歩みを追って

 むかし、ドライブ中に、とある公設の交流施設に車をとめた。屋外にある公衆トイレを利用したかったからである。

 差し障りなく用は足したのだが、車に戻る途中で音楽を耳にした。そちらに注目すると、施設の正面で、地元中学の吹奏楽部が野外演奏をしていた。くだんの施設が創立何周年かを迎えたので記念演奏をしていると、引率の教諭とおぼしき人物が教えてくれた。

 技術的には、ど素人の私が聞いていても拙さがすぐわかった。しかし、立ち止まって聞いているうちに大いに感動した。

 純粋なる誠意や情熱からなる演奏は、たしかに、技術的な枠を越えて人の心を動かす。

 長々と語ったが、本作に登場する主人公達もまたそうした存在に違いない。だからこそあの犬が現れた。

 作中の舞台となる施設で、人生の終焉を迎えつつある人々の有形無形の念と主人公達の演奏が合わさって犬を招待(!)したのだろう。

 必読本作。

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