親子

 最近、物資収集時に、見つけたが、持ち帰れはしないものや、持ち帰り切れないものを保存した場所の備蓄が不自然に減っている。

 多くの子供たちを養っていかなければいけないのだから、まだ物資に余裕があったとしても、確認を怠ってはいけない。食料を生産する工場などがいまだ稼働しているわけもなく、農業でもしない限りは自給自足は不可能。

 ましてや食べ盛りの、またはこれからそうなるであろう子供たちがいる。始められる時に始めておかなければ、間に合わなくなってしまう。

 幸い食料品として見られていないからか、食料がなくなっていても、野菜などの種子はそのままだ。

 子供たちに花の種を渡し、育てさせるのもいいだろう。人間は、花を見ることで心をいやせる便利な生き物だ。娯楽のあまりない今、少しでも対策を考え開ければいけない。

 そんなことを考えつつ、今日もまた物資の残り具合を確認する。

 複数ある物資集積所のほとんどはいまだ大量の箱や袋があいもかわらず積み重なっているが、最近手を付け始めた場所はもうすでに20分の1を消費しきってしまっている。やはり農業を始めるべきなのだろうか。ならば庭や公園だったであろう場所を探しておかなければいけない。

 そして一番遠い、比較的最近に集積所として使い始めた場所に訪れる。最近個々の物資が不自然に減っている。やはり今日も、端のほうにあったはずの食料が一人分よりは少し少ないくらい減っている。

 荒らされた時間はわからないが、もうすぐお昼時、今、夜に出歩きたい人は少ないだろうから、荒らしに来るならばもう少しで来るはずだ。

 慎重に、息を殺し、積み上げられた箱の間に身を隠す。

 別に捕まえて何かするわけでもないが、理由などは聞いておきたいし、もしかなうのならば連れて帰りたい。

 人手はいつでも足りていないため、大人ならば大歓迎だし、それ以外の年齢層ならば、尚更保護するべきだ。

 十分ほど、立っただろうか、閉めていた入り口が少しずつ開き、中に光が差し込む。

 しかしすぐにその光は大小二つの影を映し出した。片方は大きさからして子供、髪の毛や服装から見るに女児だろうか。もう片方は大きさを見るに大人。女児の親か保護者なのだろうか。

 その二つの影の主が物資をあさり始めあところで、隙間を抜け出し、その二人に声をかけ───ようとした。

 音は立てていない。だからその二人には気づかれていないはず。それなのに、こちらをちょうど振り返って女児と目が合った。

 相手は子供だ。偶然振り返っただけというのも考えられる。しかし、そんなことを考える暇もなく、一つ、妙な点に気付いた。

 女児の瞳を見ると、そこの無い、暗い穴を除いているかと錯覚させられる。

 決して生きていくのが楽な世界でも、楽しい世界でもない。

 しかし、親らしき人と一緒にいる女児が、あのような瞳をするだろうか。

 暗く、希望の光が見つからないその瞳は、すべてに絶望したものがする瞳ではないのか。

 恐怖。恐ろしいものを見てしまった。見てはいけないものを見てしまったという思いが体中を駆け巡る。

 相手は子供。どんな瞳をしていようとただの子供であるはずだ。保護すべき、尊い生命であるはずだ。

 そんな存在から逃げ出してしまうなんて──という罪悪感と、なぜ親であろう人物はこちらに何の反応を示さなっかったのかという疑問が生まれたのは、逃げ帰り、          他の大人にその出来事を報告した直後だった。

 自己嫌悪と疑問が頭を渦巻く。渦巻き、渦巻き、終わりのない螺旋へとなろうとしたその時、少し前に保護した少女がどこにもいないことに気が付いた。

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