬間雷が鳴り響き炎の渦の中を直進する電撃。

三属性を纏った一撃はゴーレムをバラバラにしその威力を物語る。


「ほお、流石はワーグナー公爵家の次男だけはある。三色魔導師か。よし、席に戻っていいぞ。」

「ふっ、俺があんな良くわからない男に負けるはずがない!」

そう言い観覧席を睨みつけている。

心なしか僕を見ている気がしないでもないが。


「マリスの事見てるよあの人。」

気の所為ではなかったようだ。


何故かはわからないが、公爵家の方に目を付けられたようだ。

目立ちたく無いのにやめて欲しい。


その後も何度か三色魔導師が現れたが、途中から眠くなって居眠りしてしまったので誰が誰か覚えていない。


「よし、これで実技試験を終了する!次は学科試験だ!1時間後指定の教室に向かえ!」

試験官の大きな声で目が覚めると、みな立ち上がり各々指定された教室に行く為動き始める。


「ミアとジンは何処の教室?」

「ボクはBクラスの教室だってさ。」

「俺はCだ。」

「じゃあみんなバラバラか、僕はAだし。」

後で合流すると約束して、各々の教室を目指す。

この学園は想像以上に敷地が広い。

アステリア帝国最大の学園と言われるだけはある。


地図を片手にウロウロしていると、見知った人を発見した。

レイ・グランバードだ。

しかし周りは貴族令嬢が集まっている。

近寄れば僕みたいな男爵はボコボコにされてしまいそうだ。

そう思い、少し離れて歩いていると不意に後ろから声が聞こえた。


「おい!!!オリジナル魔法を作った男!」

ふむ、確実に僕の事だろう。

振り返ると、あの金髪イケメンが立っていた。


「えと、何でしょうか。」

「何でしょうか、ではない。合格していればお前と俺は同期だろう。敬語は必要ない。」

「いや、しかし公爵様に不敬があっては……。」

「俺が構わんといっているのだ。知っているだろうが名乗っておく。俺はフェイル・ワーグナー。」

知ってる。

なんて言わないけど、頭を下げておく。


「いや、名乗れ!!俺が名乗ったんだぞ!お前の名前は!?」

「あ、そういう意味でしたか。僕はマリス・レオンハートです。」

「ん?レオンハート?あのレオンハート男爵の息子か!」

「どのレオンハート男爵かは知りませんが、多分そのレオンハート男爵であってると思います。」

「イライラするやり取りだな。まあいい、納得できた。お前が優秀な魔導師だということが。」

レオンハート男爵の息子だったら優秀だって、何を根拠に言ってるんだろうか。


「お前は実の父親がどれほど有名か知らんのか?」

「はあ……。」

「レオンハート男爵は平民にして爵位を得て、初めて皇帝に謁見した男だぞ。」

「なるほど。」

「な、なんだ温度差があるな……。」

温度差って言われても、毎日一緒にいる父親なんだ。

そんな凄い凄い言われてもあまり実感がない。


「良くわかっていないようだな。いいか!元平民が初めて爵位を得たのだぞ!?それも皇帝への謁見付きでな!!謁見など普通の男爵子爵程度では叶わんというのにだぞ。」


はあ、それは凄い、んだろうな。

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