第3話:届かない想いが溢れ出しそう。
あの雨の日の傘の中の仲里さん、とってもいい匂いがした。
僕は一人っ子だし、女の子の姉妹がいないから、僕と同じ年の女子と
接近したことも、そばで話をするなんてこともしたことがない。
だからなのか異性に対して異様に興味がある。
子供の頃はひとりがいいと思った。
母親の愛情を独り占めできるって思ったから・・・。
今は逆にお姉さんか妹がいたらよかったのにって思う。
だから自分とは違う存在について知りたいって無い物ねだりのように
思ってたりする。
柔らかくてナイーブで暖かい・・・そう言ったイメージ・・・。
女子には興味はあるけど、 面と向かってなんてドキドキして何も言えない。
何か言おうとすると余計なことやバカなことを口走ってしましそう。
異性を知らない僕は女の子の前だと自閉気味になるんだ。
あの相合傘の日以来、僕はますます仲里さんにのめりこんでいった。
毎日彼女の元気そうな顔を見てるだけで幸せな気分でいられた。
だけどその反面、それとはうらはらに彼女に近ずけないってことが僕を
切ない気持ちにさせた。
少しは彼女と話せる様になったとは言え、次の日になるとリセットされて
しまってやっぱり話せない。
最初の頃は転入してきた彼女のことが珍しかったのか数人の女子が彼女の
周りにタムロしていたけど、それも落ち着いてくると彼女は、ほとんど自分の
席でひとり座ってることが多くなった。
だから話しかけるチャンスはあるんだ。
ああ、もっと彼女に近づきたい。
僕は彼女のことはほとんど知らない・・・同じクラスの女の子、隣に住んでる
女の子、そのくらいしか知らない。
性格だって分からない。
彼女と話ができるのは、朝の通学時間と下校時のバス停とバスの中。
僕と仲里さんはバスを待ってる間ベンチに座っていた。
でも、なにをきかっけに話せばいいんだろう?
(なんでもいいから話せばいいんだよ)
僕の中のもうひとりの図図しいいやつが背中を押そうとする。
だけど、無理。
時間だけが空しく過ぎていく。
結局なにも話せないままバスを降りる僕たち。
僕は同じ方向に帰っていく彼女の後ろ姿を見ながら、まるでストーカー
が後をつけるみたいに、とぼとぼと彼女の後を帰る。
それでもマンションの前まで来ると、彼女は振り向いて「さよなら」
って挨拶をしてくれる。
それは同じマンション住む僕へのせめてもの思いやりなんだろうか。
「さよなら」なんて言われるとますます切ない気分になる。
彼女のこと、過去やプライベートなことだって知りたいって思う。
でもそこになにが出てくるか分からないってのも怖い気もする。
その一番の理由は、彼女に彼氏はいるんだろうかってこと?
あんなに可愛いのに・・・いないほうが逆におかしくはないか?
もしいたら、絶望的・・・でもそれも知りたい、確かめてみたい気もする。
いろんなことが頭の中で錯綜してはマイナスな妄想だけが膨らんでいく。
悶々とした日々が続く中、学校が休みの日偶然マンションの外で仲里さんと、
ぱったり出会うことがある。
そりゃね、隣どうしなんだから、そういうことだってあるよね。
でもお互い、ちょこんと頭を下げて挨拶だけ、するとすぐ彼女のお母さんが
出てきて、僕を見つけると「おはようございます」って笑顔で挨拶してくれる。
彼女のお母さんとはこれまで何度かマンションも前で会っていて、そのたび
感じのいいお母さんだって思ってた。
そんなお母さんに育てられた仲里さんも、きっといい子なんだって僕は思った。
仲里さんとお母さんがどこかへ出かけていく後ろ姿を見ながら、僕は
このまま仲里さんと、なにもないまま終わっちゃうのかなって少しナーバスな
気持ちになった。
このままじゃダメなんだぞって自分に言い聞かせるけど、どうしても肯定的に
物事を考えられない。
なにかをきっかけに未だ彼女に届かない想いが、嗚咽のようにとめどなく溢れ出して
こぼれ落ちて止まらなくなりそうだった。
こんな想いをこれから3年間も悶々と続けるのか?
僕に恋愛感情なんかなかったら・・こんなに苦しむことはなかったのに・・・。
仲里さんさえ転入して来なかったら・・・でもそれは言っちゃいけない。
切ないです、仲里さん・・・切ないよ。
想いを伝えられないって、求めるものはそこにあるって言うのに・・・。
めちゃ女々しいって思うよ・・・でもそれが僕だから。
つづく。
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