特養老人ホームに演奏しに来た私は、柴犬と出会う。しかし、利用者にアレルギー持ちの人もいるであろう施設に、犬がいることなどあるのだろうか?そう思って職員に尋ねると、やはり犬はいないと言う。ところが、柴犬は音楽に合わせて、まるで歌うように遠吠えして…音楽の描写が、神秘的で、優しくて、綺麗で。そんな音楽と合わせて一緒に過ごせたのは、幸せだったろうな。心からそう思う。
このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む(394文字)
主人公はバイオリニスト。カルテットのメンバーとして、老人ホームで慰問演奏を行っている。そんな主人公が目にした不思議な柴犬。始めは子犬だったのに、演奏するたび成長してゆく。どうやらホームの職員さんには見えていないようで・・・?最後まで読むと意味が分かる感動的な短編です。寒くなってきましたが、心あたたまる本作でほっこりしましょう!
自己表現としての音楽が溢れる中、この作品の中で流れるメロディは、どこまでも優しく人の心と命に寄り添っている。自分よりも、誰かを想って奏でる音色の、切なく張り詰めた美しさに涙が零れた。つい自分の想いが先行しがちな日々の中で、立ち止まってそこにいる他者に目を凝らしたい。